第8話 運命の重なる場所へ
「ノイシュタットへ行きましょう」
「ノイシュタットに行こう!」
僕とチルカは同時にそう言った。
ノイシュタットとは、ティンから遥か北方にある、雪と氷に閉ざされた街だ。
「む。チルカもダンカンのこと知ってるの」
僕と一緒にテリーゼの診療所で話を聞いてきたリィが、驚いたように言う。
「ダンカン様……、ですか?いえ、存じ上げませんが……」
「実は……古代戦争時代にオートマタを作ってたエルフの魔工技師が、ノイシュタットで暮らしてるって分かってさ」
「その方が……ダンカン様ですか?しかし、なぜ魔工技師を訪ねようと?当機のリペアは、マスターが行って下さっていますが」
「僕は治すだけだけど、ダンカンさんなら新しい機能を付け足したりもできるらしいんだ。完全に人間と同じってわけにはいかないけど……睡眠機能とか、味覚モジュールとか、そういうのを組み込めるみたい」
「……っ。マスター、私のわがままを叶えて下さろうと……?」
「ん。頑張って調べた」
「テリーゼさんがね」
チルカは瞳をパステルイエローに染めて言う。
「リィ様、マスター......私は、世界一果報者のオートマタでございます」
「へへ……ところで、チルカはなんでノイシュタットに行こうとしてたの?」
「ノイシュタットの『笑う双月亭』にある、大精霊ムーンスターの加護を受けたベッド......そこで眠った者は、精霊界との交信ができると言われているのです」
「精霊と会えるの。じゃ、お父さんやお母さんとも……」
「え……あ、そっか……!先輩とも……!?」
「可能性はあると思われます。ただ、当機の記録は千年前のものです。加護によって守られているベッドはともかく、笑う双月亭は現存していないものと推定されます」
「うーん……探すのに苦労しそうだね……冬休み中に帰って来れるかなぁ……」
「ノイシュタットはちょー遠い。船で三日のあと、馬車で二日はかかる」
「行って帰ってくるだけで十日......絶対間に合わないや。かーさんに殺される……」
「ノイシュタットへの旅は、またの機会になされますか?」
「……ううん、行くよ。先輩に会えるなら、地獄の説教くらい我慢する!」
「素晴らしいお覚悟でございます、マスター」
「でも、心配はかけさせたくないし……早速準備を始めよう!ノイシュタットは寒いって話だから、防寒具は必須だよね。後は念のために野営具とかカロリー高めの保存食とかも欲しいかな......」
「ん。買いに行こう」
三人で商業区へ向かい、必要な道具を買い揃える。荷物が増えてしまったので、それをしまうためのリュックも買った。
「道具はいい感じだね。次は服を買いに行こうか」
「わたしはいらない」
「え......どうして?冬の寒さは舐めちゃダメだよ、しもやけできたら痛かゆいよ」
「ノイシュタットにはいかない」
「えっ!?なんでさ……!?」
「お父さんたちに会いたくないわけじゃない。でも、二人とはもうお別れした。私はもう、お母さんたちがそばで見守ってくれてるって知ってる。それ以上を望むのは……上手く言えないけど、よくないことだと思う」
「リィ……」
「これはわたしの考え。ハルトがエイアに会いたいなら、それでもいい」
「うん……僕はリィみたいに、大切な人の死を、素直に受け入れられないや……」
帰ってきたアイネスが、玄関の横に置いた荷物に気付く。
「あ、もう用意始めたんだ?私の分も買ってくれた?」
「もちろん」
「ありがと♪ふふっ、ノイシュタット、楽しみだなぁ~♡サンピラーに、ダイヤモンドダストに、運が良ければオーロラも見れちゃうかも!?」
「観光に行くわけじゃないからね?してもいいけど……」
「もう、わかってるってば。絶対ダンカンさんを見つけてあげるからね、チルカちゃん♡」
「あい。チルカは果報者のアンドロイドです」
「あ、そういえばさ、チルカが調べてくれたんだけど……」
僕が精霊と会えるベッドの話をすると、はしゃいでいたアイネスの様子が一変し、真面目な顔になる。
「それ……ホント?ホントに、パパにまた会えるかもしれないの……?」
「うん。アイネスもジェイドさんに会いたいでしょ?」
「そう、だけど……ごめん、私はパス」
「え......な、なんでさ」
アイネスは僕に背中を向けると、オフショルダーのブラウスから白い翼を生やしてみせた。
「パパは、もうここにいるもん。やっとそう思えるようになったのに、また会っちゃったら......パパにリパルサーを壊されかけたコトとか、ずっと裏切られてたコトとか……そーゆうヤなコトとまでぶつけたくなっちゃいそうで......またパパをパパって呼べなくなっちゃいそうで、怖いよ……」
「そっか……」
「あっ、でもでも、エルフ探しは手伝うからね!オーロラも絶対見るし!」
「アイネス。こっち来て」
「どうしたの、リィちゃん?」
「ごにょごにょがぽしょぽしょでひそひそ……」
「え!?ヤだよ、だって私オーロラ見るの楽しみに……うっ……そ、それはそうだけどぉ~」
「だめ。ぽそぽそしてぷくぷくしたらむぐむぐ……」
「わ、わかったよう……。うう、オーロラ......」
「チルカもこっち来て」
「あい、リィ様」
「むにゃむにゃのぽつぽつがもごもご......」
「っ……。そ、そのような破廉恥なことは……。当機は、マスターにお仕えできればそれでいいのです……」
「でも、ぼそぼそなこしょこしょにふしゅふしゅ......」
「な、なぜそれを……あ、あい、仰る通りです……」
「三人で何を話してるの……?」
「ハルト。ノイシュタットにはチルカと二人で行って」
「え!?でも、アイネスは行くって言ってるよ」
「わ、わたし……行かない」
「嘘でしょ!?さっきまであんなに」「行かないったら行かないの!……うう、これもチルカちゃんのため……!」
「めちゃくちゃ行きたそうじゃん……チルカのためってなに……?」
「二人旅ですね、マスター。
......ふつつかものですが、どうぞよろしくお願いいたします」
「リィ……一体二人に何を吹き込んだの?」
「仲間外れはよくない。みんなで分け合うべき」
「分け合うって……何をさ?」
「けひひ」
「嫌な予感がする……」




