第24話 海鳴のイヤリング
通路を進んでいくと、広い空間に出た。そこには巨大な地底湖が広がっており、中央にある小島へ向かって長い石橋がかかっている。洞窟の天井が一か所崩れており、そこから射した光が小島の上に建てられた石の祭壇を照らしていた。
「きっとあそこに、水の精霊の祈りがあるはず……」
苔むした欄干に手を添えて進んでいくと、陽の光を反射して、祭壇の上で何かが光った。
「なんだろ、あれ……」
「イヤリングのようです」
祭壇の近くに咲いた小さな花を踏まないよう気を付けながら歩いていくと、確かにそれは雫型の青い宝石のイヤリングだった。そしてその横には、見覚えのある宝石箱が置かれている。祭壇の台座には、何か文字が刻まれていた。
「『安らかなる我が夢と共に、朝凪への祈りをここに残す。とこしえの眠りに沈む我が友を、いつか朝日が照らさんことを』とあります。やはりこれも、ムーンスターへ向けた言葉なのでしょうか」
「このイヤリングが、水の精霊の夢......?」
「見事にカットされたマーレライトですね……まるで日の光を閉じ込めたような輝きで……美しいです」
「折角だしつけてみたら、チルカ?」
「いいのでしょうか。こういったものは、アイネス様の方がお似合いなのでは......」
「チルカが頑張って手に入れたものなんだし、チルカが付けるべきです。とゆーか僕が付けます。えい」
「ま、マスター......」
チルカの右耳にイヤリングを付ける。
「あ……」
「どうしたの、チルカ」
「遠くから……波の音がします。ソウルユニットのざわめきが……静まっていくようです」
「水の精霊は、海の夢を見るのかな……?」
「海の夢……そうだとしたら、とても……素敵です」
一歩下がり、チルカの顔を見る。深い蒼の宝石は、彼女の明るい肌と髪によく映えていた。
「うん、やっぱり似合ってる。綺麗だよ、チルカ」
チルカは瞳を桜色に染め、右手をそっとイヤリングに添えて確かめると、恥ずかしそうにうつむいた。
「か、過分のお言葉でございます……」
宝石箱を開くと、そこには青い宝玉が入っていた。
「これはベッドにはめるやつだよね。よーし、帰ろう!」
「あい、マスター......」
・・・・・・
「おにいちゃま、おねえちゃま、おかえりなさいませですの!」
「ただいま、レイ」「ただいま帰りました、レイ」
「冒険の首尾はどうでしたの?」
「……じゃーん!」
「わあ……素敵な宝石ですの!」
「フリッフリッ」
「……?……わあ!綺麗なイヤリングですの!」
「マスターが私につけて下さいました。似合っているでしょうか」
「とってもとってもお似合いですわ、おねえちゃま!」
「ふふ。そうでしょう」
「騒々しいと思えばやはりお主らか。ちょうどいい、上へ来い」
「はい……?」
ダンカンに連れられて二階の一室へと向かう。
「わ、棚に巻いてある生地がたくさん……」
「瀟洒な衣類が飾られていますね。ダンカン様がお作りになられたのですか?」
「まあの。完璧なオートマタには、相応しい装いが必要なのじゃ」
ダンカンは作業台の上に乗った、丈の長い、分厚い灰色のシャツをこちらへ差し出した。
「着てみろ」
「え、くれるんですか!?」
「フン、あまりにもみすぼらしい恰好をしとったんで、我慢ならなかっただけじゃ」
「ありがとうござます!……あ、裏地はさらさら……そしてもこもこであったかい……」
「……これと、これも持って行け。余っとったんじゃ」
ダンカンは、棚から黒いレザーブーツと、深い紺色に染め上げられた、肩まで覆う布付きのフードを取り出した。
「こ、こんなにいいんですか!?」
「いいから着てみろ!」「う、うす!」
「このブーツめっちゃ歩きやすい……さらば木靴......さらば靴擦れ......フードももこさらであったかい……」
「うむ、多少は見れる姿になったの」
「……チラッチラッ」
「む?チルカ、お主の服装は……コートは安物じゃが、下に着とるのはアストラエアの軍服じゃろ?わざわざワシの作ったものを着んでもよかろう」
「当機は、フードを所望します。マスターと同じ濃紺のものが好ましいです」
「なに……お主はオートマタなんじゃから、防寒にこだわる必要はないじゃろ」
「審美的理由です」
「なんじゃと?……まあ、構わんが……」
ダンカンの持ってきた覆いつきのフードを被って、チルカは瞳をたんぽぽ色に輝かせた。
「お揃いですね、マスター」
「あ、ペアルックがやりたかったの?」
「あい。服装を揃えることで、同調効果や独占欲の充足が見込めます」
「ど、独占欲……」
チルカは僕の腕に腕を絡ませ、身体を寄せて囁く。
「少なくとも、この旅の間……マスターは、私だけのものです」
「……っ」
「なんじゃい、のろけるなら他所でやらんか。全く最近の若いもんは……」




