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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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本気


 反則的な強さ、どうしたら勝てるのかが分からない。


 そんな感想を演習に参加した誰もが抱く中、減点をされながらも奮闘していたユウカの頭の中に、少し前にしたハクトとの会話の記憶が思い出される。


『どんなに強くても一人の人間、一頭の幻獣に出来ることは限られている。

 疲労し乾き飢え、補給がままならない状況で戦い続けることは、どんな人間にも幻獣にも不可能だからだ。

 難関とされる学院がそれでも多くの生徒を合格させている理由はそこにある。

 国を守ろうと思ったら四聖獣のような最強格だけでは駄目で、ある程度の数を揃える事が必要で……ある程度の数の人と幻獣が上手く連携したなら四聖獣であっても勝つことは難しいだろう。

 とある大型幻獣による幻獣災害が起きた時は、複数の幻獣の力で拘束することで行動不能にし、飢えさせて倒したからねぇ……風切君もゆめゆめ気をつけることだ』


 独りよがりになってはいけない、力に溺れる暴君になってはいけない。


 その話を聞いた当時ユウカは、そんな教訓をユウカに教えるための話なのだと理解していたのだが……今、最強格と呼ぶに相応しい敵を前にしたことで全く別の教訓を見出すことに成功する。


 隙がなく、あらゆる間合いに対応し、数の差を不利としない堂々たる強さ。


 だがそのためには多くの魔力が必要で、それ相応の体力も消耗しているはずで……そこに勝機を見出したユウカは、周囲の人々……演習に参加した戦友達に向けて声を張り上げる。


「連携し、消耗させましょう! 先輩の魔力保有量はそこまでじゃないはずです!!」


 点数を競う内容だと聞いていた、誰よりも多くの得点をしなければと考えていた。


 だが演習の本来の目的は幻獣災害を鎮圧することで……周囲の人々がライバルではなく、協力者なのだと気付いたユウカの声を受けて、周囲の人々は頷き、お互いの目を見合い……構えと動きを変えて、それぞれの個性を活かした連携を模索するようになる。


 課長が選びだした人物達だけあって、誰もかれもが優秀で、どの幻獣も強力だ。


 唯一ブキャナンだけは、やる気が無いのか何なのか会場の隅に立って何もしないでいるが……まぁ、彼については放っておくほうが良いのだろう。


 そんなブキャナン以外の面々を改めて見てみると、若いユウカに対する侮りもなく、ライバルを蹴散らそうなどという変な我欲もなく、すぐにユウカが何を言わんとしているのか理解し対応出来る程に柔軟で……ユウカはそんな大人達の姿を見て、何故今の今まで頼ろうとしていなかったのかと、自分の行動に驚いてしまう。


どこかでゲーム……遊びと思っていたのか、真剣に考えていなかったのか。


 実際に幻獣災害の場に赴いた時は、もうちょっと違った心構えでいたはずで……大人達と幻獣達が連携しながらハクトに襲いかかる中、もう一度頬を叩いて気合を入れ直したユウカは、地面を蹴って飛ぶかの如く勢いでハクトの下へと駆け出す。


 そうして拳を放つとハクトの布に受け止められる、蹴りも頭突きも、掌底も突きも体当たりも、全ての衝撃が金羊毛羊の毛に吸収されてしまう。


 ハクトもただ受けるばかりだけでなくグリ子さんと連携しての反撃を試みるが……それらは周囲の大人達が妨害するなり受けてくれるなりして、ユウカに届かないようにしてくれる。


 彼らも気付いているようだ、ユウカの強さに。


 攻め手をユウカに任せた方が良い結果になるだろうとの判断をしているようで……連携を始めとしたあらゆる面での経験が不足しているユウカは、そんな彼らに甘えることにして、邪魔にならないようにとそれだけに気をつけて、自らの得意とする戦い方をハクトに押し付けていく。


 拳を突き出すと同時に真っ直ぐに踏み込み、威力ではなく速さを優先した一撃を叩き込んでみたり、駆けて勢いをつけて飛び上がり、回転することで勢いをつけてのハイキックを放ってみたり。


 ルール上、ハクトを傷つけることは許されていない、だから威力は軽く、とにかく素早く放つことに主眼を置いていて……それはユウカにとって不慣れで隙の多い戦い方だったが、攻撃中、あるいは攻撃後の隙全てを周囲の味方がフォローしてくれる、補ってくれる。


 魔力で作った壁を作り出し、魔力で作った紐でユウカのことを引っ張り、あるいは幻獣達が掴み上げ、抱え上げ、自らの背に乗せて逃げ回り……ユウカ達が連携し始めてから誰も減点を取られなくなる。


 ハクトとグリ子さんもまたしっかり連携している、今まで以上に激しい攻撃を繰り出している。


 だがしかし参加者全員とその幻獣を相手にしなければならないという不利は大きく……その攻撃が成功することはない。


 そうやってどちらの攻撃も成功しない攻防がしばらく続き……30分程それが続いて、会場内には参加者全員と幻獣達の息切れの音が響き渡ることになる。


 ハクトの魔力にも限界はあるが、参加者の体力魔力にも限界はある。


 人数差でもってそこら辺をなんとかするはずが、ハクトが上手く対応し続けるものだから中々差が埋まらず……攻撃に成功した者は未だにいない。


 だがそんな中にあってユウカは息切れをしていない。


 本気を出さずに済んでいるからか余裕すらあるようで、笑みを浮かべている。


 対してハクトはかなりの量の汗をかいていて……グリ子さんはまだまだ余裕があるようだが、ハクトのことを心配してか不安そうな表情をしている。


「クッキュン」


 そしてグリ子さんがハクトに『大丈夫?』と、一言声をかけた瞬間、ハクトが生んだ返事をするための一瞬の隙を見逃さず、地面を蹴って飛び上がったユウカが、すれ違い様にラリアットのような形でハクトの胴へと腕を回し、その勢いのままに引き倒し、ハクトを制圧する。


「20点加点です!!」


 直後、課長の声が響き渡る。


 始めての加点、始めての制圧……それを受けて周囲の参加者達が歓声を上げる中、油断したことを恥じているらしいハクトは、ユウカに申し訳なさそうな表情をしながらゆっくりと立ち上がり……仕切り直すつもりなのか、後方に飛んで距離を取る。


「へへへ、もっともっと点数もらいますよ!!」


 そんなハクトを見て嬉しそうにはにかんだユウカがそう声を上げると……グリ子さんがその全身を震わせ、何本かの羽毛を宙に舞わせ……そしてそれらが何体ものミニグリ子さんへと変化し、十数体程となったミニグリ子さん達が一斉に飛び上がり、会場の上空全体へと布陣する。


「……忘れてた」


 それはユウカではない誰かが上げた一声だった。


 ルールに分体が出ると書いてあったのにそれをすっかり忘れていた、まさかここでそれが出てくるとは……。


 これからが本番、これからが本気……ハクトとグリ子さんがそう告げているかのような顔をし、構えをし直し、ミニグリ子さん達までがクチバシの隅をくいと上げての好戦的な笑みを浮かべ……そうして演習は、決戦に向けての最終局面へと突入するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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