第30話 愛とは一つの肉体に宿る、二つの魂である
木々のざわめきが聞こえる。僕はチルカと二人で、形のない散歩道を歩いていた。
わかり合えないからこそ、僕たちは語り合うのだ。
同じ存在ではないからこそ、お互いに向き合うことができるのだ。
……......僕とチルカを、優しい風が包んだ……。
(……マスター!)
(……ぐぅ……)
(マスター、起きてください、大変です!)
(……ハッ。あ、おはよう、チルカ。嫌な夢は見なかった?)
(それどころではありません!わ、私達……一つになってしまいました!)
(え?あー……昨日はもうめちゃくちゃに魔力を交換したからね、うん)
「違います!比喩表現ではなく、肉体と精神が融合しているのです!え……なに言ってるのチルカ?……ちょっと待って、今チルカが喋った?それとも僕が喋ってですからる?、今私はあなたであり、あなたはわたうわああっ!?なんか口が勝手にうごしなのです!くんだけど!?」
チルカのものとも僕のものともつかない、ハスキーな声が喋った。身体が勝手に動き、僕はベッドから飛び起きた。壁に取り付けてある鏡の前で足が止まる。
「……う、や嘘ぉ……はり、融合しています……」
鏡の中の見慣れぬ少女は、両耳に青と緑のイヤリングを付けていた。黒い目と黒い髪で、チルカの顔を二段階ほど平らにしたような相貌をしている。……顔を手で触ってみると、人肌と言うには硬い、しかし人工皮膚にしては柔らかい、奇妙な質感が指に伝わってきた。
「うぇ……一体これは、きっどのしょ……ような材質で構成されているのでしょうか……?内部スキャンを開始......」
「ち、チルカ……どーなってるの、これ!?私にもわかりません……ですがスキャンの結果、私たちの肉体はソウルユニットと冥華を含め、完全に融合しています」
(お、おっけー、わかんないけどわかった......。とりあえず、僕は喋らないし、動かないようにする......ごちゃ混ぜになっちゃうし)
(あい。ご配慮くださりありがとうございます、マスター)
(とりあえず......服着よっか)
身体が動き出し、ベッドのわきに落ちていたチルカの服を拾う。脚の間が目に入った僕は思わずうめいた。
「うっ......」
(な、なくなってる……)
(ご安心ください。マスターの男性器は、他の内臓と同様、腹部装甲の内側に格納されております)
(全然安心できないからそれ!とゆーか男性器とか言わないで恥ずかしいから!)
(さようでございますか)
「ん……少し、きついですね。やや身体が大きくなっているようです」
「おにいちゃま、おねえちゃま、おはようございますですの!」
扉が開いて、元気よくレイが入ってきた。
「おいしい朝ご飯を作りましたの!ダイニングへお越しくださいな!……あら?あなた、どなた?おにいちゃまとおねえちゃまは、どこに行ったんですの?」
「私は……」
(どう説明しよう、チルカ……?)
「……チルカ・アルティメットフォームです。……何それぇ!?」
「あるてぃめっとふぉーむ……?あなたは……おねえちゃまですの?」
(ほら、困ってるじゃんレイ!全然伝わってないよ!)
(ですが、最強形態はアルティメットフォームと相場が決まっているのです)
(僕の要素ゼロじゃん!そこはせめてチルトとかさ、フュージョンフォームとかさ、色々あるでしょ!)
(ねい、アルティメットフォームの方が優れた名前です。二人の力が合わされば究極で最強なのです)
(力を合わせるって普通融合するわけじゃないでしょ……もういい、僕が説明するからチルカは静かにしてて)
「レイ、実は……」
・・・・・・
「ふうむ……こりゃ、風の精霊の力じゃの」
「そうなのですか」
「うむ。耳に付けとるその飾りが、理解し合いたいというお主らの願いに応えたんじゃ」
「合体しちゃうなんて、すごいですの!」
「しかし……普通体内に他人の魔力があったら、強い拒絶反応が起こるはずなんじゃがのう。……なぜお主ら、平気そうにしとるんじゃ?」
(ギクッ)
「さては……昨晩、やりおったな?」
「あい。互いの魔力の区別が付かなくなるまでやりましたが、なにか?」
(ちょっとちょっとチルカ!何言ってるのさ!?)
(私たちは愛し合う仲ではありませんか。何ら恥ずかしく思うことなどありません)
(開き直りすぎだよ……)
「魔力......?何のお話ですの?」
「レイはまだ知らんでもええことじゃ。全く、最近の若いもんは節操というものを知らんのう……ま、半日も放っておけば魔力の差異が復活して元に戻るじゃろ。それまで辛抱するんじゃな」
(よ、よかったぁ……)
「たった半日ですか。残念です」
「……しかし、1400年生きてきたが、人とオートマタの融合体なんぞを見るのは初めてじゃ。のう、相談なんじゃが……ちと中を開けてどうなっとるか見してもらう事はできんかのう?」
「絶対いやーん、嫌えっっす!ちー」
「……なんじゃと?」
「失礼致しました。問題ありません、工房へ向かいましょう。え!?なんで!?」
(マスター、この力は守護竜オネイロックスとの決戦で切り札となるかもしれません。この一日で、能力の把握を進めておくべきです)
(うっ正論。……でもやだ!自分の内臓なんて見られたくない!!)
「む。急に尻もちなんぞついてどうした。……どこぞ、故障でもしとるのか?」
「マスター。駄々をこねるのはおやめください」
(やだーーーーーーっ!!)




