送還2
本来であれば今回の送還は専門技術者であり、有資格者である課長一人で行われる予定だった。
だがそこに偶然、一流と言って良い術者である、最高難度の資格を有するハクトが居合わせることになり、そんなハクトの方から進んで手伝いを申し出てくれて……その経歴とその口から語られる知識から、手伝ってもらった方がスムーズに事が進むだろうとの判断を課長が下し、そうしてハクトと課長の二人で送還術を行使するということになったのだった。
「では、始めましょうか」
そう言ってから課長が術布に触れて魔力を送り込み、ハクトが呪文を唱えて術を展開し……術布に描かれた模様に魔力が込められ、光を放ち始め……術布全体が光ったらなら送還術の準備が完了となる。
準備が完了となったならハクトが更に呪文を唱えていき……まるで祝詞であるかのように力のこもったハクトの声が部屋の中に響き渡っていく。
窓はなく、蛍光灯は明るく、白い壁につるつるとした床、不思議な模様のある天井板と、部屋自体は役所や学校によくあるようなものでしか無いが、いくつもの監視カメラがあったり、出入り口となる扉が分厚い鋼鉄製だったり……いくつかのセンサーがあったりと、頑丈過ぎるセキュリティがなんとも不釣り合いな光景を作り出している。
そこに更に魔術用の布が敷かれ、魔力の光が溢れ、光を一身に浴びたハクトが祝詞のような声を上げて……普通に生活している分にはまずお目にかかることがないだろう光景が、ユウカの前に広がっていく。
そうしてユウカは転がらないようにとしっかりと支えていたグリ子さんの体をぎゅっと抱き締め……グリ子さんもまたユウカの方へと体を寄せて、そうして二人が一塊となる中……術が発動し、特製虫かごとその中にいた害虫幻獣が、魔力の光を吸収しながら浮かび上がり……全ての魔力を吸い上げて、シュンッとまるで何かに押しつぶされているかのように圧縮されて小さくなり、そうかと思った次の瞬間には大きく膨れ上がって……そうして破裂するかのようにして光が砕けて、魔力の残滓とも言える光の粒が部屋中に舞い飛ぶ。
「いやはや、お疲れ様でした。
こんなにも丁寧でスムーズな送還術は初めてお目にかかったという感じで……いっそのことこのままうちに就職してほしいものですねぇ」
送還術が完了したとなってまず課長がそう声を上げる。
「過分なお言葉ありがとうございます。
ですが、今の職場での日々に満足していますので……」
続いてハクトがそう声を上げて、課長と一緒になって営業スマイルを浮かべ合う。
「おぉー……グリ子さん、大人だよ、大人の世界だよ、あれが」
続いてユウカが茶化したようなことを言い……そんなユウカに対しにっこりとした笑顔を浮かべた課長が視線をやって、声をかける。
「では、風切さんとも大人のお話をするとしましょうか。
現場から報告で風切さんも中々の活躍をしてくださったと聞き及んでいます……が、正式な手続きを経てのことではありませんし、風切さんは幻獣関連業務の資格を持っておらず、更には学生であり未成年でもありますので……残念ながら報酬を支払うことはできません。
ですが、今回の件では尋常ではない被害が出てしまっていまして、これ以上の被害を出さないために一刻も早く処理すべき事案であった訳で……その一刻も早くのための、一助となってくださった風切さんには相応のお礼をすべきかと考えています。
……そこでちょっとした変化球を思いついたのですが、矢縫さんと風切さんは、鷲波タダシさんと顔見知りだそうで……更に鷲波さんの先生である吉龍サクラさんともお知り合いだとか?」
にこにことした笑顔でそんなことを言ってくる課長にユウカは、一体何の話だろうと訝しがりながらも、その通りですとこくりと頷く。
「では、お二人は吉龍さんのお弟子さんということで、鷲波さんの弟、妹弟子という形で処理させていただきます。
同門の学生を現場に連れていって現場経験を積ませるということはよくあることでして……その場合は、資格未取得者であっても、ほんの少しではありますがいくらかの報奨金を受け取ることが可能となっているんですよ。
……という訳で今回はその変化球を使わせていただきたいと思います。
ああ、鷲波さんと吉龍さんにはこちらで確認を取っておきましたので、問題ありませんよ。
お二人共快く了承してくださいまして……既に事務手続きの方も始まっていますので、後は受付の方に行ってサインをしていただければ、報奨金を受け取ることが出来るはずです」
その言葉を受けてユウカは驚くやら混乱するやら、グリ子さんのことをぎゅっと抱き締めながら、不安そうな表情でハクトの方を見やる。
するとハクトは仕方ないなと、そんなことを言いたげな苦笑いを浮かべていて……その表情と態度でユウカの好きにしたら良いと伝えてきていて……ハクトがOKを出してくれるなら、法律的にも校則的にも問題が無いに違いないとの安心感を得たユウカは、今度は大きな笑顔となって大きく頷き……そしてそのまま、グリ子さんと一塊となったまま重い扉を開けて部屋を出て、そこから一気に勢い良く受付の方へと駆けていってしまう。
「……改めまして本当にありがとうございました。
今回の件がこの程度の被害で済んだのも、一部ではありますが被害が回復したのも、貴方達のおかげです。
あの程度の報奨金では返せない程の大きな借りを作ったと、私だけでなく職員一同が痛感しております。
……もし何かお困りごとがありましたら遠慮することなく、いつでもお声をかけてください」
元気過ぎる程元気なユウカの後ろ姿を見送りながら課長がそう言ってきて……ハクトは、
「こちらこそお世話になりました」
と、短い言葉だけを口にして一礼をして部屋を後にする。
そんなハクトの背中を満面の笑みとなった課長が見送ろうとしていると……、
「えええええ!? こんなにもらえるのおおーーーー!?」
なんてユウカの声が……悲鳴に近いような歓喜の声が響いてきて、そうしてハクトと課長は同時に、似たような苦笑を浮かべることになるのだった。
お読みいただきありがとうございました。




