ピザとグリフォン
数日後の休日。
ユウカが遊びにやってきて、ピザの残り香嗅ぎつけてソファに座るなり声を上げてくる。
「先輩! ピザですか! 私も食べたかったです!」
それを受けて茶を用意していたハクトは、作業を進めながら言葉を返す。
「……開店したばかりのピザ屋のチラシを見てね、食べたいのなら君も注文すると良い。
風変わりなピザばかり頼んでみたけど、どれもこれも美味しいピザだったよ、特にチーズが良かったかな。
アレはかなりの良い品を使っていると思うよ」
「おお~~、チーズが美味しいのは良いですねぇ。
良いチーズかぁ……どういうのが良いチーズなんですかね? やっぱり外国産ですか?」
「どうだろうね? 国産でも十分美味しいというか、俺達の舌に合うように作られた国産の方が美味しかったりするからなぁ。
……外国産の高級品ならチラシでそう宣伝するだろうし、国産のものじゃないかな?」
ハクトのその言葉と淹れたての茶を受け取って、茶を飲んで少しの間黙り込んだユウカは、何か思いついたことでもあったのか目を輝かせてから口を開く。
「先輩、牛の幻獣とか羊の幻獣っていますよね? なら幻獣のチーズって存在するんですか?」
「うん? まぁ、あるにはあるが庶民が食べられるようなものではないよ?」
「……えっと、そんなに高いんですか??」
「高いとも、幻獣のミルクだけでも貴重なのに、それをチーズにするための酵素もまた貴重なんだ。
その幻獣ごとに必要な酵素が違ってね……たとえばサクラ先生の幻獣である金羊毛羊のミルクをチーズにするためには、ネクタルが必要とされている。
……ネクタルというのは、不老不死をもたらすという神話の飲み物のことだね」
「えぇっとぉ……それって実在するんですか?」
「チーズが実在しているからね、恐らくは実在していると思うよ。
あるいは実在していた、かな……神話時代には少なくともあったようだ」
「……はい? 神話時代のチーズが現存しているんですか??」
「不老不死の飲み物で作っているからねぇ。
それとチーズはそれ自体が保存食でもある……チーズではないが同じ保存食のバター、普通のミルクで作られた普通のバターなどでも神話時代のものが現存しているからねぇ。
普通のものでも現存出来るのだから、幻獣のものとなれば尚の事だろう」
「……はいぃぃ? 古代のバターですか? なんでそんなものが??」
「ボグ・バターと言ってね、寒冷地の泥炭地などには神話時代の人々が埋めたバターが今も残っているんだよ。
当時の人々にとって腐らないカロリー源は貴重なものだった、時には財宝よりも価値があるものだった。
泥炭地に埋めておけば腐らないことを、バターを分解させたり腐敗させたりする生物、菌類がいないことを知っていた神話時代の人々は、貯金などに近い感覚で地面に埋めていたようなんだ。
そしてそのまま忘れてしまったのか、事情合って掘り出せなくなってしまったのかは分からないが、かなりの量が今も埋まっているそうだよ」
「へぇー……普通のでも腐らないから幻獣の力があればより腐らないということですか。
……えっと、腐らないのは良いとして誰か食べたりしなかったんですか? よく現代まで残ってましたね?」
「食べた者は当然いるけどね、しかし手に入れても食べない者がほとんどかな。
……まず第一に気軽に食べられるような値段をしていないんだ、たとえばそうだな、今一口分を買おうと思ったら、風切君の貯金の1万倍ほどの財産が必要になるかな。
それと……全てのチーズがそういう訳ではないが、たとえばネクタルが入ったチーズには不老不死の力がある。
食べれば不老不死になり……永遠に生きなければならない。
たとえ地球が滅び、世界が滅び、虚無の世界となっても生き続けなければならない。
その覚悟を持てる者は……まぁいないだろうねぇ。
他にも不老不死になったとしても体が強靭になる訳ではないから、体をバラバラに刻まられるかもしれない、捕食されるかもしれない、溶岩にでも突き落とされるかもしれない。
それでも死なない、嫌でも生き続ける……不老不死は苦痛を取り除いてくれる訳ではないんだ。
不老不死を求める者達からの襲撃に怯えながら生きる不老不死というのは地獄を超えた地獄なんだろうと思うよ。
ちなみに記録上食べた者はいても、現在生存を確認されている者は一人もいない……つまりはまぁ、そういうことだね」
「うわぁ……そんなとんでもないチーズは食べたくないですねぇ。
そういうおかしなのじゃなくて普通に美味しいチーズとかはないんですか?」
「あるにはあるが……美味しい美味しくないも好みの問題だったりするからね。
臭いとかクセが強いとか、甘すぎるとか酸っぱすぎるとか、好みによってそんな反応があるみたいだね。
それでいて値段は他の幻獣チーズと同じくらいに高い。
裁判記録とかを調べると、大金をはたいたのに大して美味しくないチーズを掴まされ訴訟を起こした、なんて記録が複数見つかるはずだよ」
「……えーっと、私の貯金の一万倍でしたっけ……。
それで一口の美味しくないチーズは、だいぶ嫌ですねぇ。
……うーん、最高に美味しいピザとか食べてみたかったんですけどねぇ」
「……幻獣が絡む美味しいピザかぁ。
それなら幻獣素材のピザではなく、幻獣が作ったピザが良いのかもしれないねぇ。
それも絶対に美味しいという保障は出来ないが、まだ手頃な価格で楽しむことが出来るぞ。
……ただし配達などはやってくれないから、その店に行って食べるしかないかな」
「なーるほど?
うーん……絶対に美味しい訳じゃないなら、わざわざ行く程では……」
と、ユウカがそう言いかけた所で、グリ子さんが足元までやってきて、ユウカの足をつつき、声を上げる。
「クッキュン! キュン! キュキュン!」
その言葉の意味が分からないユウカがハクトを見やると、ハクトは冷や汗を浮かべながら翻訳をしてくれる。
「こ、ここにも料理上手な幻獣がいるよ、作ってあげるよと、そう言っているな。
……えっと、グリ子さん、料理出来た……んだ?」
「キュン! キュキュン! クッキュ~~~ン!!」
「ぴ、ピザだって作れると自信満々な様子だね。
えっと……風切君?」
と、ハクトが問いかけるとユウカは、その目を輝かせて大喜びをし……そうしてグリ子さんによるピザ作りが、決定してしまうのだった。
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