大暴れ
一度減点されたからといって、それで失格……参加取りやめになる訳ではない。
本人のやる気さえあればいくらでも挑んでもよく……そのことを把握しているハクトは押さえ込んでいた者達をあっさりと解放する。
すると彼らはすぐに立ち上がり、ハクトから距離を取って構え……そしてすぐに数人がリベンジをとハクトの下へと駆けていく。
それを受けて様子見をしていた数人や幻獣達も駆け出して、ハクトが放つ布よりも多い数でもって攻めればいけるはずだと意気込む……が、ハクトは放つ布をうねらせ、走らせ……1本の布でもって2・3人の人間と幻獣達を当たり前のように押え込み、
「10点減点!」
直後、課長の声がそう響く。
「それならば!!」
更にその直後、誰かがそう声を上げる。
ハクトが数人を押え込んだままの、解放する前のこのタイミングであれば隙が大きいはずだと、そんな意味合いを込めての声のようで、それを受けて声を上げた本人と残りの数人……ユウカも含めたブキャナン以外の全員がハクトへと襲いかかる。
「クキュン!!」
するとグリ子さんがそう声を上げる。
させるものかとの意気高く、目を鋭くさせ丸い体をぐっと押しつぶし……その反動でもって飛び跳ねて駆けてくる者達へと次々に体当たりをぶち当てていく。
それはまるでピンボールのようだった、一人に当たり跳ね返り次のもう一人に当たり……その衝撃は中々のもので受ければよろけるか転ぶかしてしまうもので……参加者達が次々に跳ね飛ばされていき……そしてそのうちの一人が声を上げる。
「げ、幻獣は攻撃しないはずでは!?」
「幻獣が妨害してくるということは、しっかりと説明しましたよ」
すかさず響くのは課長さんの声。
グリ子さんの体当たりは攻撃ではなく妨害だと言いたいようで……実際問題として、誰一人として怪我をしておらず、目立ったダメージは無く、ちょっとした衝撃があった程度ではあるので、攻撃よりは妨害といった方が正しいのかもしれない。
「体当たりしてくるってならその幻獣を捕まえてしまえば良い話だ!」
更に誰かの声、それを受けて何人かがそれもそうだと手を構え、道具を構え、幻獣達は魔力を練り、そうすることで捕獲の体勢を取る……が、グリ子さんは跳ねる先をコントロール出来ているのか、なんとも器用に構えた者達を避けて、他の者達へと笑顔で体当たりを決めていく。
会場内を跳ね回り、地面や参加者の体を発射台にして、バスンバスンと音を立てながら次々に体当たりをし……しまいには会場全体を覆っている結界、参加者達の攻撃が外に漏れてしまわないようにと張られたそれすらも利用して縦横無尽……あらゆる角度で跳ね回り、あらゆる方向からの体当たりを決めていく。
「流石にもう見慣れたよ!!」
誰もがグリ子さんの体当たりを受けてよろけて転び、悔しいやら情けないやらで悪態をついて……なんとも嫌な空気に包まれていく中、一番後方で構えていたユウカがそう言ったかと思えば地面を蹴り、凄まじい脚力でもって生み出された跳躍力でグリ子さんに飛びついて……後数センチで手が届き、捕獲出来るという所で、
「だとしても俺の存在を忘れてはいけないよ」
ハクトがそう声を上げて一枚の布をユウカ……ではなくグリ子さんの方へと伸ばす。
そしてハクトは布を器用に操り、グリ子さんの前へと伸ばしていって……その布でもって滑り台のようなものを作り出し、それでもってグリ子さんの体を受け止め、滑らせ起動を変えて……別の誰かの方へと跳ね飛ばす。
その様子はまるで大道芸人のようだった。
いくつものゴムボールをリズム良く投げて、器用に円を描いて観客を湧かせるような……そんな華麗なものだった。
布を操って周囲の人物を攻撃、鎮圧し、同時にグリ子さんのことを受け止め、滑らせ、転げさせ、地面と結界と人を上手く使って会場全体を支配していく。
その光景に思わず見惚れかけたユウカは、頬を二度、パパンッと叩いて気合を入れ直し……ほぼ全力で駆けて飛びかかって、グリ子さんの真似をして結界を蹴ることで上下左右、あらゆる方向へと飛び回っての攻撃や捕獲をしかけようとするが……その全てをハクトの布に防がれてしまう。
金羊毛羊の毛が編み込まれているらしいその布は、ユウカの攻撃の衝撃であってもあっさりと吸収してしまっていて……その隙をついたハクトの布によって、ついにはユウカも押さえ込まれてしまう。
ユウカへの気遣いなのか、地面に押さえつける訳ではなく、布とグリ子さんで挟み込む形だったが、それでもそれは制圧されたと見なされたようで、
「10点減点!!」
との課長の声が響く。
直後解放されたユウカは、更に更に力を込めて、ここまで本気になるつもりは無かったという程の力を込めて、ハクト達に向かおうとし……そんなユウカの前にすっと黒い影、ブキャナンが現れてゆっくりとした、だけども会場の全員がはっきりと聞き取れるような鋭い響きの声を上げる。
「ちょいとそれは大人気ねぇんじゃないでしょうかねぇ。
神話の素材なんか使われたら、平和な今の世を生きる人々では手が出ねぇでしょうに」
そう言ってブキャナンは右手をすっと振り上げ……いつの間にか手にしていた刀の刀身が太陽光を受けてキラリと赤く煌めく。
そしてすっと赤い刀を持った右手を振り下ろし、それでもって会場内を飛び巡ることで支配していた布をバラバラに斬り裂き……一瞬ユウカの方へと振り返り、なんともいえない決め顔を見せてくる。
その顔に対しユウカがどう反応したものかなと考えていると、斬り裂かれたはずの布片が蠢きはじめ……バラバラの状態のまま空を舞い飛び、先程よりも速く鋭く動き、参加者を次々に制圧していく。
「あ、ずるい!」
そう声を上げたブキャナンすらも押さえ込まれて、ユウカも再び押さえ込まれ……そして参加者全員を一度、丁寧に抑え込んだ布片達はハクトの下へと戻っていき……布の端の糸が蠢き、糸同士が絡み合って、繋がり合って……そして布片が布へと戻り、布が着物へと戻り……全ては元通り、着物姿のハクトが完成する。
『反則だろ!!』
続いてそう声を上げたのはほとんどの参加者達だった。
幻獣達さえもがギャーギャーキーキーと声を上げて抗議の声を上げているが、ハクトは涼しい顔をし……またもすっと袖を持ち上げる。
そうしてまたも袖を切り離して布とし……抗議を一切受け付けない演習が再開されるのだった。
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