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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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敵



 ある程度の調査を終えて、特にこれといった手がかりも得られず……そろそろ帰ろうかとなった夕方。


 グリ子さんが何らかの違和感を抱く。


 それが何なのか上手く説明出来ないようだが、確かに何かを感じているようで……グリ子さんはその違和感を追いかけ始める。


 それを受けてハクト達もまたそれを追いかける、それぞれ戦闘準備を整えながら……。


 するとその違和感の主は追いかけられた分だけ逃げていくようで、どんどんどんどん追いかけっこが続くことになる。


 そうして歩いて歩いて、誰もが気付く……自分達が今、住まう町である竜鐙町に向かっていることに。


 一体どうして……まさか自分達の家を襲おうと言うのか?


 そんな不安をユウカが抱くが、ハクトはそんな表情を見て首を左右に振る。


 あの町にはグリ子さんの結界が張ってある……そんなことは出来ないはずだとしっかり否定し、安堵したユウカは追走に意識を向ける。


 しかし妙だった。こちらが追いかけた分だけ逃げて、動くのをやめるとあちらも止まる。


 駆ければ駆けて、歩けば歩いて……なんとも奇妙だった。


 そしていよいよ竜鐙町が近付いてきたという所で、グリ子さんが声を上げる。


「クキュン!」


 相手の動きが止まった。


 そう報告があってハクトもユウカも覚悟を決める。

 

 相手はどうやら逃げるのを諦めたらしい……つまりは戦闘の覚悟を決めたらしい。


 ならばこちらもしっかりと覚悟し、準備をする必要があると装備の確認などをし……それから一呼吸、落ち着いてから気配の方へと進んでいく。


 ……するとその先にはこれから家が建つのか、建設資材の置かれた空き地があり、そこに違和感の主がいるのか、なんとも不穏な気配が漂ってくる。


「クキュン?」


 と、グリ子さん。


 どうやら結界に違和感があるらしい。


 町に張った結界と、自分達を守る結界、両方に何か反応がある。


「あれ? 結界張ったままだと悪人は近付けないんじゃ?」


 と、ユウカ。


「キュキューン」


「今回は調査のために、特別問題のあるような存在『だけ』を弾く結界にしていたらしい。

 そうじゃないと犯人を見つけることも出来ないからね」


 と、ハクト。


「ああ、なるほど……。

 ということはつまり、この先にいるのはそんな存在であるということですか……。

 なら本気でやらなきゃダメですね……!」


 そう返したユウカは気合を入れ直し、魔力を練り上げ……ハクトも糸を広く展開させながら空き地に近付いていく。


 すると近づく度に光が放たれ……そしてグリ子さんの結界と思われる見えない壁を染め上げる。


 何者かが結界に何かをしているのは明白で、一体何が起きているのかとハクト達が警戒していると、壁にヒビが入り……黒い何かがそのヒビからにゅるりと滲み出てくる。


「うわ、気色悪い!?」


 と、ユウカ。


 ハクトは無言で手をユウカの前に出し、まずは自分が調べると無言のうちに伝えて、それからその黒い何かに糸を放つ。


 するとソレはあっさりと糸を打ち払う。


 人型になって腕を作り出し、それでもって見事なまでに全ての糸を打ち払い、それに打ち払われた糸は青い炎で焼かれてしまう。


 すぐさまハクトは糸を切り離し、それ以上の延焼を防ぎ、それを見てか小さく笑ったソレが声を上げる。


『よくもまぁ結界で押しつぶすなんてことを……!

 こちら側の結界が弱かったから何とかなったものを……!

 この世界の住人はどうしてそう無礼なのだ!!

 かつての、超古代の時もそうだ! 来訪しようとした神々を打ち返しおって……!!

 再びの来訪の機会を奪おうと何故そうも抵抗する!!』


 ハクトは「なるほど」と思う。


 この黒い何かはグリ子さんの結界に追いやられていたらしい……だから追う度に逃げるように押しやられて、最終的には結界に挟まれてどうにもならず、こちら側にどうにか滲み出てきたと、そういうことらしい。


 その言葉の意味についてはよく分からない……神々を打ち返したとは?


 来訪しようとして打ち返した?


 こちらの世界の住人は神々だけでなく幻獣には敬意を抱いていて、わざわざ召喚している程なのに?


 しかも超古代とは? 古代以前はまさに神々の世界であり、そこら中に神々がいたというのに??


『そもそもだ、召喚とは何だ!

 惑星間移動をただそう呼んで、異世界などと言ってありがたがって……!

 愚かしいとは思わんのか!!』


「……なるほど、そういう論があるのは知っている。

 しかし所詮は論で証明された話ではない……まさかそれを証明したがっておかしな儀式をしていたのか?

 真っ当な研究で成果を出せば良いものを……自分をそうまで異形へと貶めるとは……。

 さっきの連中も同類か、そうなってしまったらもう人間とは言えないだろうに」


 ハクトがそう返すと、ソレは言葉とは言えない言葉を発し始める。


 怒っているのか、おかしくなったのか……表情と言うか、顔がない上に言葉が通じないので理解が出来ない。


 不定形……黒色のスライムの人型。


 言葉を話し、その思想の在り方から元人間であることは確かだが、体も心も歪んでしまったようだと呆れるハクト。


 そんなハクトを見てユウカは何かを言いたげにする。


 グリ子さん達も少しだけ物言いたげな顔をする。


 しかし誰もが面倒そうだから良いかと諦めて……目の前の敵と向かい合う。


 ハクトの魔力が込められた、特別頑丈な糸を燃やすようなスライムだ、ユウカの攻撃も通用しない可能性があるが、それでも戦わない訳にはいかない。


「クッキューン!」


 そこでグリ子さんの声が上がる。


 その羽毛が黄金に輝いて何本か抜け落ち、ハクトとユウカの体に触れて……溶け込む。


 それでハクトの糸とユウカの拳が光り始め、何がなんだか理解出来ないままだったが、ハクトとユウカはこれなら問題ないのだろうと信じて、構えを取る。


『愚か者共め……!

 真なる神々は再び来訪なさろうとしている!

 貴様らの支配はこれまでよ! せいぜい悪あがきをするが―――』


 それに対し、何かはそんな声を上げるが、言い終わるのを待たずユウカの拳が炸裂する。


 すぐさまソレの頭が弾け、喋れなくなり……そこからユウカの連打が始まる。


『ま―――』


『おい―――』


『き―――』


 その途中途中、どうにか頭を再生させて声を上げていたスライムだったが、それでもユウカの連打は止まらず、徹底的に、これでもかと殴られ続けるのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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