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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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贈り物



 ハクトが飲み物を受け取って飲み、寛ぎ始めるとその目の前まで鉱石人が歩いてくる。


 そしてハクトの前に立ってじぃっと見つめてきて……ハクトが何事だろうかと疑問に思っていると、その丸い頭が楕円に歪む。


 ……何故だかハクトにはそれが笑っているように見えて、ハクトもそれに笑顔を返す。


 すると鉱石人は更に楕円になりながら踵を返し、部屋の奥へと向かい、扉の奥へと消えていく。


 一体何が何やら、困惑しながらもハクトは飲み物を飲んで……グリ子さん達もゆっくりと体を休めながら飲み進めていく。


 そうしていると鉱石人が部屋の奥から大きな優勝カップのような盃を持ってくる。


 黒く鈍く光る金属製で、鉱石人が持ち運べる程度の大きさで、鉱石人にとっての食器か何かなのだろうか? と、ハクトが訝しがっていると、鉱石人はそれをハクトの目の前に置いて、それからいつの間にか腰のあたりに下げていた袋を持ち上げ、それから宝石を取り出しカップの中に転がす。


 高く響く金属音、そして当然のように宝石はカップの中央に転がり、そこで動きを止めて……止めた瞬間、宝石がカップの中に呑み込まれる。


 底なし沼に落ちた石のように、カップが溶けて柔らかくなり、宝石を飲み込んだなら固くなって元通り。


 ……全くもって意味が分からないその行為と、カップの機能に困惑していると、鉱石人が宝石を差し出してきて、ハクトにも真似をしろと促してくる。


 全く訳が分からないが、何か意味があるのだろうと頷いたハクトは、それを受け取り同じようにカップの中に転がす。


 当然のように宝石はカップの中に飲み込まれていって……直後、声とも言えない声が頭の中に響いてくる。


『飲食とは、どんな世界のどんな生物にも欠かせないものである。

 欠かせないからこそ共通の認識を持つものでもある。

 そして差し出されたものを受け取り、口にするということは信頼の証でもある。

 毒かも分からないものを口にするという行為は信頼あってこそ、私は与えた、君達は受け取った。

 ここに信頼関係は構築されたのだ』


 それは恐らく鉱石人の声なのだろう。


 声と言うよりは思考、テレパシーのような形での交信を可能とするのがこのカップなのかと、ハクトはそんな納得をする。


『それは間違いだ、この交信は信頼関係あってのこと、信頼関係が私の思いを翻訳してくれている。

 ある種の声、口調となっているのは君の思考、イメージによるものだ、実際に私の口調ではない、君の思考がこうしているのだ、これはそういうものだ。

 そしてこの―――は……自らで確かめると良い。

 我らを受け入れてくれた世界への礼だと思ってくれて良い。

 この世界の各地でもこれを受け取る者が現れるはずだ、それぞれ確かめると良い』


 そんな交信を受けてハクトは困惑していた。


 何故自分なのだろうか?


 今までだって彼らとコミュニケーションを取ろうとした人物はいたはずだ、何度も顔を合わせていた研究員だっていたはずだ。


 そんな状況で何故? 悩んでも答えが出ないことではあるが、悩まずにはいられない。


 しかし答えが返ってくることはなく、交信もそれきり……これ以上は悩んでも仕方ないとハクトは思考を止めて、目の前のカップへ意識を向ける。


 とりあえずこれはお礼の品であるらしい。


 何故それをハクトが受け取ることになったのか? あの宝石の意味は? 分からないことだらけだが、とりあえず今起きたことは研究者達に伝えるべきだろうと、懐から取り出した手帳にメモしていく。


 交信の内容も出来るだけ正確に……記憶を頼りに書き記していく。


 その間もグリ子さん達は寛ぎ続け……そうしながらグリ子さんはグリ子さんなりに鉱石人とのコミュニケーションをしているようで、また咥えてみたり、つついてみたりと、かなり自由に過ごしている。


 ユウカもまた自由に過ごしていて……そうやって何時間か過ごした頃だった。


 部屋の外が騒がしくなり……ふとあることに気付いたハクトが、腕時計を見て何が起きたかに気付く。


「なるほど、退勤時間か、それで片付けでも始めたのだろう。

 俺達もそろそろ失礼するとしよう」


 そしてハクトがそう言うと、それぞれ頷き立ち上がって……鉱石人に歓待の礼を言ってから部屋を後にする。


 ハクトだけはカップを手に取って……そして研究員達にそれを渡すつもりで、目立つ形で外に持っていく。


 ……が、研究員から声がかかることはない、分かりやすく持ち上げてみるが特に誰も反応を示さない。


 部屋から出てきたという状況から、あれこれと聞き取り調査を受けると思っていたのだが、それもない。


 明らかにおかしな状況ではあるが、もしかしたらこのカップはそれ程珍しいものではないかもしれない。


 ハクトは自分だけが特別なんて考えを先ほどまでしていたが、実はそんなことはなく、誰もが貰えるものなのかもしれないと思い直し……少しだけ恥ずかしくなりながら、以降は何も言わず何もせず、ただ帰路につく。


 協力してくれた人々に挨拶をし、簡単な書類を提出し、何があったかの報告も一応丁寧に書き記し、手帳のページを添付。


 するべきことをしたなら、そのまま自宅に向かう。


 自宅に到着したなら手洗いうがいを済ませてからリビングへ。


 カップの扱いにはかなり悩んだが……リビングに置いてあるガラス戸棚に飾るような形でしっかりと納める。


 少し高めの食器をそうするように飾り……ついでに改めてメモをした手帳のページを側に置き、また追々詳細を確認しようと、そう決める。


 宝石を飲み込むのは何故なのか、飲み込ませるのにはどういう意味があるのか……そもそも何のためのカップなのか。


 そうした疑問の答えはまた今度……今日は色々と気疲れしたからと早めの夕食と就寝をしようと決めて、電話の下に向かう。


 そうしてハクトが出前の注文をし始めるとグリ子さん達は、また美味しいご飯が食べられるとおおはしゃぎをし……静かに過ごしたかったハクトの思いとは裏腹に、なんとも賑やかな夕食を過ごすことになるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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