威風堂々たる
役所での諸々の手続きと、ブキャナンによる役所全体に対する嫌味を終えて、ハクト達は役所を後にしていた。
なんとなく重い足取りで歩を進める中で、ユウカが声をもらす。
「あの、先輩。
今日出会ったアレも、ただの残留思念だったんですかね?
それにしては……その、ブキャナンさんが随分お怒りのような??」
それを受けてハクトではなくブキャナンが声を返す。
「普通は、一般的には、ほとんどの場合、幽霊と言えば残留思念でございやすが、今回は随分と魂が関わっていたようですねぇ。
不幸にして亡くなった子供の魂を利用してやろうだなんて、全くもって許しがたく……。
いや、いけませんな、やたらに憤るのではなくその不幸を減らす努力をアタクシもしていかなきゃいけやせんねぇ」
「……それは救いがないですね」
と、ユウカ。
子供が深く関わっていたとしって声も重くなっていく。
「……ま、救いはあるんでご心配なく。
今回のような悲劇には慈愛を……神話級の幻獣に助けていただくとしやしょう。
幸いにしてこの世には地母神と呼ばれる方々が多くいらっしゃいます。
子供達の魂が救われるよう、母の愛に縋るとしやしょう。
……たとえば近くで言えば鬼子母神、母ではありやせんが地蔵菩薩という子供の救い手もいらっしゃいやす。
軽々に頼るべきではない方々ですが、今回のような内容であれば、むしろ率先して動いてくださることでしょう」
「あ、お地蔵様ってそうなんですか?
えぇー……見かけても手を合わせるくらいだったけど、今度お供えでもしておこうかな?」
「きっと貴女も子供の頃に助けてもらってることでしょうから、そうしてやってくだせぇ。
こういう時にはとても頼りになるお方でございやすから」
と、ブキャナンがそう言った所で、
「クッキュン!」
グリ子さんが声を挟む。
「はぁ!?」
「なんとぉ!?」
それを受けてハクトとブキャナンが声を荒げる。
二人とも驚きすぎて顎が外れそうなくらいに大口を開けてしまっている。
「えっと、グリ子さんはなんて??」
グリ子さんの言葉が分からないユウカは状況が全く見えず、説明を求めるが……しかしハクトもブキャナンも駆け出してしまって、答えを返してはくれない。
ブキャナンは役所の中へ駆け戻り、ハクトは役所の玄関近くに並んでいる電話ボックスへと駆け込んで誰かに電話し始める。
何やら尋常ではないことが起きていることを察したユウカは、それ以上の質問をせずにハクトの側でぐっと我慢し……しかし気になって気になって仕方がないためにソワソワとし続ける。
そうしていると電話を終えたハクトが青い顔をしながら電話ボックスから出てきて……どうしてなのか嬉しそうにハクトを見上げるグリ子さんのことをそっと撫でる。
「……えっと、先輩?」
「……ああ、さっきグリ子さんはこういったんだ。『お友達の母神を呼んだから大丈夫だよ』ってね。
神様が動くとなると大事だからね、サクラ先生を始めとした関係各所に電話していたんだ」
ユウカの問いにハクトがそう返す。
そしてユウカは目を丸くしてから、え?? と声を上げ、言葉を続ける。
「えっと、グリ子さんのご友人ということは元々の世界の? え? え? 来ちゃうんですか?? こっちに???」
「そうかもしれないと、俺達が焦った訳だね……。
召喚ではなく、神による世界転移などとんでもない影響が―――」
「クッキュン!!」
またグリ子さん。
『違うよ、こっちの世界のお友達』
と、そう言って更にハクトを困惑させる。
「こっちの世界でいつのまに神々をお友達に!?
こっちの母神?? ど、どこの?? ま、まさか黄泉の国の伊邪那美神様じゃないだろうね!?」
そうしてハクトが上げた悲鳴に対し、グリ子さんはあっけらかんと、
「クキュキュア」
と、言葉を返す。
「……ハウメア? ……ハウメア?
どこの神様だったか……聞き覚えはあるんだが……?」
そう言ってハクトが考え込む中、ユウカがぽんと手を打つ。
「あ、ハワイの神様ですよ、ハウメア様って。
ハワイ旅行にいった時にガイドさんから説明してもらいました!
……えーっと、確か火山の神様を産んだ母神様ですよね。たくさんの神様を産んだとかでー……でもそれ以上の詳しい話は聞かなかったような?」
「……は、ハワイか。
ハワイは長らく文字のない文化だったから、神話の多くが口伝なんだよな、確か。
そのせいで神様についてもまちまちな情報が多いというか、ハッキリしないこともあって……火山の神であるペレ様だったら知っているが、その母神となると……どんな神様なんだ??
っていうかグリ子さん、一体全体どうやってハワイの神様と交流を??」
そんなハクトの疑問の声にグリ子さんは、ただ体を傾げるばかり。
……幻獣にしかできない通信法でもあるのかとハクトが頭を軽く抱えていると、役所に報告に行っていたらしいブキャナンが駆け戻ってくる。
そして声を上げる。
「は、ハクトサン!? ハワイに『威風堂々たるハウメア様』が突如出現し、移動を開始したそうで、あちら様はそれはもうお祭り騒ぎとなっているようでやす!!
『火山』を産める程の巨体で歩いていらっしゃるというのに、踏みしめた地面が全く揺れもせず、海をかきわけても波が起きず、さすが神様と言わざるを得ません!!!
それ程の巨体の顕現、それだけで大騒動だというのに、まさか海を渡ってこちらにいらっしゃるとは……!?」
「……か、火山の母だからって、そんな巨体って……。
いや、そんな巨大な幻獣が現れたら、正気を失ってしまう人も出そうなんですが、その辺りは平気なんですか??」
それに対してハクトがそう返すと、ブキャナンはなんとも言えない苦笑いで言葉を返す。
「それが、巨体なだけで外見は人間と全く変わらねぇそうでやす。
ただ人間なだけでなく数百年に一度レベルのハワイ美人とからしく、それを見た現地の方々は大喜びといった様子だそうでして……あまりの美しさにヘリや船で追いかけてしまっている方々までいらっしゃるとか。
元々の信仰と合わさってそれはもう、本当の意味での、神々を祀るという意味でのお祭り騒ぎでございやす」
そう言われてハクトは絶句し、ユウカは楽しみだと笑い、グリ子さん他幻獣達も楽しげに笑う。
そうして前代未聞の神様による来訪が、数日後に実現してしまうのだった。
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