旅行
今回のような幻獣災害はそうそう起きるものではなく、年に1・2回あるかないかといった所なのだが、いざ起きた時のための備えは必要不可欠で、備えとして動ける人材を確保しておく必要がある。
そのために一番良いのは十分な報酬を用意することで……年1・2回の機会の収入でも十分に生きていける程度の報酬が支払われるのが通例となっている。
そして今回ハクトとグリ子さん、そしてユウカはそうした報酬を手にする権利を有していて……無資格者ということで減額はされるものの、それでも十分すぎる額の報酬となっていた。
具体的にはハクトの給与三ヶ月分に相当していて……学生の身分で突如、それ程の大金を手にすることになったユウカは、まさかそんなに貰えるなんてと驚き、大声を上げてしまったらしい。
「まぁ、折角の連休なのだし、その報酬で休日を楽しんだら良いのではないかな」
夕焼け空の下の役所から帰り道、報酬の入った分厚い封筒をじぃっと睨みながら足を進めていくユウカに対し、ハクトがそう声をかけると……ユウカはハクトを見て、封筒を見て、もう一度ハクトを見てから言葉を返してくる。
「そ、そう言えば今日は連休の初日でしたね、なんだかすっかり忘れちゃっていました。
……こ、これだけのお金があれば何処にでも行けるし、何でも食べられるし、何でもほしいものが買えちゃうじゃないですか……」
「普段なら無駄遣いをしないようにと釘を刺す所だが……今回、風切君は大活躍をし、多くの人を救った訳だからな……その報酬の価値をしっかりと噛みしめるためにも、今連休いっぱい遊び回るというのも、まぁ悪くはないことだろう」
ユウカの実力の程はハクトもよく知っていた訳だが、それが実戦で通用するかというとまた別問題で、恐怖に負けてしまって怯んでしまって、動けなくなってしまうということも十分にあり得た訳で……そういった懸念を常々抱いていたハクトにとって、今回の結果はとても喜ばしいことだった。
恐れることなく怯むこと無く災害を引き起こした幻獣に立ち向かい……周囲に被害を出さないようにと正しくその力を振るっての駆除に成功し……これ以上ない結果をもたらしてくれた。
であれば、その報酬を使って、自分がしたことの大きさを、社会における自分の価値というものを、しっかりとその胸に刻み込むことは、ユウカの更なる成長と将来のためになることのはずで……あえてハクトは、ユウカにそうするようにと言葉でもって勧めていく。
「旅行に行って美味しいものを食べて、レジャー施設などを堪能して、お土産をたっぷり買って。
暑くもなく寒くもなく良い日和の続く初夏の今であれば、様々な観光地に選択肢が入るだろうし……今から予約を取るとなると少し大変かもしれないが、そこは課長さんにでも電話して相談してみると良い。
もしかしたら彼の権限でどこかの保養施設なんかを借りられるかもしれないぞ」
当然ユウカは今回のことをご両親に報告するのだろうし、報酬の使い道についての相談もするのだろう。
であれば家族皆でどこかの、この時期に緑葉の生い茂る観光地にでも行けば、団らんのひとときを楽しめるはずだと、そう考えながらハクトが言葉を続けると……ユウカは封筒をぎゅっと握りしめながら、真剣な表情となって頭を悩ませる。
するとそんなユウカの横にふっくらとした羽毛を揺らすグリ子さんがやってきて、ユウカが歩道から道路に出ないようにとその体でそっとカバーをして……そのことに気付いたユウカはお礼を言いながらグリ子さんにそっと身を寄せ、グリ子さんもまたユウカに身を寄せる。
そうやって二人で体を寄せ合いながら足を進めていって……そろそろハクト達の家が見えてくるとなって、ユウカ達の後ろを見守るようにして歩いていたハクトの方へと、振り返ったユウカが力のこもった声を上げてくる。
「うん、分かりました!
とりあえず家に帰ったら両親に相談して、課長さんに電話して、明日から遊べるとこがないか探してみます!
じゃぁそういう訳で、先輩、明日の朝からお出かけですから準備しておいてくださいね!」
「うん……そうすると良い……って、うん? 何故俺も準備をする必要が?」
ユウカの突然の声にハクトがそう返すと、ユウカはきょとんとした顔をしながら言葉を返してくる。
「だって今回活躍したのはグリ子さんもじゃないですか。
ならグリ子さんだって旅行して楽しむべきじゃないですか。
先輩だって送還とかで活躍したんですし……皆で一緒にどこかに遊びに行きましょうよ!
とりあえずプランについてはこっちで練っておきますんで、練り上がり次第電話とかでお知らせしますんで、外泊の準備だけは進めておいてください!
グリ子さんもそのつもりで準備しておいてね! ちっちゃなグリ子さん達と一緒に連休いっぱい遊び回ろうね!!」
まるで当然のようにそう言い放って、ハクトが唖然としどう言葉を返したものかと悩む中……ハクトの言葉を待つことなく駆けていってしまうユウカ。
そうして自分の家の中へと入っていって……元気な声がユウカの家から響いてきて、その声を聞きながら苦笑をしたハクトは、満面の笑みを浮かべているグリ子さんのことを見やる。
するとグリ子さんは一声、
「クッキュン!」
と、鳴いて『貴方も一緒に楽しみましょうよ』とそんなことを伝えてくる。
それを受けてハクトは仕方ないなとでも言いたげな表情を浮かべて、グリ子さんの隣に立ち……そっとその体を撫でながら我が家へと向かって足を進めていく。
「……そういうことなら今夜は、その羽毛をしっかりとブラッシングするとしようか。
何処に行っても恥ずかしくないように手入れをして……ふかふかの状態にしておかないとね。
あの小さなグリ子さん達はその羽毛から生まれた化身であるのだから、羽毛の手入れをしておけば、あの子達の姿もきっと、ふかふかの綺麗な姿になるんだろうし……まずは夕食、それからお風呂、そして外泊の準備をしたら、寝るまでブラッシング、かな」
進めながらハクトがそんなことを口にすると、グリ子さんは満面の笑みを一段と強く輝かせながら、嬉しそうに、
「クキュン!」
と、そんな一声を上げるのだった。
お読みいただきありがとうございました。




