送還
見事に災害を引き起こしていた幻獣達を退治し、本体を捕らえ、そうしてユウカとミニグリ子さんが役所へと凱旋すると……入り口で待っていた職員が、ユウカ達のことを何処かへと案内し始める。
そうして役所内の受付前を通り過ぎたユウカ達は、そこにいたはずのハクトもグリ子さんも、課長の姿すらも無いことに首を傾げて……首を傾げながらも素直に案内に従って足を進めていく。
そうやって何枚かの扉を開けた奥の奥、小さな町の役所とは思えない程に厳重なセキュリティが敷かれた部屋へと入り込むと、複雑な模様が描かれた召喚陣布の敷かれた上に……いくつかのパソコンが並んでいる、魔力に満ちた空間がユウカ達の目に飛び込んでくる。
「えっと、ここは……召喚用のお部屋……にしては陣の模様がおかしいから、送還用のお部屋ですか?」
なんて声を上げると、召喚陣の上で呪文を唱えていた課長とハクトと……その様子をぽやっとした表情で見守っていたグリ子さんが、ユウカへと視線を向けて、こくりと頷く。
「おかえり、特に怪我もトラブルもなく、無事に捕獲できたと報告は受けているよ……よくやったね、お疲れ様。
そしてしっかり模様を判別出来たようだな。
……まぁ、もしこれを召喚用だなんて言っていたら特別に厳しい補習授業を行っていた訳だけども……。
それでもまぁ、送還術についてはそこまで詳しく勉強するものではないからね……そこに気づけただけでも大したものだよ」
そうハクトが声を上げると、ユウカと害虫幻獣を取り押さえたままのミニグリ子さん達は、不思議そうな顔をしながら首を傾げる。
「えーっと……送還用のお部屋になんでパソコンがあるんです?
それに、こんなに魔力を溜め込んで二人がかりで呪文まで唱えて……送還ってそんなに大変なんですか?」
首を傾げながらそんな事を言ってきたユウカに、ハクトはため息を吐き出し……パソコンのキーボードを操作しながら言葉を返していく。
「召喚は比較的簡単に行えるんだよ、俺の下に来い、それだけで済むから。
ところが送還となると全くの別次元で……まず、送還する対象が住んでいた世界がどこにあるのかを見つける必要があるんだ。
君も知っての通り、幻獣達が住まう世界は、この世界と良くにた……パラレルワールドに近い世界となっている。
太陽があり月があり、酸素があり物理法則が存在し……地球のような星があって、それが自転、公転をしていて……。
そんな幻獣世界はかなりの数……数え切れない程存在していて、それらの世界の中から、魔力の繋がりを使って世界を特定しなければならない訳で……これが中々どうして骨が折れる作業なんだよ」
そう言って一旦言葉を切ったハクトは、次のパソコンのキーボードへと手を伸ばしながら更に言葉を続けていく。
「世界を特定したとしても作業はまだ終わらない。
今度はその地球のような惑星……幻獣星とでも呼ぼうか、幻獣星がその世界の……その宇宙の何処にあるかを特定しなければならないんだよ。
あちらの世界にも太陽系のようなものが存在し、幻獣星はその中で公転をしている訳で……召喚した際の座標にただ送り返すだけという雑なことをしてしまうと、送還した幻獣が宇宙に放り出されるとか、そういったトラブルが起きる可能性があるんだ。
昔はここらへんの作業を、星の巡りを研究し計算している陰陽師が数千人がかりでやっていたのだけど……今はこうしてコンピューター任せに出来るという訳だ。
とはいえ魔力は科学的な手法で探知出来るものではないから……全くのコンピューター任せという訳ではなくて、俺や課長さんがしていたように、何人かの召喚、送還術に詳しい専門家が手を動かす必要があるんだ」
そう言ってコンピューターの操作を終えたハクトは……用意しておいた特別性の虫かごに手を伸ばし、ミニグリ子さんの手を借りながらその中に害虫幻獣を押し込め、しっかりと蓋をする。
「えっと……送還については分かりましたけど……その、虫かごまで一緒に送るんですか?
それだと外に出られなくて死んじゃいません? あと、こっちの物質を向こうに送るのってどうなんですかね……?」
ハクトの作業を見たユウカがそんな疑問の声を上げると、ハクトは笑みを浮かべながら言葉を返す。
「よくそこに気付けたね、俺が先生なら加点していたよ。
で、質問に対する答えだけども、まずこの程度の虫かごなら、1時間か2時間もあれば破壊出来るから問題はない。
そしてこちらの物質を向こうに送ることに関しても、化学物質を使わない、木材などを元にしたものであれば全く問題ない……とされているね。
まぁ、そもそも幻獣を呼んでいる時点でそこら辺は今更だし、神話の時代なんかは世界と世界が混じり合っていたともされているから……深く気にする必要はないだろうさ。
幻獣の中には武器や道具、植物なんかと一緒に召喚される幻獣もいるからね。
……何世代か前の玄武が召喚された時、その背中に数え切れない程の植物が生えていたとかで、ちょっとした騒動になったこともあったが……今ではそれらも日常の中に溶け込んでいるしね。
ほら、ユウカ君も食べたことあるんじゃないかな? 紫桃とか緑ネクタリンとか、あそこらへんはその時にこちらにやってきた果樹なんだよ」
「え、あ、あれってそうなんですか!?
私が子供の頃からあるから、なんか普通に食べてましたけど……えぇー、召喚されるまではこっちに無かった果物なんだ」
なんて会話をハクトとユウカが進めている間に、一匹一匹のミニグリ子さん達を、まるで母鳥が卵をそうするかのようにその小さな羽根で包み込んだグリ子さんは……「クキュンクキュン」と小さな声でお礼を言いながらミニグリ子さん達を、自らの羽毛へと戻していく。
羽毛に戻る中でミニグリ子さん達は「キュキュン」声を上げて、今度はもっと遊びたいとか、おいしいものを食べる時にも呼んでほしいとか、そんなことをグリ子さんに訴え……グリ子さんは目を細めながらそれを了承する。
そうして全てのミニグリ子さんがグリ子さんの羽毛となって戻り……害虫幻獣の魔力をそのまま吸収した形になったためか、いつも以上に魔力に満ちて、羽毛がふっくらと膨らんで……普段よりもかなり大きく、かなりふっくらとし、まん丸になってしまったグリ子さんが部屋の中をコロコロと転げてしまう中……送還の準備を終えたハクトが虫かごを、送還術布の中央へとそっと置く。
それを受けてユウカは、転げ回るグリ子さんの下へと駆けていって、その体をしっかりと抑えて抱きかかえて……そうしてからハクト達が行う送還術のことを見逃すまいと、その目を皿のようにしながら、その視線をハクト達の方へと向けるのだった。
お読みいただきありがとうございました。




