変わり種ピザ
翌日からはいつも通りの日々が戻ってきた。
相変わらず報道では鉱石人のことがあれこれと語られて、学者達がそれぞれの持論を語ってはいるが的を射たものはなく、仮説止まりの話ばかり。
当分は彼らの秘密が明らかになることはなさそうな雰囲気だ。
ハクトが受け取ったカップが何なのかも分からないままなのだろう。
……しかしハクトは一晩立って冷静になったからか、段々と使い道についての察しが付き始めていた。
あの大きさ、宝石のようなものが消える仕組み、ハクトの家にはあのカップの大きさによく合う石があり……金庫の中のそれを入れた時に何かが起こるのかもしれないと、察していた。
グリ子さんと仲の良い鉱石人がそれを渡してきたというのも、それが正解であるという可能性を高くしていて……かといって試すのも少し怖くあり、急いで確かめる必要がある訳でもないので、察していながらも放置を決め込むことになった。
……そうして日常に戻り、仕事に励む日々が続き、数日後。
帰宅したハクトが、リビングのテーブルに置いておいたチラシのチェックをしていると、新規開店との文字が目に入る。
「……また飲食店が増えたのか、最近多いなぁ」
いつもの椅子を軋ませながらそんな言葉をつぶやく。
ここ最近毎日のように見かける文字、これで何店舗目なのか、近所に次々飲食店が出来ている。
「それだけ景気が良いってことなのかな」
なんて独り言を口にするハクト、実際には近くにグリ子さんやフォスがいるので独り言ではないのだが、返事を求めている訳ではないので独り言と言えた。
「……カレー屋、トンカツ屋、ラーメン屋、そしてこのチラシはピザ屋か」
一日に何枚も新規開店、そんなに需要がある町とは思えないが、実際に次々開店していて……そして特に目立つ色合いのピザ屋のチラシにハクトは目を奪われる。
ピザ屋は既に近所に数店ある、有名チェーン店も出店している。
だというのに更にピザ屋……日常的に食べるようなものではないピザとなると、更に需要は厳しくなるだろう。
それでもあえての出店となれば当然のように目を引くのだが、更にチラシの内容が目を引いてくる。
ピクルスだけのピザ、パイナップルだけのピザ、リンゴシナモンピザ、ピーチピザ、ナシピザ。
「……ピザ??」
思わずそんな声が出てしまう。
王道と言えるような具のピザは一枚もなく、写真はどれもこれも異色の具ばかり。
一応チラシの下部によく見かけるピザの名前と価格だけは書いてあるが、あくまでそちらはオマケのようで、チラシの写真はどれもこれも初めて見るようなピザばかりだった。
普段ならばそんなチラシ、さっさと捨ててしまうのだが、これだけの強気なチラシだと不思議と興味が湧いてしまう。
そうしてハクトがチラシをじっと見つめていると、そんなハクトに興味を持ったのか、グリ子さんが足元までやってきて首を傾げ、フォスはテーブルの上に降り立ってチラシを覗き込む。
「ああ、このチラシが気になってね……中々面白いピザばかりだろう?」
「クキュン!」
チラシを見てグリ子さんは、興味があるなら食べれば? と、答えを返す。
それを受けてハクトはチラシをもう一度見て、やけに高いその値段に怯みながらも、たまの贅沢だから良いかと自分を納得させて電話へと向かう。
そして電話、配達注文をし、注文をしたのはピクルスピザ、パイナップルピザ、ピーチピザの三枚。
いきなり頼みすぎかとも思ったが、興味を持ってしまったのだから仕方ない。
『1時間少々でお届けします』
と、返事があって注文完了……1時間とは中々長い気がするが、特殊なピザを作る個人店ならば、むしろ早い方なのかもしれない。
それで問題ないと受け入れて、家事をしながら到着を待つことにする。
そうして1時間後、無事にピザが到着し支払いをして受け取り、それをリビングまで運んだなら全員分の茶を用意して実食開始。
グリ子さんの分と、フォスの分を取り分けてそれぞれの皿に乗せてあげて……それからゴクリと喉を鳴らし、自分の分を更に乗せる。
美味しそうと思って喉を鳴らしたのではなく、緊張のあまりに喉を鳴らしてしまっていた。
一体全体どんな味がするのやら……とりあえずピクルスピザはたっぷりのチーズにトマトソースがあり、そこに無数のピクルスが乗っているという、悪くなさそうな出来ではあった。
……問題はフルーツピザで、生地の上にはまさかのカスタードクリームが塗りたくられていた。
一見してチーズに見えなくもないことがなんとも厄介で、その上に恐らくいちごソースがかけられていて、そして具材は焼いたフルーツ。
ところどころ軽い焦げあとが付いていることから察するに、かなりしっかりを火を入れてあるようだ。
……果たしてピザの定義とは? と、問いかけたくなるようなそれを手に取りゆっくりと口に運び、食べ始める。
もぐもぐと口を動かす、甘くとろけるようなクリームに、しっかり酸味と香り、甘さのある肉厚の桃。
かなり良い品質の桃を使っていることは確実で、実家でもこれ程の味は食べられなかったなと、ハクトがそう思うくらいの良い味なのだが……全くもってピザではなかった。
いや、僅かにチーズの香りがする、どこかにトマトソースも隠れている。
クリームの中に少しだけのチーズが練り込まれていて、トマトソースが下地にはなっているらしい。
生地にもなんらかの味が練り込まれているようだが、桃の甘さと香りがそれを覆い尽くしてしっかりと感じ取ることが出来ない。
「……フルーツパイの間違いじゃないのか??」
というものがハクトの感想だった。
あくまでピザ生地でパイ生地ではないのだが、口の中に入って組み上がった味はまさにそれだった。
パイナップルも似たようなもの……パイナップルパイなるものを食べたことはないので、初めての味となるが、しかし感想が変わることはない。
「……これで商売をやっていけるのだろうか……」
と、不安になりながらハクトは茶を飲んで口の中を洗い流し、ピクルスピザを手に取る。
こちらはまだピザらしく、また面白い仕上がりではある。
美味しそうでもあるし、ピクルスが好きなハクトとしては悪くないように思える。
そうしてハクトはピクルスピザを口の中に押し込み……そうして予想外の味が口の中に広がったことでハクトは、思いもよらない形でピザを楽しむことになるのだった。
お読みいただきありがとうございました。




