敵
ある程度の調査を終えて、特にこれといった手がかりも得られず……そろそろ帰ろうかとなった夕方。
グリ子さんが何らかの違和感を抱く。
それが何なのか上手く説明出来ないようだが、確かに何かを感じているようで……グリ子さんはその違和感を追いかけ始める。
それを受けてハクト達もまたそれを追いかける、それぞれ戦闘準備を整えながら……。
するとその違和感の主は追いかけられた分だけ逃げていくようで、どんどんどんどん追いかけっこが続くことになる。
そうして歩いて歩いて、誰もが気付く……自分達が今、住まう町である竜鐙町に向かっていることに。
一体どうして……まさか自分達の家を襲おうと言うのか?
そんな不安をユウカが抱くが、ハクトはそんな表情を見て首を左右に振る。
あの町にはグリ子さんの結界が張ってある……そんなことは出来ないはずだとしっかり否定し、安堵したユウカは追走に意識を向ける。
しかし妙だった。こちらが追いかけた分だけ逃げて、動くのをやめるとあちらも止まる。
駆ければ駆けて、歩けば歩いて……なんとも奇妙だった。
そしていよいよ竜鐙町が近付いてきたという所で、グリ子さんが声を上げる。
「クキュン!」
相手の動きが止まった。
そう報告があってハクトもユウカも覚悟を決める。
相手はどうやら逃げるのを諦めたらしい……つまりは戦闘の覚悟を決めたらしい。
ならばこちらもしっかりと覚悟し、準備をする必要があると装備の確認などをし……それから一呼吸、落ち着いてから気配の方へと進んでいく。
……するとその先にはこれから家が建つのか、建設資材の置かれた空き地があり、そこに違和感の主がいるのか、なんとも不穏な気配が漂ってくる。
「クキュン?」
と、グリ子さん。
どうやら結界に違和感があるらしい。
町に張った結界と、自分達を守る結界、両方に何か反応がある。
「あれ? 結界張ったままだと悪人は近付けないんじゃ?」
と、ユウカ。
「キュキューン」
「今回は調査のために、特別問題のあるような存在『だけ』を弾く結界にしていたらしい。
そうじゃないと犯人を見つけることも出来ないからね」
と、ハクト。
「ああ、なるほど……。
ということはつまり、この先にいるのはそんな存在であるということですか……。
なら本気でやらなきゃダメですね……!」
そう返したユウカは気合を入れ直し、魔力を練り上げ……ハクトも糸を広く展開させながら空き地に近付いていく。
すると近づく度に光が放たれ……そしてグリ子さんの結界と思われる見えない壁を染め上げる。
何者かが結界に何かをしているのは明白で、一体何が起きているのかとハクト達が警戒していると、壁にヒビが入り……黒い何かがそのヒビからにゅるりと滲み出てくる。
「うわ、気色悪い!?」
と、ユウカ。
ハクトは無言で手をユウカの前に出し、まずは自分が調べると無言のうちに伝えて、それからその黒い何かに糸を放つ。
するとソレはあっさりと糸を打ち払う。
人型になって腕を作り出し、それでもって見事なまでに全ての糸を打ち払い、それに打ち払われた糸は青い炎で焼かれてしまう。
すぐさまハクトは糸を切り離し、それ以上の延焼を防ぎ、それを見てか小さく笑ったソレが声を上げる。
『よくもまぁ結界で押しつぶすなんてことを……!
こちら側の結界が弱かったから何とかなったものを……!
この世界の住人はどうしてそう無礼なのだ!!
かつての、超古代の時もそうだ! 来訪しようとした神々を打ち返しおって……!!
再びの来訪の機会を奪おうと何故そうも抵抗する!!』
ハクトは「なるほど」と思う。
この黒い何かはグリ子さんの結界に追いやられていたらしい……だから追う度に逃げるように押しやられて、最終的には結界に挟まれてどうにもならず、こちら側にどうにか滲み出てきたと、そういうことらしい。
その言葉の意味についてはよく分からない……神々を打ち返したとは?
来訪しようとして打ち返した?
こちらの世界の住人は神々だけでなく幻獣には敬意を抱いていて、わざわざ召喚している程なのに?
しかも超古代とは? 古代以前はまさに神々の世界であり、そこら中に神々がいたというのに??
『そもそもだ、召喚とは何だ!
惑星間移動をただそう呼んで、異世界などと言ってありがたがって……!
愚かしいとは思わんのか!!』
「……なるほど、そういう論があるのは知っている。
しかし所詮は論で証明された話ではない……まさかそれを証明したがっておかしな儀式をしていたのか?
真っ当な研究で成果を出せば良いものを……自分をそうまで異形へと貶めるとは……。
さっきの連中も同類か、そうなってしまったらもう人間とは言えないだろうに」
ハクトがそう返すと、ソレは言葉とは言えない言葉を発し始める。
怒っているのか、おかしくなったのか……表情と言うか、顔がない上に言葉が通じないので理解が出来ない。
不定形……黒色のスライムの人型。
言葉を話し、その思想の在り方から元人間であることは確かだが、体も心も歪んでしまったようだと呆れるハクト。
そんなハクトを見てユウカは何かを言いたげにする。
グリ子さん達も少しだけ物言いたげな顔をする。
しかし誰もが面倒そうだから良いかと諦めて……目の前の敵と向かい合う。
ハクトの魔力が込められた、特別頑丈な糸を燃やすようなスライムだ、ユウカの攻撃も通用しない可能性があるが、それでも戦わない訳にはいかない。
「クッキューン!」
そこでグリ子さんの声が上がる。
その羽毛が黄金に輝いて何本か抜け落ち、ハクトとユウカの体に触れて……溶け込む。
それでハクトの糸とユウカの拳が光り始め、何がなんだか理解出来ないままだったが、ハクトとユウカはこれなら問題ないのだろうと信じて、構えを取る。
『愚か者共め……!
真なる神々は再び来訪なさろうとしている!
貴様らの支配はこれまでよ! せいぜい悪あがきをするが―――』
それに対し、何かはそんな声を上げるが、言い終わるのを待たずユウカの拳が炸裂する。
すぐさまソレの頭が弾け、喋れなくなり……そこからユウカの連打が始まる。
『ま―――』
『おい―――』
『き―――』
その途中途中、どうにか頭を再生させて声を上げていたスライムだったが、それでもユウカの連打は止まらず、徹底的に、これでもかと殴られ続けるのだった。
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