第50話 スーパードでかデザート付きディナー(お残し不可)
夕飯は僕がステーキを焼こうかと思ったのだが、なんでも今日はリィの当番ということで、それに従うことにする。皿に盛られたトントンチャップを見た瞬間、僕は反射的に胃がきゅっと痛くなった。
「リィ……味見、したよね?これ……」
「馬鹿にするな、ちゃんとした。うまいぞ」
テーブルの上にはろうそくの火が燃えている。……時を操る力を渡した後、僕は光を灯す力も失ってしまった。どうやらその二つの力は、見えない場所で繋がった、同じ一つの魔法だったようだ。
僕はおそるおそるフォークで肉を刺すと、思い切ってそれを口の中に放り込んだ。
「うっ……」
「どーだ」
「……っっっま!!!!え!?なにこれ!めっちゃおいしいんだけど!?」
肉を口の中に入れた瞬間、程よいトゲトマトの酸味と、ピリリと辛いパメルの風味が広がる。そして肉を噛みしめると完璧な火加減で調理されたトントンボークのロースから濃厚な肉汁が滲みだし、辛口のソースと渾然一体となって口の中に完璧な味の調和を生み出した。
「ふふーん。もっと褒めろ」
「これ絶対僕より上手だよ!すごく頑張ったでしょ?うっま......うますぎる……」
「ふひひひひひ......」
「リィちゃん、当番の時はいつもこれ作ってるもんね。どんどん上手になっていってびっくりしたよ」
「好きこそものの上手なれ、か……」
「ボクは肉は食べないけれど、リィのソースは好きだな。サラダにかけて食べるとピリ辛でおいしいんだ」
そう話すグラシエラの手元には、言葉通り赤いソースのかかったサラダと、カットされたスカイアップル、そしてミックスナッツの皿が置かれていた。
「では、私もリィ様の自信作をいただきます」
そう言ったチルカの前には一切れの肉が盛られた小皿があった。彼女はフォークを優雅に使ってそれを口に運ぶと、ゆっくりと咀嚼し始めた。
「……旨味、塩味、酸味、辛み、全て非常に調和のとれた数値を示しております。美味です」
「うまくて当たり前。お父さんのトントンチャップだから」
「あい。受け継がれし家庭の味ですね」
「チルカ……よかったね、味覚センサーがついて」
「あい。味を感じられることももちろんですが、それ以上に、こうして皆様と食卓を囲む体験を共有できることが嬉しいです」
「そっか。冬休み、ダンカンさんとこまで行って良かった」
「これからマスターは、その思いを更に強めるでしょう」
「?どういうこと?」
「ふふ」
5人で囲むには、このテーブルは少し小さすぎる。……それでも、大勢で一緒に食べる食事は、一段とおいしかった。
・・・・・・
「ねえリィ……チルカの言ってたデザートってなんだろ?なぜかキッチンじゃなくて寝室へ入っていったけど……」
「知らない。けひひ......」
「絶対知ってるじゃん......教えてよ」
「がっついちゃダメだよ、ハルト君。準備できたらチルカが知らせてくれるから、待ってよーね」
「うん……?みんなはもう食べたことあるの、チルカのデザート」
「ぷっ、くふふふっ......な、ないさ。あれはキミだけのために用意されたものだからね」
「なんで笑うのさ、グラシエラ......?」
『マスター......準備、完了いたしました。どうぞお入りください』
珍しく少し上ずった声が寝室から聞こえてきた。
「え?そっちで食べるの?」
「いいから早く行ってこい。チルカが待ってる」
「う、うん……」
寝室へ向かう僕を、みんなはにやにや笑いながら見送ってきた。なんかちょっとむかついた。
「……っ!チルカ、その服......!?」
扉を開け、ベッドに腰かけている彼女の姿を見た瞬間、僕は強い衝撃に襲われた。彼女が着ていたのはいつもの凛とした軍服ではなく、まるで雪の結晶を組み合わせて作ったような、純白のレースでできた肌着一枚だったからだ。
「扉を……閉めてくださいますか。マスター以外にこの格好を見られるのは羞恥を感じますので......」
瞳を桜色に染め、少しうつむきながら彼女が言う。
「あっ、ご、ごめん。そうだね……!」
急いで後ろ手に扉を閉め、チルカの隣に座る。
「もしかして、デザートって……」
「……あい。私の初めてをお食べ下さい、マスター......」
「え……初めて?魔力の交換をするんじゃないの?」
チルカは目線を合わせないまま僕の手を取り、彼女の足の間へと導いた。
「……っ!?な、なんかぷにぷにしたものが……!」
「マスターに隠してダンカン様に作っていただいていた......性交渉用のユニットです」
「……ええ……流石にそれは……」
「マスターの私への愛は、この程度のことで揺らぐことはないと確信しております」
「いや……まあ、うん。そうだけど……」
「自信作だそうです」「そ、そっか……」
「……………。
ねえ、チルカ。もしかして、冬休みの最初に言ってたこと、まだ気にしてるの?自分がオートマタなことが嫌で、人間になりたいって。周りに仲間のオートマタもいないチルカがそういうふうに感じるのは仕方ないことなのかもしれないけどさ……でも、僕は、チルカがチルカだから好きになったんだ。人間とかオートマタとか......せ、性交渉できるかできないかとか、そんなの全然関係ないよ。それは……わかっててほしい」
「暖かいお言葉をありがとうございます、マスター。ですが、肉体的交流というのは、人間の動物的本能を満たします。それは良好な恋愛関係を保つ上で、必ず助けとなるものです。……決して、皆さまが日々マスターと行われている不埒なまぐわいに興味津々だったわけではありません」
「興味津々だったんだ……」
「ありませんのです」
「おっけー、そういうことなら安心した。自分が他の人と違うことを、チルカが引け目に感じてるんじゃないかって、ちょっと心配になったから」
僕はチルカのベビードールの紐をほどくと、そっとそれを脱がした。
「これ……すごく綺麗だね。そしてエロい……」
「アイネス様の発案で、ガリーナに作ってもらったのです」
「うっ......次にガリーナさんと会った時ちょっと気まずい」
あらわになった薄灰色のボディーをそっと手でなぞる。女性的な曲線を描く紫檀鋼は、まるで人肌のようにほんのりと温かい。
「装甲表面の温度は適切ですか、マスター」
「うん……チルカの優しさを感じる」
「羞恥や興奮によるソウルユニットの発熱に関しましては、何度もシミュレーションを重ねましたので......以前のようにマスターにご不便をおかけすることはないかと存じます」
「ありがとう、色々気にかけてくれて」
僕とチルカは違う。けれど、お互いを思いやる心は同じだった。
彼女を抱き寄せ、そっとキスする。
───ほんの少し、トントンチャップの味がした。
・・・・・・
ふらつく足を踏ん張り、僕は立ち上がる。
ベッドの上には、目くるめく刺激に圧倒され、動けなくなっているチルカがいる。……僕も正直ほとんど体力が残っていないが、チルカの身体を拭く布を持ってくるため、扉を押し開けた。
「近づいてくるわ!撤退よ!」
「な、なんだって!?早く逃げなければ......」
「痛っ!グラシエラ、私の足踏んでるよ......きゃあっ!?」
扉の向こうでドタバタと音が響く。扉が開くと、外にはアイネスとグラシエラが折り重なって倒れ、その上にマーテルが飛んでいた。
「盗み聞きしてたの……?」
僕と目が合ったマーテルは、堂々と言い放つ。
「そうよ。文句ある?」
「清々しい開き直り......」
「は、ハルト君。あははは……」
「何やってるの……アイネス……って、あれ?その服……」
アイネスとグラシエラは、チルカと同じデザインの肌着を身に付けていた。……ただ、アイネスのそれは燃えるような赤で、グラシエラは青だ。
立ち上がったグラシエラは、何事もなかったかのように微笑みを浮かべて言う。
「人間の作った服って、とてもきれいだね。ハルトもそう思わないかい?」
「その前に、盗み聞きしてたことについて説明して欲しいんだけど?」
「ううっ……。ご、ごめんよ……」
「もうっ……」
キッチンへ向かうと、黒い肌着を身に付けたリィがテーブルのそばに座って一本のダガーを巧みに手で操り、回転させたり、指の間を通したりして遊んでいた。その様子を、テーブルの上からノームとシャドウがじっと眺めている。
「む。終わったか」
「リィは盗み聞きしてなかったんだね。やっぱりちゃんとしてるなー……」
「ん。ちゃんと待ってた。
だから、わたしにもいっぱい出して」
「え……」
「そーだよハルト君、次は私達の番だからね!」
アイネスが、後ろから僕の肩を掴む。肩越しに振り向いて答えた。
「も、もう無理だって!たたないし!ヒールも使えないし!」
「だいじょぶだいじょぶ、これがあるから♪」
「……なにそのドロドロで真っ黒な液体......?」
「おくすり♡」
「おく、すり……?」
僕の前に回り込んだグラシエラが、妖しげな笑みを浮かべながら言う。
「とてもよく利く精力剤だそうだよ。フフフ、キミと過ごす熱い夜、楽しみだなあ。溶けてしまわないように注意しなければ……」
「私の毒を使って、テリーゼが作ってくれたの!ネイティブストライクスにいた時のワザを使ったんだって~♪」
「いやそれ廃人になるやつ!!嫌だよまだ死にたくないよ!」
「だいじょぶだいじょぶ♪テリーゼは一応安全って言ってたし!」
「一応!?一応ってなに!?そんな言葉は安全って単語の前に付くべきじゃないと思うんですけど!?」
「ハルト、諦めろ。わたしもみんなも、ハルトとエロしたい」
「リィまで……。ううっ、分かったよ……でも、先にチルカを介抱させて」
「ん。みんなでやろう」




