魔王城の人たち②
レミとフローラ
魔王城の奥、薄暗い石造りの廊下に面して資料室はひっそりと存在していた。
魔族はそもそも記録を残すことに熱心ではない。だからこの部屋も、図書館と呼ぶにはあまりに心許ない。並んでいるのは、交易で流れ込んだ雑多な書物や、古ぼけた羊皮紙、どこの誰が書いたのかも怪しい断片的な記録ばかりだった。
「うーん……やっぱり、ないなぁ……」
背伸びして棚の最上段まで探っていたレミが、ついに肩を落とす。求めていたのは近隣の地誌や交易の記録だったのだが、どこを探してもそれらしいものは見当たらない。
「ま、期待はしてなかったんだけどね」
気分を切り替えるように伸びをして、資料室を出る。そこへちょうど、廊下を歩いてきたフローラと鉢合わせた。
「あら、レミちゃん」
「フローラ。奇遇ね、ゼノのところ?」
「そうそう。リリスさんたちがラグノールに行ってるから、留守番組もなんかしないと退屈でしょ? 何か楽しいことでもできないかなーって思って」
フローラは両手を後ろに組んで、いつもの調子で能天気に笑っている。
「楽しいこと、ねぇ……遊び?」
「遊び半分、役立ち半分、ってところかしら」
「ふぅん……」
レミは肩をすくめる。
「それで、レミちゃんは何をしてたの?」
「調べもの」
「え、新しいイタズラの方法とか?」
フローラがからかうように言うと、レミはジト目を向けた。
「違うってば。周辺の土地とか交易の記録。たまには真面目なこともするの」
「……レミちゃん、熱でもあるの?」
「あんたねぇ……!」
ふたりの軽口が廊下に響く。と、次の瞬間——
ドドドドドッと、床板が揺れるほどの全力疾走の足音。
「あ、今日は誰だろ?」
「ガルド? フェンリル?」
魔王の執務室に勢いよく突っ込むのは、もはやこの城の日常だった。だからふたりも大して驚きはしなかったのだが、走り抜けていった人物を見て息をのむ。
「……今の、フィーネちゃん?」
「だったね……」
普段は静かで冷静な彼女が、鬼の形相で駆けていった。そんな光景は誰も見たことがない。
次いで、執務室のドアが壁に叩きつけられる轟音。そして——
「魔王様ァァァァ!!!!」
廊下中に響き渡る絶叫。
フローラとレミは顔を見合わせた。
「ゼノ……今度は何をやらかしたの……」
「あははっ!やば、これは面白くなりそう!」
興味津々のふたりは、足取りも軽く騒動の中心へ向かっていくのだった。




