第22話 奸計も知略のうち
「くっ……あの兵士さえいなければ、戦車で王妃を倒せるのですが……」
「あの、白の騎士の左にあるやつのこと?」
「あい、マスター。あの王妃は敵の守りの要で」「凍れ!」「!?!?!?!!?」
僕が兵士の駒を凍らせて砕くと、全ての駒は最初の位置へと戻り、欠けていた駒たちが補充される。
「駒を壊すのは反則負けかー……」
「な、何をなさるのですか!?」
「援護しようと思って」
「お気持ちはありがたいですが、援護でしたら、指す手についての助言をお願い致します」
「そうできればよかったんだけど……僕、駒の動かし方すらよく分かんないし」
「では、当機を信じてお待ちください。必ずや、勝利をマスターに届けます」
「……………………」
「氷の壁で進路妨害!万里の長城!」
「マスター!?」
「氷で勝手に駒を作る!クローン戦争!」
「マスター……」
「氷の床で相手を滑らせる!マリーシア作戦!」
「…………マスター。」
「あっ、床はセーフ!床はセーフだよチルカ!……あ、あれ?なんで目を真っ赤に……」
「私は真剣な勝負をしているのです。これ以上のお戯れはおやめください」
「でも……言いづらいんだけどさ、チルカあんまりこのゲーム強くないでしょ?」
「~~~~!ぎぎぎぎぎっ……」
「ひえっ……ギアのきしむ音……。も、もちろん僕よりずっと強いよ、チルカは!でもその、今回は相手が悪すぎるというか……だって精霊界最強だっていうし!……ね?」
「…………マスターが奸智を弄したいというのであれば、ご自由にどうぞ。ですが私は、あくまでも正々堂々と戦わせていただきます」
「オートマタなのにいじっぱり……」
「なにか仰いましたか?」「なにも言ってないっす」
・・・・・・
「相手の騎士が跳んだ……チャンス!凍れ!」
凍った床に着地した紺の馬は足を滑らせ、そのまま進んでいく、騎士は巧みなたづなさばきでそれを止めるが、一マス分余分に進んでしまった。
「あーーっ動かせない所に駒を動かしてます!反則です反則!」
僕の声に応えるかのように、紺の騎士が砕けた。
「っしゃ!!」
「…………。王妃よ、背後より司祭を守れ」
もの言いたげな目でこちらの様子をうかがったあと、チルカは駒を進める。
「騎士は狩れるけど……他の駒はあんまり滑らないなー……どうにかもっと援護できないだろーか」
と、僕の前を戦車が駆けていく。
「あの馬車......一度にたくさん動けて強そう。どうにかできないかな……」
「……っ。王妃か司祭、必ずどちらかは取られてしまいます……」
チルカが悩んでる隙に、戦車を観察してみる。「……うーん、強そう。……あ、でも車輪の内側の棒、結構細いな......」
手で触れてみると、駒は氷のように冷たい。車輪のスポークに爪を立ててみると、それはわずかに欠け、爪の間に挟まった紺色の欠片は、やがて解けて色水に変わった。
「この駒......氷でできてる。ハッ!閃いてしまった.....」
僕は立ち上がると、チルカに向かって言う。
「ちょっと外出てくる!ゆっくり考えてて!」
「ま、マスター!?」
「すぐ戻ってくるから!」
僕は外で薪を取り出し、光を収束させた熱線の魔法で火を付けると中に戻る。そして紺色の戦車の車輪のスポークを、火のついた薪で炙った。
「マスター、いい加減になさって下さい。駒を破壊するのは反則です」
「大丈夫、壊すんじゃなくて、動いたら壊れるようにするだけだから。さっき爪でひっかいた時は反則とられなかったから、たぶん大丈夫なはず」
「……反則でなければ、何をしてもいいと仰るのですか」
「うん。人と遊ぶ時ならルール守るけど……今の相手はただの仕掛けだし」
「なるほど。マスターに騎士道精神のないことが、よく理解できました」
「うう……なんかどんどん嫌われていくなー。チルカに勝ってほしいだけなのに……」
両方の車輪のスポークをまんべんなく炙り、溶かして脆くする。
「……ここは、司祭を捨てます。王妃よ、下がれ!」
チルカの駒が動いた後、紺の戦車が向きを変えようと動き出す。と、脆くなっていた車輪が壊れ、戦車ががたりと落ちた。方向を変えきれないまま馬は走り出し、車輪の無くなった戦車を斜めの方向に引きずっていく。
「よし……リセットされない!明らかに想定外の挙動!」
盤上の中途半端な位置で止まった戦車は、やがて砕け散った。おそらく、不正な移動とみなされたのだろう。
「戦車倒したよ、チルカ!後は頑張って!」
「……司祭よ、敵陣へ切り込め!」
「もう返事もしてくれない……」
奸計で騎士と戦車を失いながらも、紺の軍勢は粘り強く抗戦した。しかし物量の差は覆し難く、ついに白の王妃が、紺の王を打ち倒す。
「やった、勝った!」
駒たちが最初の位置へ戻り、欠けていた駒は生成される。奥の壁からかちりと音がしたかと思うと、隠されていた出口が現れた。
「お疲れ、チルカ!」
「……どうせ私は、クアドラベルムの弱いオートマタです」
「すねちゃった……。いやいや、相手が強すぎただけだって!」
「仕方がないではありませんか。余暇に遊ぶボードゲームの対戦相手が勝てないほど強くては息抜きになりません。よって私には、程よく抵抗したのち負ける程度の強さしか与えられなかったのです」
「そうだよ、仕方ないよ。そもそもチルカはボードゲームじゃなくて、警備をするためのオートマタだったんだし」
「あい。本来の用途でないことに使用されたのがいけないのです。決して私は、ポンコツオートマタなどではありません……」
「うんうん、チルカは帝国最新鋭だもんね」
「あい......帝国に栄光あれ……」
「そもそもさ、駒を生きてるみたいに動かしてたのがいけないんだよ。そのせいで、騎士や戦車に細工できちゃったわけだし……」
「ねい。それは規則の穴を突くような行為をしたマスターが悪いです。恥を知ってください」
「すいません……」




