第7話 機巧少女の追憶
マスターにかけていただいた言葉を反芻しているうちに夜が明けていました。簡単に部屋の清掃を済ませた後、当機はいつものように朝食の準備を始めます。……昨日まで悩んでいたのが嘘のように、清々しい気分です。……私は泣きません。眠くもなりませんし、空腹も感じません。マスターや皆さんと、同じように生きる事はできません。
ですが……心は同じです。
私は昨夜、マスターの悲しみに寄り添ってあげることができました。マスターは、おかげで苦しくなくなったと言ってくださいました。ならば、それ以上何を望むことがあるでしょうか。
と、寝室の方から音がしました。誰かが起床なさったようです。
「あ。リィ様が起床されました。……マスターにキスを……何か喋って……ん、よく聞こえませんね……」
聴覚センサーの感度を最大にして様子をうかがいます。決して性的なことに興味があるわけではありません。危険な行為をしていた場合、お止めして安全を確保するためです。性的なことに興味があるわけではありません。ないのです。
「あ……舌を絡め合って……気持ちよさそうです。アイネス様も起床されました。……っ。リィ様と二人でハルト様を挟んで......そ、そんな、破廉恥です……」
きんと音がして、指に軽い衝撃が走りました。キッチンナイフが当たってしまったようです。
「あ……刃が欠けてしまいました。後で研いでおきましょう……」
起きてきたリィ様に、昨日の非礼をお詫びします。リィ様はぽかんとした表情を浮かべておられましたが、ん、ゆるす、と、寛大なお言葉をいただくことができました。
朝食を終えるとアイネス様は診療所へと飛び立たれ、リィ様とマスターもどこかへお出かけになられました。普段であれば、どなたかがお帰りになられるまで仮面ライダー達の戦闘記録を鑑賞するところですが、本日は圧縮記録の解凍を行うことにしました。
当機のメモリーには、職員及び警護対象からの雑談にも適切に対応するため、一般常識、及び時事問題についてのデータが収納されています。私の時代にインプットされたもののため、現代においては役立たないだろうと考え、容量削減のため圧縮していましたが……昨夜のマスターとの会話を反芻するうち、おぼろげに浮かんできた記録があったのです。
それは、非業の死を遂げた少女が……精霊として転生し、愛する人と幸福に暮らしたというニュースでした。かつて人は魔物や精霊と共存しており、私が製造された直後はまだ精霊の捕獲が本格化していなかったため、その様なことが実際に起こっていたのです。
精霊は戦争の激化と共に自分たちを魔力源としてしか見なくなった人間に絶望し、エセリアルクイーンの統べる精霊界へと去っていったと言われています。
ですが、私は……全ての精霊が、人間に絶望していたとは思いません。人間を信じ、再会の手段を残していった精霊は、必ずいたはずです。
マスターは、エイア様の冥華を胸に埋め込んだ際、しばらくの間彼女の意識を感じたと仰っておられました。これはエイア様が、精霊化を起こしていた可能性を示唆するものです。
「マスターを……もう一度、エイア様に会わせてさし上げたい……」
私は千年前の記録を解凍し、精霊に関する記録を検索し始めました。




