第4話 悩める被造物
「それじゃ、いってきまーす♪」
「いってらっしゃい、アイネス」
すっかり冷めた朝食を食べた後、アイネスが玄関を出て、貧民街の方へと飛び立っていく。
彼女は冒険者をやめたそうだ。今はテリーゼ……アイネスと同じ地下組織に所属していた魔術師......のところで助手をしている。麻酔薬の調合に使う毒を絞られたり、ポーションの配達をさせらせたり、こき使われて大変だとよくぼやいているが、言葉の割に、いつも表情は明るい。きっとそれは、彼女が自分の過去と少しずつ向き合い、彼女なりの贖罪を始めたからなのではないかと思う。
仕事から帰ってくると、アイネスは槍を手に取って、毎日庭で訓練をしている。もし次の大きな冒険があれば、いつでも僕達の力になれるように……と。
アイネスを見送った後、僕は流しに立っているチルカの横に立ち、洗い終わった食器を拭いて片づけていく。
「マスター、おやめください。家事は全て私が行います」
「……怒ってる?チルカ」
「怒ってなどおりません」
「でも……いつもなら、手伝ってくれてありがとうって言ってくれる気がする」
チルカは食器を洗う手を止めると、瞳を暗い蒼に染めて呟いた。
「あなたの精液が欲しいです」
え、と間抜けな声を漏らして、僕は呆然と彼女を見つめた。
チルカはこちらをじっと見つめながら続ける。
「私も……マスターと愛を交わしてみたかった。マスターの作った料理を食べてみたかった。一つの寝床で……抱き合いながら眠りに就きたかった……」
───それでやっと、僕にも彼女の気持ちがわかった。チルカは……寂しいのだ。
「共に暮らせば暮らすほど......辛いのです。私が、皆さんとは違う存在だということが。
なぜ、私はオートマタなのでしょうか……?人間に、生まれたかったです……」
「チルカ…………わ、むぐぐ!?
突然後ろから抱きつかれ、顔を引き寄せられて唇を塞がれる。
「……ぷは。ハルト、エロしよう」
裸のままのリィが、僕の肩に顎を乗せて言った。
「今はその話はダメ……!」
「なんで。やっとハルトが帰ってきた。居るうちにたくさんエロしたい」
「そ、それは僕だってそうだけどさ……」
「じゃ、しよ。ベッドいこ。こい」
「ま、待ってって......!」
僕達の会話が聞こえないふりをして、チルカは食器洗いを再開する。
「あっ……」
だがすぐに手を滑らせ、木の器を床に落としてしまった。
「任せろ」
リィはそれを器用に足で蹴り上げて掴み、チルカに手渡す。
「……申し訳ございません」
「む?チルカ、だいじょぶか」
「あい。何の問題もございません」
「そ。なんか悲しそうだったから」
暗く冷たい瞳でリィを見たチルカが、うめくように言葉を漏らす。
「…………。
───なぜ……あなたは人間で、私はオートマタなのですか……」
「知らない。ただ、神様がそう決めた」
「私は……神に祝福されなかったということですか。あなた方人間の、創造主を気取る傲慢によって生まれた存在に過ぎないと仰りたいのですか」
「何を言ってるのかわからない」
きょとんとした顔のリィをから目をそらしたチルカは、耐え切れなくなったかのように食器とスポンジを置くと、外に出て行ってしまった。
「チルカ……!?」
「むーん……ハルト、チルカどうしたの」
「実は……」




