謎の敵
ハクトとグリ子さん、グリ子さんの上に乗ったフォスという面々でゆっくり歩いていく。
ハウメア神が通った跡ということもあって、いつもの日常という訳にはいかないが、道行く人々は皆笑顔で満たされていて、穏やかな空気が流れていた。
当たり前の光景である住宅街に、南国フルーツの木々、そこから漂う甘い香りに、それらを加工して販売する露店の数々。
これだけ自由に果物が手に入る中で、わざわざ買う人なんていないだろうと思う所だが、原価がほぼかからないということで格安で、ただ食べるよりも美味しくて、今の空気感……祭りの中にあるような心持ちが人々の財布の紐を緩めていた。
実際に神々からの賜り物を食すという行為は祭りのそれ……神事に近く、露店の中には神職の姿があったりもする。
どうやら今回の騒動を受けて、記念神社の建立まで検討されているらしい。
ハウメア神を祀って良いかまでは現地との調整が必要だが、今回の騒動を記念する形なら問題ないだろうとのことで、神社庁も色々と動いているという。
その流れで神職も参加しているのだろう……もうこうなったら騒ぎ全てがお祭りのうちだ。
誰もが楽しみ、満たされ、幸せになり……。
「神々の力は凄いなぁ」
「クッキュン」
「ぷっきゅん!」
ハクトの言葉にグリ子さん達は同意する。
その凄い神様と友達だというグリ子さんに、ハクトとしては色々と思うところがあったが……あえて何も聞かずに調査に集中していく。
……その途中違和感がある。
殺気とも魔力とも言えない不思議な気配。
それが敵であるのならグリ子さんが弾いてくれるはずだし、存在に気付くはずなのだが……そうした反応はなく、ただ気配だけがある。
それは無視しても良いような違和感だったのだが、ハクトはこれも調査すべきだろうと決めて……気配を誘導するように街中から離れていく。
そうしてハウメア神が踏み荒らした土地の一つ、すっかりと更地にされた空き地へと足を踏み込んだ瞬間、地面からその気配が浮き上がってくる。
ローブ姿の人、20人くらいの人型、しかし人間が地面から生えてくるはずもなく、その悍ましい気配からもまともな存在ではないと判断したハクトは、即座に糸を展開し、グリ子さんも翼を広げる。
「プッキュン!!!!」
そしてフォスは威嚇の声を上げ、同時に人型が襲いかかってくる。
瞬間、ハクトは人型を糸で縛り、引っ張り寄せて人型同士をぶつけ、そのまま一緒くたに縛り上げる。
衝突のダメージと拘束と、その上で更に蹴り飛ばすことでダメージを加速させる。
グリ子さんは直接は何もしない。
しかし守護の加護と幸運の加護……同時に相手に不幸の呪いをかけることで、攻撃を命中させない。
攻撃しようと走れば足がもつれ、石を踏んで転び、何故か穴があってそこに足がハマる。
勝手にハクトの糸に絡まり、バランスを崩して抱き合いながら倒れてもみ合い、どういう訳だかグリ子さんに近づくことすらままならない。
それでもと立ち上がり、必死に縋りつき……地面を這いつくばってじわじわと距離を縮めて、あと一歩でグリ子さんに手を届くという所で、凄まじい轟音が乱入してくる。
「とぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
それはユウカの声だった。
全力で駆けて跳び上がり、空中で何故か加速して凄まじい速度のキックを放つ。
それを受けたローブ姿は吹き飛んで地面を転がり……その果てにローブごとドロリと溶ける。
「うわっ、キモチワルぅ!?」
「とりあえず人間ではないと分かった、よくやった! 風切君!」
ユウカが悲鳴を上げて、ハクトが歓声を上げる。
そこからはハクトも容赦がなくなり、本気での攻撃を仕掛けていく。
糸で串刺しにし、首を吊り上げ、死んでも構わないといった苛烈な攻撃を仕掛けていく。
そしてグリ子さんは……フォスのことを胸の羽毛で抱きかかえ、それから魔力を込めて羽毛を硬化させ……そこからまさかの巨大化。
人型を押しつぶせる程度の大きさとなってから、ゴロゴロと転がり始める。
そうやって次々に人型を轢き潰していって……あっという間に敵を全滅させる。
それが終わったなら汚れた羽毛をまるで脱皮かのように脱ぎ捨て、その中からグリ子さんとフォスがぽんっと弾け出てくる。
ツヤツヤと煌めき、まるで風呂に入りたて、輝く羽毛は柔らかそうで……たまらずユウカとフェーは駆け寄って抱きつく。
「風切君、良いタイミングだったよ」
糸で敵の残骸の調査をしながらハクトがそう声をかけてくる。
「なんか凄い嫌な予感がしたんで走ってきたんですよ。
本当は色々屋台見て回りたかったんですけどねぇ……で、なんですか、アレ?」
ユウカはそう返しながらグリ子さんを堪能する。
「……アレこそが黒幕の一部なんだろうが、あくまで一部、本体は別にいるんだろうね。
しかし何がどうなっているのかがまるで見えてこないな。
せめて正体のヒントくらいは欲しいのだが……。
……ここで襲いかかってきたということは、この周辺に何かある、のか?
気配を感じ始めたのは少し離れた所だったから、その辺りから調査をしても良いのかもしれないね」
「そうですねぇ……ここまでの途中で怪しいとこはなかったですけども……。
……んー、むしろこの先かな。
多分ですけど本命に近付いているからこそ焦って出てきたんじゃないですか?
ハウメア様に散々に踏まれて、拠点どんどん潰されて……残った最後とか本拠地とかを必死に守っている、とか?」
「必死に……か。
ここも踏み潰された拠点の一つだから、それはあり得るかもしれないね。
奴らの気配が出現した地域は、役場に通報して調べてもらうとして、俺達は更に先に進むとしようか。
えーっと、出現地域からこの空き地まで線を結んだとしてその先か……。
確か大きな沼があったかな? 沼に何かを作るなんてのは不向きだとは思うが、調べることに意味があるはずだね」
と、そう言ってハクトは、居住まいを正し糸を回収し、出立の準備を整える。
グリ子さん達もユウカもそれに続き、先にあるという沼を目指して足を進めていくのだった。
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