調査開始
「お疲れ様です、大僧正」
数日経って、国内中を歩き回ったハウメア神が西に去り、ようやく大役から解放されたブキャナンを自宅に招いたハクトがそういうと、ソファに沈み込んだブキャナンは消え入りそうな声で「ハイ」とだけ応える。
「とりあえずハウメア神の恵みで作ったジャムやパイがありますし、新鮮なものも冷やしていますので……それを食べて疲れを取りますか?」
「……ハイ。
ア、一応言っておきますと、ハウメア様の恵みを享受するということは、その教えを享受するということ。
その辺りを理解した上でお食べになっておられますか? 他の教えを遵守している場合は食べない方がよろしいですヨ」
「はい、分かっています。
まぁ、我が家は特に厳しい教えとかもないので、問題ないですね。
……大僧正はその辺りよろしいので?」
「エェ、アタクシも問題はありやせん。
そもそも生まれた世界にはそういう制度もございやせんし、今まで何度様々な教えを享受してきたか、数えだしたらキリがございやせん」
そういうことならとハクトはブキャナンのためのフルーツフルコースを用意し始める。
一方ブキャナンは疲れもあってか、人の姿から元々の姿……烏天狗の姿となって、油断しきった顔でリビングテーブルにつき、ワクワクとしながらコースが揃うのを待つ。
ヨーグルトフルーツサラダに、パンにジャム、フルーツポンチにジュース、シャーベット。
ハクトなりに保存、消費がしやすいように整えたそれらが揃ったならブキャナンは、スプーンとフォークを器用に操って食べ始め……満面の笑みで食べ進める。
食べて飲んで舐めて……そうして人心地ついた頃、ブキャナンがゆっくりクチバシを開く。
「フゥ……落ち着きました。
そう言えばハクトさん、お気付きになられましたか? ハウメア様がヒントを残していったことに」
「……やはりですか?
途中、子供の救済とは一切関係ないルートを歩かれていましたから、その辺りかなとは思っていましたが」
「エェ、実は今回ハウメア様は、五箇所だけ建物を踏み潰しておられます。
そこを調査しました所、ある宗教団体が複数のダミー会社を通して所有している物件ということが分かりました。
……以前、異界から物騒な召喚をしようとした団体と同じ系統の団体らしく、流石に問題があるということで四聖獣が動いております」
「……四聖獣が?
……まぁ、確かに他国の神様まで動かすレベルの騒動となれば、当然ですか。
しかしまぁ、四聖獣が出たなら解決は早そうですね」
「……そうだと良いんですがねぇ、アタクシにはなんとなく嫌な予感がしてしまうんですよねぇ。
そもそもとしてかの宗教団体はどこから湧いて出ているんでしょうねぇ。
このご時世、そこまで世が乱れているということもなく景気も悪くなく、疫病もない。
おかしな宗教が流行る下地がないのに妙に人数だけはいる。
……こうなるともう異界の神々が洗脳でもしてなければ辻褄が合わねぇと言いやすか、恐らくそうなんじゃねぇかって証拠、証言も集まりつつあるんですよねぇ」
「……まぁ、それもあり得る話だとは思います。
しかしそうなると、こちらの神々が黙っていないのでは? 自らの領域を荒らされたようなものでしょう?
……何柱か、そんなことされた瞬間に殴り込みそうな神々もいらっしゃいますが……」
「そうさせないための四聖獣でもありやすねぇ。
彼らが動いているならと、納得し大人しくしてくださる神々もいらっしゃいますので」
「……なるほど。
つまりこちらの世界がヤバいというよりも、干渉を続けているどこかの世界がヤバい、と。
……四聖獣が動いているなら必要ないとは思いますが、一応俺も動いてみます」
「お願いしやす。
グリ子さんであれば、その運の良さでなんとかしてくださるかもしれやせん。
……ただし四聖獣と鉢合わせることには気をつけてくだせぇ。
以前よりサクラ先生が勧誘しているということは四聖獣にも知れ渡っておりやす。
顔を合わせれば当然、それに対するそれぞれの反応を見せてくることでしょうから」
「了解しました。その辺りもグリ子さんにお願いして対処しますよ」
ハクトがそう言うと、ブキャナンはごきげんとなってフルーツを再びクチバシに運び始める。
在庫はまだまだあり、家中に南国の香りが漂っている。
ハクトとしても、そうやって食べてくれるのはありがたく……むしろもっと食べろと次から次へと用意していく。
すると昼寝をしていたグリ子さん達も食べたいと騒ぎ出し、結局家をあげてのフルーツパーティとなる。
そうして次の祝日、ハクトは早速調査に出ることにした。
グリ子さんとフォスを連れて……ユウカとフェーは遅れての参戦となる。
まず向かうのはハウメア神が踏み潰した物件……既に調査が終わり、撤去解体工事が始まっていて、近隣や所有者からの抗議といったトラブルはない様子。
どこでも見かける工事風景……違和感もなくおかしな魔力の流れもなく、ならばと次の物件へと足を向ける。
出来るだけハウメア神と同じ道程で、しっかりと調査をしながら慎重に……。
地図を見てルートを書き込んで、その順番にも何か意図がないかと調べて。
そうやって全部周って……特に発見はなし。
既に調査をされて、証拠らしいものも全て回収されているのだから、当然ではあるのだが空振りに終わり……それでもハクトは何かないかと探っていく。
一度回ってダメならもう一度、今度は逆周りで……しかし何もなし。
これではダメかと諦めかけたその時、解体現場の廃棄物をまとめ入れる鉄箱からコロンと何かが転げ落ちる。
それがグリ子さんの足元に転がって、グリ子さんが拾い上げて、自然な形でハクトへと渡される。
それは何かの破片だった。
恐らく星型の何かの突端、その破片……色は黒と赤、禍々しさを感じる模様となっていて、明らかに問題のある品だった。
即座にハクトは自らの糸でそれを包み込み、グリ子さんの羽毛を数本もらって、それでもって更に包み込む。
そうして何かを封印したハクトは、それがなんらかの手がかりになるだろうと考えて……とりあえずブキャナンに押し付けるために、庵の方へと足を向けるのだった。
お読みいただきありがとうございました。




