第33話 旅の終わり、爆弾処理
「はーっ......あとは夜まで休憩だね……」
ダンカンの館に戻った僕は、散らばっていた服を着るとベッドにダイブした。
「ねい、マスター。あなたには、やるべきことがあるはずです」
「え……?あ、そっか。また融合できるように、魔力の交換......しとく?」
「非常に魅力的な提案ですね。
ですがそれは、ムーンスターのベッドの上で行いましょう」
チルカは僕の荷物を漁ると、中から油紙に包まれた呪物を取り出した。
「げっ」
「冬休み期間の課題だそうですね。今からでも遅くはありません、取り組み始めましょう」
「な、何で知ってるの……!?」
「アルティメットフォーム中に、マスターの思考が流れてきました」
「思い出さなきゃよかった……」
「豊かな教養は、豊かな人格を育みます。さあ、始めますよ」
「そんなぁ……」
───夜が来るまでみっちりしごかれた後、別れた双子月亭へと出発する。
「行ってくるね、レイ」
「はい!いってらっしゃいですの、おにいちゃま!悪いドラゴンをやっつけてきなさいな!」
「悪くはないかもだけど......うん、ばっちりやっつけてくるよ!」
「チルカ。頼まれていた機能追加に必要な部品は全て揃えた。さっさと帰って来るのじゃぞ」
「……アレも、でございますか」
「うむ。正直取り掛かり始めたときは心中複雑じゃったが……仕上がってみれば、新しい地平を開いたような気分じゃ。魔工技師ダンカン、会心の作じゃわい」
「それは、大変期待できそうですね。必ず、無事に帰ります」
「ずーっと僕に秘密でなんかやってるんだよなー……」
小さな体で元気よく腕を振るレイに手を振り返しながら、ダンカンの邸宅を後にした。
「あ……」
「どうしたの、チルカ?」
滑らないよう足元に注意しながら丘を下っていると、空を見てチルカが呟く。
「オーロラ......」
見上げると、空に透き通る緑のカーテンがかかっていた。かすかにゆらめくそれは、まるで呼吸するように薄桃色の光をゆったりと明滅させている。
「やった……見れた!」
「とても......素敵です」
「アイネスに話してやろーっと。きっと悔しがるよ、ひひひ......」
「マスターは……アイネス様には一段と辛くあたられますね」
「いじめ合う仲だからね」
「そうですか。少し......羨ましいです」
「チルカまで僕をいじめたりしないでね……?」
「あい、マスター。私は私なりの魅力で勝負いたします。うっふーん」
「お色気の術......!?」
チルカはそのまま空を見て、僕は足元を見ながら、丘を下っていく。
「素敵メモリー、ナンバー175……記録完了です」
「……あれ、前は173じゃなかった?」
「174は、昨晩私のソウルユニットに精をお放ちになった際の、マスターの恍惚としたお顔───」
「だーーーーーーっ!!!忘れて!そんなの忘れて!!」
「ねい。罪悪感と征服欲、そして圧倒的な満足感がないまぜになったあの表情は、とても素敵なものでした。マスターの遺伝子情報と共に、永久保存させていただきます」
「絶対誰にも見せないでね、素敵メモリー......」
「勿論です。この記憶は、私だけのものです。
たとえどんなことがあろうと、あなた以外の他者と共有することなどあり得ません」
湖のほとりに着く。湖面に揺れるオーロラをぼんやりと眺めながら、窓を通って別れた双子月亭の中へ入った。受付のハッチを降り、精霊たちの祈りが込められた、三つの魔石をベッドの支柱に置いていく。
魔石は光を放ちながら少し台座から浮かび上がり、ムーンスターのベッドを、柔らかな魔力で包み込んだ。
「これで全部......なんだよね?」
「あい、そのはずです」
「四つ台座があるのに魔石は三つ......なんか不思議だけど、まいっか」
チルカが前へと進み、ベッドへ横になると、布団をめくりあげて僕を見上げる。
それに応えるようにもぐりこむと、彼女は柔らかな毛布を僕にかけながら、片腕で僕を抱き寄せた。
「旅が……終わりますね」
「うん。いい旅だった。思ったより、大ごとになっちゃったけどね」
「……愛しております、マスター」
「どうしたの、急に」
「ただ、そう思ったのです」
「そっか。僕も、その……愛してます……。うう、恥ずい……」
「これからも、たくさんの新しい旅へ出かけましょう。今度はリィ様や、アイネス様と共に......」
「うん。そのためにもオネイロックスに勝って、グラシエラとの約束を守るんだ!」
「彼女は、美しいですか」
「うん、めっちゃ美人。でも先輩とは違って、なんとゆーか、王子様みたいな感じ」
「……きっと、僕に出会うために、マスターは生まれてきたんだね……」
「うわ、カッコいい。でも無理して王子様っぽく喋らなくていいんだよ……」
「そうですか。彼女に会うのが楽しみです。わくわく」
「楽しいオートマタだよね、チルカって……」
そうやってしばらくとりとめのない話を交わしていると、眠気が襲ってきた。彼女の髪に手を伸ばし、それを指で梳いて絹糸のような感触を楽しむ。
「......チルカって綺麗だよね」
「ど、どうされたのですか、急に......」
「んー?ただ、しみじみとそう思っただけ......」
そのまま彼女にキスしようとすると、チルカがそっと腕で押してきた。
「快楽を誘発させるような行為は……今晩はお控えください。オネイロックスと対峙するために……体力を温存しておかなくてはなりませんから」
「それもそっか……じゃ、粛々と魔力を交換……」
僕は融合が暴発するのを防ぐため、耳に付けた風のイヤリングを外して腰のポーチにしまう。
そしてチルカの胸に手を置き、彼女の奥へと潜っていった。




