大召喚
『は、はな―――』
『話を―――』
『き、きけ―――』
ユウカは徹底していた、とにかく口や顔、喉と思われる部位を潰して相手に喋らせない。
これは師匠から強く教えられたことであり、ハクトからも対魔法、対呪術として当然の行為だと教えられていた。
その言葉は呪文かもしれない、呪詛かもしれない。
そもそも敵の言葉に耳を貸す必要はない、特にユウカには事情聴取や交渉は向いていない。
下手に相手の言葉に翻弄されるくらいならば最初から耳を貸さない方が良い結果に成るだろう、とのことだった。
そういう訳でユウカはとにかく拳を叩き込み続ける。
それでも相手は諦めずに再生し、何かを話そうとするが……油断も躊躇もなくそれを封殺する。
その間にハクトは糸を編んで布を作り出し、それでもってユウカ達の周囲を囲んでいく。
不死身、またはそれに準ずる相手を倒す方法はシンプルだ、封印してしまえば良い、魔術的、あるいは物理的に。
そうやって封印されている幻獣もそれなりの数、存在している。
がしゃどくろは砕いた上で骨片をコンクリートに混ぜ込んで固めて、ある泉に沈めてある。
終わることのない法要をされ続けている亡者もいる……九尾の狐は宇宙に打ち上げられた。
無限に増殖するとされたスライムは鉄板を溶接して作った箱に押し込められている……増殖はするが鉄板を打ち破る程の力はなく、増殖した先から自分の体に押しつぶされて死んでいる。
紫外線を照射され続けている吸血鬼、塩漬けになっている十三本足のタコ、荒神に殴られ続けている大トカゲ、ある部族に食べられ続けているドラゴン、マグマで煮込まれ続けている液体。
グリ子さんの魔力を借りたユウカの連撃でも消滅しないのには驚かされたが、そういった封印手段はある上に、グリ子さんはそれを得意としている。
魔力を込めてもらった糸ならば、それで編んだ布ならば容易に封印が出来るはずだ。
『させ―――』
『ふざ―――』
『―――その程度―――』
それでも諦めない相手はまだまだ言葉を紡いでくる。
何なら少し早口になって、ある程度の単語をはっきり聞き取れるレベルにしてくる。
そうまでして喋りたいのか……尚更呪詛などの可能性が高まり、ユウカは連打の速度を高めて、ハクトはより強固な封印をと布を編み上げていく。
そうやって黒スライムの周囲に布が出来上がっていくと、それを見てずっと黙って動かずにいたグリ子さん達が動き始める。
それぞれ丸まり、まんまるとなり、魔力を練り上げて羽毛や体毛に通し、輝く3つの毛玉が出来上がる。
そしてハクトが作り出した、中に浮かぶ布の壁の中に入り込み……いつかのようにスーパーボールよろしく壁の内側を跳ね回る。
ハクトもそう来ると読んではいたので、布をリングのロープのように、あるいはトランポリンのように操ってグリ子さん達を跳ね飛ばしてやり……まるで弾丸のような勢いで丸い毛玉が3つ、跳ね回る。
そんな空間の中には当然ユウカの姿もあるのだが、グリ子さん達は器用にそれを避けてみせて、またユウカもその気配をしっかりと感じ取り、グリ子さん達の邪魔になるようならすっと立ち位置をずらしての対応をする。
結果、ユウカの連撃とグリ子さん達の体当たり、それらが合わさって更に手数が増えることになり……黒スライムはついに喋ることすら出来なくなる。
それを見てハクトはこのまま決着かと、封印のために布を操り始める……が、黒スライムはまだまだ諦めていないようで、まずは蠢き震えて変異していく。
背中から蠢く鞭、あるいは触手のようなものが生えてくる……それも複数本。
それでもってユウカの拳やグリ子さん達のスーパーボール体当たりを弾き始めて、完璧ではないにせよ、いくらかの攻撃を防ぎ始める。
そうやって口を自由にし、呪詛を唱えようとしているのだろうと察したハクトは、糸でもって触手を絡め取ろうとする……が、こちらからの接触には液体のようになって対応してくるので上手くいかない。
ならばと布の一枚でもって触手を巻き上げ簡易な封印処理をするが、すぐにまた別の触手を生やしてくるので効果があるのかないのか、はっきりしない。
……いや、あるはずだ、封印はしているんだ、その分肉体は削れ、魔力的精神的ダメージだってあるはず。
今は変に疑わず、真っ直ぐに戦うしかないと覚悟を決めて糸を編み上げるのと、触手を封印するのと、二つのことを同時に行っていく。
そうして段々と布で囲う範囲を狭めていって……そのまま封印に持っていこうとする。
ユウカはそれに気付いているのかいないのか、ただただ連打。
愚直に、余計なことを考えず……しかし鋭く、何度も何度も拳を放つ。
グリ子さん達もそれに続く、ユウカが頑張っているのだからと自分達も負けじと頑張って……ハクトが封印のために空間を狭めているのもあって、いつにない凄まじい跳ね方になっていく。
それで決着……がいつものパターンだったが、敵は諦めない。
と、言うよりもハクト達のそうした攻撃も、黒スライムにとっては脅威ではなかったようだ。
ハクトが決め手にした封印さえも、何か対策があるのかもしれない……と、そう思う程に動きを変えることなく、ふてぶてしく、そしてついに攻撃の隙をついて声を上げる。
『月に吼えよ』
言葉の意味は分からない、ハクトはそれを聞いて狼を想像し、ユウカは変質者を思い浮かべた。
そしてグリ子さんは厄介な敵であると認識し、大きくクチバシを開く。
「クッキュゥゥーーン!!」
それはいつになく鋭い声だった。
そしてハクトの耳には大号令のように届いた、今こそ来たれ立ち上がれ、目の前の敵を打ち倒せ、と。
そんな声と同時に召喚術が実行開始となる。
「魔法陣もないのにそこまでの高魔力を!?」
ハクトがそう悲鳴を上げる……簡易な召喚であればグリ子さんの女王という特性上許されることだし、そうした許可や免許は取ってあるのだが、今込めている魔力は『ちょっとした』の範疇を大きく超えている。
尋常ではない。
そしてそれだけの魔力を制御するには魔法陣が必須な訳だが……ここにはそれがない。
……というのはハクトの思い込みだった。
グリ子さんはいつかに作った魔法石を持ってきていた……そしてその魔法石の中には、ぱっと見では気付けない複雑な紋様が埋め込まれていた。
ハクト達が考える平面ではなく立体……何十にも重なり、絡まり、交差し、時に融合している複雑過ぎる魔法陣が。
ハクトがそれに気付いたのは召喚が実行される寸前だった。
そこから光が溢れて、溢れ方が独特で、それを目にしてからの推測でたどり着いたことだった。
そうしてグリ子さんによる召喚魔法が実行されることになり……多くの、数え切れない程多くのグリフォン達が、召喚されることになるのだった。
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