ドミニク領内の調査⑥
<戦闘と潜入>
火の粉が散った。夜の帳が降りる廃村に、鋭い風と叫び声が交錯する。
戦闘は既に始まって久しい。月明かりも霞む煙の中で、レオンたちは散開し、巧みに応戦していた。
高台に据えられた見張り台――そこに陣取るのはダリウス。ボウガンの弦を引き絞り、沈着な瞳で標的を捉える。
「……もう一人」
乾いた音が夜に響き、次の瞬間には矢が一人の敵兵の喉元を射抜いていた。動揺する敵兵たち。だが混乱は一瞬、すぐに新たな命令が飛ぶ。
「神官だ、神官を狙え!他は後回しでいい!」
矢面に立つのはシルヴィアだ。見張り台の入口を背に、防護壁の魔法を張り巡らせる。叩きつけられる火炎瓶が炸裂し、熱と煙が一気に押し寄せるが、光の盾が爆風を吸収し、彼女のローブを焦がすことはなかった。
近づいてくる相手に対してはメイスで牽制をする。
「もっと来なさい……まだまだ、こんなものじゃ倒れないわよ」
その姿はまるで神殿の守護像。だが、その構えは慎重だ。いかなる時も防衛線を一歩も越えさせない覚悟が滲む。
一方、レオンとエレナは戦場を舞うように駆ける。敵の包囲を意識し、逆にそれを攪乱するように動き回り、シルヴィアに敵が集中しないように援護する。
「動きを止めるな。狙いを絞らせるな!」
レオンの指示が飛ぶ。エレナの剣が振るわれ、足を止めた敵の脚を払うと、すかさずレオンが盾で殴り倒す。二人の呼吸は完璧に揃っていた。
――しかし、数では劣る。敵の包囲はじわじわと狭まっている。手綱を誤れば、その一瞬が命取りになる。
「囲め!相手は四人だ!一人やれば一気に崩れる!」
(ここからが正念場だな……)
…
そんな戦場の裏、廃村の裏手――瓦礫の影に潜んでいたカイルが静かに息を吐いた。
「よし……今が機だ」
仲間たちの働きが敵の注意を正面に釘付けにしている。それを見て取ったカイルは、足音を殺しながら動き出す。彼の狙いは、村の中心にある一棟の廃屋――事務所として使われていると目星をつけていた場所だ。
扉の鍵は外れていた。慎重に開けると、湿気と紙の匂いが鼻を突く。乱雑に積まれた書類が棚からはみ出し、机の上には半ば書きかけの伝票が散乱している。
「まったく……管理という言葉を知らんのか」
ぼやきながら、手早く紙束をめくる。
「やはり……密輸品か……」
そこには、明らかに違法と知れた品目の名がいくつも並んでいた。商品の記録、帳簿、出入りの履歴――そして。
「……あった。魔王薬」
魔王薬の記載もその中に見つけることができた。しかもその出荷元には、驚くべき記載があった。
「魔王領内……? こいつは……」
思わず言葉を飲むカイル。その瞬間、机の端から一枚の書類がはらりと滑り落ちた。目をやると、そこには独特の印――印璽が押されている。
「この紋……どこかで……」
記憶の中で、ドミニク伯爵の言葉がよみがえる。「王族からの紹介」という一言。
「この印……そうか、これが“紹介”の証か」
同じ印が押された契約書が、他にも数枚見つかる。どれも商取引を裏付ける正式な文書に見える。まるで、信頼の保証でもあるかのように。
「これは……証拠になる」
迷わずそれらを鞄に収める。だがその瞬間――
「誰かいるのか?」
扉の外から声。カイルは即座に反応し、机の下へ滑り込むように身を隠した。足音が近づき、そして立ち止まり――やがて、戦場の怒号に気を取られたのか、そのまま去っていく。
安堵したのも束の間、カイルの目にあるものが映った。
「これは……鍵?」
机の裏に打ち付けられたフックに、小さな鉄の鍵が掛かっていた。装飾はないが、使い込まれた痕跡がある。
「こんなところにあるということは……牢か何かか」
カイルはそれを手に取ると、再び気配を殺して闇へと溶け込むように廃屋を抜けた。
仲間が戦いを引き受けるその陰で、静かに情報が集められていく。確実に、敵の急所に近づいていた。




