第42話 初めての共同作業
(……?闇が、動いて……)
あたりの闇が僕たちに這い寄る。すると僕たちの身体を囲んでいた紫色の光が、月光のような青白い光へと変わっていった。
(!マスター、浸食されていた世界が、浄化されていきます……!)
(……よし、体が動く!とりあえずグラシエラの様子を……!)
「ハルト、チルカっ!」
身体ごと飛び込んできたグラシエラを、両腕で抱きとめる。……彼女の両手は紫炎の熱によって肘まで溶け、美しいその顔は、口元が黒緑の濁った氷で汚れていた。
「っ……!戻れ!」
「やった、二人がまた動き出した……!ムーンスターが、本当にボクの祈りを聞いてくれたんだ……!」
自分の身体のことなど少しも気にせずに、グラシエラはただ、僕達の無事を喜んでいた。
……その純粋で優しい心を感じ、胸の中に温かいものが広がっていく。
───」と、抱き合う僕たちの身体を、夢の世界に漂う優しい闇が包む。すると弾けてしまいそうだった胸の苦しみが、嘘のように引いていった。
(私達の魔力容量が急速に増加していきます!400000,800000,2000000,あ……フータオ臨界点を突破しました。理解不能……)
「力が満ちてくる……それに、吐き気も治まった……?」
「ムーンスターは、僕たちに勝ってほしいみたいだね。
……チルカ、グラシエラ、やろう。彼女に目覚めをもたらすために!」
「ああ!」
(あいあい、マスター)
・・・・・・
そのあと、大きな紫炎をもう二つ吸収したところで、グラシエラが控えめにお腹がいっぱいかもしれないと伝えてきた。
「現在の推定魔力総量、3000000ニクソス以上。想定以上の成果です」
「なんだか、希望で胸がはちきれそうだよ!」
(ホントに胸が大きくなってる……。精霊の神秘......)
「あとは、この膨大な魔力を用いてオネイロックスに攻撃を加えるだけですが……彼女を取り囲んでいる、紫炎の存在が障害です」
「それなら任せておくれよ!ボクの氷で、道を開いてあげる!」
「僕もやるよ!氷魔法は得意なんだ!」
「ああ。一緒に、だね!」
グラシエラは僕たちの横に立ち、右手を前に突き出すと、魔力を集中させ始めた。
「うわっ、すごい冷気だ……!」
(魔力出力、測定不能。推定500000ニュクス以上です)(つよそう)
僕が左手を前に掲げて魔力を集め始めると、グラシエラはこちらを見て、ぴたりと体を寄せてきた。そうして僕の左手に、指を絡めるようにして右手を重ねる。
「……っ。ぐ、グラシエラ......?」
彼女は慌てている僕の顔を横目で見てくすりと笑うと、少し色っぽい声で言った。
「……一緒に、でしょ?」
「う、うん……」
(……マスター、集中を)(し、してるよ……)
僕とグラシエラの魔力が重なり、手のひらの中で高まっていく。あたりの大気は凍える風となり、きらめく細氷を巻き上げながら吹き荒れる。冷たく甘い、透き通った味のする彼女の魔力は……どこか、先輩に似ていた。
そうして、僕一人では決して作れなかっただろう、強大な魔術が完成する。
「ハルト……キミに出会えてよかった」
「うん……こちらこそ!」
「さあ、派手に決めようじゃないか!」
「了解!……はああああああッ!」
───巨大な氷の刃が、空間を凍り付かせながら進んでいく。それがオネイロックスを厚く取り囲む紫炎に激突すると、凄まじい蒸発音と共に水蒸気の雲が上り、視界が覆われた。
「上手く行ったといいけれど……」
水蒸気の雲が晴れると、行く手をはばんでいた紫炎の壁に、大きな穴が開いていた。そして僕たちとオネイロックスを繋ぐように、一本の氷の道ができている。
「よし!オネイロックスをぶったたきに行こう!」
(あいあい、マスター。格闘術なら私の出番です)
「ボクは少し、ここで休んでいるよ……張り切って魔力を使いすぎたみたいだ」
「分かった。……行ってくるね、グラシエラ」




