ドミニク領内の調査⑨
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宿の一室に、ゆるやかな午後の日差しが差し込んでいた。戦いから数日が経ち、ユリウスはようやく落ち着きを取り戻しつつある。
レオンたちは宿屋の一室に集まっていた。ユリウスは湯上がりのようなさっぱりとした服装に着替え、深く腰を下ろしている。あの日の地下牢で見せた怯えた様子は、今はない。
「……ということが、あったんですよ」
そう言って、彼はひと息ついた。声には疲れが残っていたが、どこか安堵もにじんでいた。
「なるほど。胃薬で一儲け、というわけか」
レオンが肩をすくめる。
「それなら、自分で作って売ればよかったんじゃねえの?」
ダリウスがやや呆れ気味に言いながら頬杖をつく。
「……ある原材料が必要だったんですよ。王国内ではほとんど採れなくて、コストが合わなかったんです」
「原材料?」
「魔王領に広く分布している植物なんです。そちらでは雑草みたいに生えてるのに、王国ではほぼ手に入りませんからね」
「そこに目をつけた密輸組織と手を組んだ……ってわけね」
エレナが腕を組んで低く言った。
ユリウスは苦笑いを浮かべ、うなずいた。
「最初は合法的な取引だと思ってたんです。でも、だんだんと“おかしい”と気づいてきて。入ってくる物資が妙に豊富で、しかも品質が安定している……そう思うと全てが怪しく思えてきました」
「それで逃げようとしたのか」
「はい。でもすぐに捕まって……あの地下牢に閉じ込められました」
沈黙が一瞬落ちた。
「奴らの倉庫、妙に物が揃ってたな。魔王領からの違法な物もあった」
カイルが呟くように言った。
「魔王薬自体は大丈夫なのか?」
レオンが尋ねる。
「ええ、あれは僕が配合した胃薬です。変な成分は一切ありません。ただ……」
ユリウスは目を伏せた。
「他の薬の隠れ蓑に使われていたようです。無害な薬として世間に認知させて、違法薬を通すための……」
「なるほどな」
カイルが黙って机の引き出しから書類を一枚取り出した。
「これは潜入中に手に入れた資料だ。魔王領との境界付近に生産拠点があるらしい」
「ラグノール近郊……野盗が多い地域ですね」
シルヴィアが地図を思い浮かべるように言った。
「偶然じゃないかもしれないな」
さらに、カイルはもう一枚の書類を机の上に置いた。
「これは取引書類?この印影……」
エレナが目を細める。
「バルヴェルク国の王印だ」
カイルの声が低くなる。
「なんだと?同盟国じゃないか」
ダリウスが立ち上がりかける。
「証拠とは言い切れん。だが、調べる価値はある」
「拠点を確認する必要があるな。まずは国境の砦に行こう」
レオンが結論を下すように言う。
「ユリウスはどうする?」
エレナが目を向ける。
「王都に戻ります。事情を報告して、後は……できることを探してみます」
「一人で平気か?」
「ちゃんと乗合馬車を使えば安全です。密輸組織も今は表立った動きは見せていないようですから」
「火事場で討伐隊が荷を押収したらしいな。現物を抑えられちゃ、隠しようもないだろう」
「伯爵には会ったのか?」
シルヴィアが答える。
「まだ……。あまり口を開きたがらない様子です。今回の件、かなり応えてるようで」
「伯爵が言っていたな、あの組織は“ある王族からの紹介”だったと。この王印が証左か」
「ここを発つ前に、一度話を聞きたいところだ」
その時だった。
「……あの」
ユリウスが口を開いた。
「なんだ?」
「皆さんがあの村に来る数日前に、私と同じように連れて来られた女性がいました。情報通のようで、組織の尋問を受けていた様子でした……」
「今も魔王領の拠点に囚われている可能性がある、ということか」
レオンの目が鋭く光る。
「知り合いではありません。でも……気になる人でした」
「わかった。拠点を調べる際、見かけたら助け出す」
部屋の空気が、ひとつ、引き締まった。




