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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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行進



 上陸したハウメア神の歩みは、基本的に周囲の状況に配慮したものだった。


 ブキャナンが用意した儀式の場や、歓迎式典の場へは被害を出さずに移動し、静かにその様子を見守った。


 しかし言葉や儀式に応えるようなことはなく、ただ見守るだけだった。


 それを見てテレビのコメンテーターが、ハワイの神だから言葉が通じないのでは? などと言ったりもしたが、相手は幻獣であり神話級……いや、神そのもの、どんな言語でも聞き取ることが可能なはずで、応えないのはハウメア神なりの思う所があってのことなのだろう。


 あるいは神にとってはそんな歓迎では足りなかったのかもしれない……とにかくハウメア神は儀式や式典を静かに見守り、それらが終わると何も言わず微笑みながら歩みを再開させた。


 しかし今度の歩みに気遣いはなかった。


 いや、多少はあるが目的地がハッキリしているようで、おかしな遠回りはしてくれない。


 それでも被害は出さないように配慮しているし、被害を与えた場所には加護を与えているのだが……急変とも言えるその動きは、世間を騒がせた。


 そうして向かった先は、ハクト達が仕事をした病院。


 そこでハウメア神は、まるで病院を抱きかかえるような仕草を見せて……病院の中から光る玉を抜き取る。


 それを見てテレビのコメンテーター達は、入院患者の魂か!? と騒いだが、そんなことはなく、彷徨う魂をすくい上げただけのことだった。


 そうして魂を抱きしめたハウメア神は、ハクト達には聞き取れない歌を歌い始め……足元から一気に果樹が広がる中、光る玉が大地に溶け込んでいく。


「……先輩、あれは?」


 テレビの中継放送に釘付けになっていたユウカが声を上げる。


「……恐らく成仏かな。

 成仏というよりは、大地に還ったという所なのだろう。

 ……大地の力を司る地母神な訳だから、母に還ったとも言えるのかな。

 どちらにせよ救済であることは確かだ、あの歌で浄化をし、穏やかな気持ちにさせた上で成仏させたのだろう」


「……なるほど。

 ……あ、また歩き出した」


 とのユウカの言葉の通り、ハウメア神は再び歩き始め、宛があるのかないのか、あちらこちらを彷徨うように歩き、そして何かを見つけては抱きしめ、歌を歌い、魂を成仏させていく。


 もう目的は達成したからと、手当たり次第なのか、それとも最初からこれが目的だったのか……とにかく縦横無尽に国内を歩き回る。


 ハウメア神が作り出した果樹は、美味しい上に栄養満点、難病にも効くとかで、食べたいのか、売り飛ばしたいのか、そこら中の人が殺到するものだった。


 しかしそんなに歩き回られると、食べきれないというか、どこの誰でも簡単に手に入る品となってしまっていて、時たまテレビのカメラがその場を映すが、最初は殺到していた人々も今はまばら、果樹も取り尽くされたような様子はない。


「……こうなるとむしろ、急いで食べないと腐り落ちるんじゃないかな。

 国内中が凄い匂いになりそうだが……流石にそうなる前に政府が動くかな。

 多少栄養価が落ちるとは言え、缶詰などにできるのだろうし、ジャムなどにもできるだろう。

 ……国内中の工場がしばらくの間、フル稼働になりそうだねぇ」


 と、呑気なコメントをするハクトに、ユウカは自分も食べてみたいとソワソワとする。


 そうするうちにハウメア神が、近所をかすめていって……しばらくの間、地響きがなり続けて、そしてすんと静かになる。


 それを待っていたとばかりに立ち上がるユウカ。


 ハクトが仕草で行って良いよと許可を出すと、まず隣の実家へと駆けていく。


 そして家から持ってきたらしい、背負って抱えて両手に持ったリュックと共にどこかへと駆けていって……そうして一時間程で、その全てを大きく膨らませて帰ってくる。


 それをまずは実家に持っていき、ほとんどのリュックを置いて、ハクトの家には一つだけを持ってくる。

 

 しかしそれでも登山用、フルーツをたっぷり入れたなら相当な量で、リビングのテーブルに並べていくと、テーブルを埋め尽くさん量となる。


「うぅーむ、香りが凄いな。

 八百屋さんとかで嗅ぐのとは別格というか、ここまで南国の香りが強いとはなぁ。

 トロピカルジュースをそこらにぶちまけたかのようだ」


 それらを見やりながらハクト。


「現場もすごかったですよ。

 香りが充満して、鳥だけじゃなくて猫とかも集まってました!

 あと子供達! バナナの木が特に人気でしたねぇ」


 と、ユウカ。


「南国フルーツと言えばやっぱりバナナか。

 ……まぁ確かに現場で食べやすい果物でもあるしな」


 ハクトがそう返す中、幻獣達がテーブルに殺到し……ハクトはあらかじめ用意しておいたカットナイフでフルーツをカットしていき、幻獣用のデザート皿に盛り付けていく。


 もちろん自分達のためにもカットして……一通りカットしたなら、それぞれ椅子に座って食べ始める。


 バナナ、パイナップル、マンゴー……などなど。


 流石にココナッツはナイフではどうにもならないので後回し、まずは南国らしいマンゴーかと食べてみると、驚く程に美味しい。


「いやまぁ……マンゴー自体初めて食べるようなものだが……初めて食べる味だ」


 と、ハクト。


「すっごく美味しいです!! 砂糖とかとは全然違う甘みですねぇ」


 と、ユウカ。


「クッキュ~~~ン」

「プッキュン!!!!」

「わふ~~~」


 と、幻獣達もごきげんだ。


 食べれば食べる程に腹が空き、飢えだけでなく渇きも癒されて、渋みなどは一切なく、飽きることがない。


 これで健康にまで良いのだから文句のつけようがなく、誰もが食べるのを止められない。


 あのグリ子さんまでが夢中になっていて……ハクトはその凄まじさに戦慄しながらもどんどん食べていく。


 そうして切り分けたフルーツの大体を食べ終えたところでハクトは、残りのフルーツを抱えて、幻獣達の食料用にと倉庫に買っておいた業務用冷蔵庫に押し込んでいく。


 これ以上は流石に食べすぎだ、目の前にあると食べてしまうと、ほとんどをしまって……残ったのはココナッツ。


 流石に大きすぎるそれは、冷蔵庫にしまえるものではなく……さて、これをどうしたものかと首を傾げながらハクトは、リビングに戻っていくのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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