突入
屋敷の門の前に到着し、明らかな異常を確認された時点でブキャナンが調べておいてくれた公衆電話に向かい、課長さんに電話をする。
するとすぐに課長さんが調査礼状を手に駆けつけてくれて、ハクト、ユウカ、ブキャナン、課長さん、幻獣達という順番で門扉を開けて屋敷に入っていく。
「お邪魔しまーす、誰かいませんかー?」
無駄だとは思いながらも課長さんがそう声を上げる。
全くの素人である課長さんでも感じ取れる怖気は凄まじく、ここで暮らしている人などいないだろうと分かってはいるが、しかし役所の人間としては声掛けを欠かす訳にはいかずに繰り返していく。
門を通り、石畳を進み……そして玄関の呼び鈴を押して、反応がないからとブキャナンが戸に手をやると意外な感触。
そのまま引いてみると戸が開き……鍵はかかっていなかったようだ。
そのまま玄関に入り、靴を脱ぎ、スリッパ棚にあったスリッパを履いて課長さんの声が響く邸内を歩いていく。
和風板張り、ところどころに美術品、かなり豊かな家であることが分かる。
「……思ったより綺麗ですねぇ、幽霊屋敷と言えばボロボロなイメージですけど」
と、ユウカ。
「……まぁ、現代の街中でそんな屋敷を放置はしないからね。
埃の感じを見るについ最近まで人が暮らしていたようだ……しかしそうなら何故住民からの通報がなかったんだろうねぇ」
と、ハクト。
「まぁ、巻き込まれたと見るのが一番あり得る話でございやしょうねぇ。
……なんとも容赦のねぇ話で……。
ここまでの悪意、通常ならば四聖獣が出てくる案件でございやすので、皆様方お覚悟をお願ぇしやすよ」
と、ブキャナン。
そう言われて一同は気を引き締め、警戒感を増させ冷や汗をかき、体を固くし……板張りの廊下を歩いていく。
右には障子戸、居間でもあるのか数は多く……軋む廊下を進んでいくと、奥に座敷が見えてくる。
怖気はそちらから漂っていて、自然に身構えてしまう程の濃度で……これは何かがあるとハクト達が戦闘態勢を取っていると、そこから黒い影が現れる。
人型はしていない、黒く小さな雲といった印象、しかし気配は凄まじく、ブキャナンさえもが一瞬怯んでしまう。
それを見てハクト達もまた怯んでしまう、ブキャナンで無理ならばどうしたら良いのだと恐怖心が生まれる。
そこでハクトが考えるのは撤退の二文字、ユウカは先手必勝の四文字、それぞれにそう行動しようとした結果、体がぶつかってしまって転んだりはしなかったものの、一瞬動きが取れなくなってしまう。
課長さんは当たり前のように硬直していて、ブキャナンはようやく態勢を立て直していて、すぐさま術を展開しようとするが、黒い影の方が動きが早かった。
黒い霧を、怖気の塊を広げてハクト達を飲み込もうとする。
恐怖そのものと言って良い黒い霧は、近付いてくるだけで体が震えるもので、誰もが反応に遅れてしまう。
と、瞬間グリ子さんが飛び出す。
一切怯まず恐怖も感じず、威風堂々、羽毛を膨らませた毛玉が黒い霧に飛び込んでズゴゴゴゴゴと音を上げる。
それは黒い霧を吸い込む音だった。
クチバシを大きく開いて勢いよく吸い込み、満面の笑み。
あんな悍ましいものを吸い込むだなんてとハクト達は驚くが、グリ子さんは気にした様子もない。
そうして全てを吸い込んだならモグモグとクチバシを動かし……それをしばらく続けた後にペッと黒い石を吐き出す。
「クッキュン」
これで大丈夫。
そんな一言を受けてブキャナンは、懐からハンカチを取り出し、それで黒い石を包んでから持ち上げる。
「キュンキュン、クッキュン」
割らなければ触っても大丈夫。
そう続けたグリ子さんは、のっしのっしと堂々とした佇まいで屋敷の奥へと歩いていく。
直後ズゴゴゴゴゴゴと音が響き、どうやら他の霧もそうやって吸い込んでいるようだ。
進んでは吸って吐き出して、進んでは吸って吐き出して。
何度も何度もそれを繰り返し、黒い石を量産していく。
ブキャナンはそれを拾い上げ、屋敷の中にあった洗濯籠に入れて運び……ハクト達は一応警戒をしながら、戦闘態勢を取りながらグリ子さんを追いかける。
「いやはや、このレベルの怨霊もグリ子さんであれば平気とは驚かされやすねぇ」
「……大僧正でも無理なレベルをあっさりとは本当に驚きです」
ブキャナンが声を上げ、ハクトが続く。
「アタクシは典型的な方法で凝り固まっておりやすからねぇ。
伝統とも言えやす、典型的、伝統的、古典的だからこその強さと安定感がございやすが、その分だけ儀式などの手法が必要……。
グリ子さんは全く違う世界の、違う常識で成り立っておりやすから、簡単な駆除が可能なのでしょう。
……しかしまぁ、アレを吸い込むとなると危険は危険。
この屋敷を出た後に一応の浄化の儀式を行っておきやしょう。
なぁに、以前お見せしたものに比べれば簡単なものになりやすよ」
「……なるほど。常識が武器にもなるし弱点にもなると。
……浄化の儀式もお願いいたします。
まぁ、グリ子さんの魔力の流れを見るにその心配もなさそうですが……」
「ふむ……守護の幻獣の為せる技でございやすねぇ。
もしかしたら異世界でも怨霊が悪用されていたのかもしれやせんね。
宝を奪う際に送り込んで混乱を引き起こすなど……そうなれば守護の幻獣としては対策を知らなければ沽券にかかわるというものなのでしょうなぁ」
「なるほど……
魔力と魔法がより身近な異世界であれば、怨霊やそれに近い存在も身近であると。
……その分、防御や回避するための呪術なんかも盛んなのでしょうね……」
と、ブキャナンとハクトがそんな雑談をしている間も、グリ子さんの吸引音が響き渡っていて……ユウカやフェー達はそちらに興味津々。
恐怖も忘れて前のめりとなっている。
そうしていると吸引が終わったのか音が止まり……ハクト達はグリ子さんに追いつくことに成功する。
するとグリ子さんはいつになくキラキラと毛艶を輝かせていて……ハクトが怨霊すらも魔力にしてしまうのかと戦慄する中、ユウカはまたふわふわの羽毛を楽しめると喜んで、グリ子さんへと飛び込んで、満面の笑みで抱きしめるのだった。
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