第3話 時魔導士、捕食される
「ん……」
腹のあたりが妙に寒くて目を覚ます。僕のものが生暖かく湿った何かに包まれていることに気付き、緩やかな快感と共になにが起きているのか理解する。
「おはよう、アイネス」
シーツを持ち上げてあいさつすると、アイネスは咥えていたものを離し、こちらを見上げておはよ、と笑った。
アイネスの身体を引き寄せ、キスをする。ふわりと薬草のにおいが香った。
「……汚いって思わないのかな?」
「なにが?」
「今の私の口」
「あー……そう言われれば。キスしたいなーとしか考えてなかった……」
「私、ハルト君は潔癖なのかと思ってた。……ほら、最初にカフェに行った時、食べさせあいっこさせてくれなかったから」
「そーだっけ?……でも、確かに、あの頃のアイネスの使ったスプーンと、今のアイネスの口なら……後者の方が綺麗に感じる……」
今度は自分からこちらに唇を重ねながら、アイネスは呆れ気味に言った。
「なあに、それ?わけわかんないよ」
「心理的な距離の気がする……」
「ふーん。ハルト君って、やっぱりちょっとヘンだね」
「むぐ……ひ、否定できない……」
彼女が胸に伸ばしてきた手を、僕は押さえた。
「あ……痛い?」
左胸に埋まった先輩の冥華に手を添えて、アイネスは言う。
「全然……最初から僕の一部だったみたいな感じ。見た目はちょっとよくないけどね」
「浸食とかも……だいじょぶなんだよね?」
「うん。テリーゼさんに診てもらったら、この冥華はもう全部の隙間が先輩の魔力で埋まってるんだって。だから悪さをすることはないだろうって言ってた」
僕のヒールは普通と違って、時間を巻き戻すチートのような代物だ。先輩はそれを、遡行魔法と呼んでいた。
だからそれを使えば、僕の心臓は元通りになるのかもしれない。でも、そうするつもりはなかった。先輩は今や僕の心臓だ。先輩が動くから僕は生きて、先輩が止まる時僕も死ぬ。
僕はそのことが、とても楽しく思えるのだ。
「あの……アイネス、今日は一回でいい?あんまり堕落した関係は良くないと思うんだ。
チルカが朝ごはん作ってくれてるから、その手伝いもしたいし……」
アイネスは小首をかしげて少し考えたあと、にやりと笑って首を振った。
「こんなハーレムを作っておいて、堕落したのはやだ、なんて今さらだよ。
やっとまた会えたんだし、せめて二回......ううん、三回はしとかないと♡」
「か、身体がもたないよ。それにアイネスだって、仕事あるんでしょ?
───んっ!?」
アイネスの手が僕の口を塞いだかと思うと、それに鱗が生え、ものすごい力で僕をベッドに押さえつけた。
「何も聞こえませーん。あははは……」
アイネスはくすくすと笑うと、僕達の横で眠っているリィのところへ行き、唇を重ねた。リィの身体が動きだし、やがて彼女の両腕がアイネスの身体をそっと抱きしめる。
「おはよ、リィちゃん♡」
「ん。ハルトの味がした」
「バレた?お先に食べちゃってまーす♪」
「む。私も食べる。ハルト、ちゅーしろ」
「僕は食べ物じゃないって……」
僕は二人に押さえつけられて、抵抗を諦め身体の力を抜いた。
「───皆様、朝食の準備ができました」
部屋の扉が開き、エプロン姿のチルカが言う。彼女は僕たちの様子を見ると、瞳の色を少し暗くした。
「冷める前に、お召し上がりください」
淡々とそう言って、チルカはドアを閉めた。




