第20話 時魔導士、おにいちゃまになる
「ハルトさん!おねえちゃま!お帰りなさいですの!」
「ただいま、レイ」「ただいま帰りました、レイ」
「……!おねえちゃま、その炎は、まさか……!」
「あい。火の精霊の夢です」
「やりましたわーーっ!!急いでおじいちゃまを呼んできますの!」
スキップしながら奥へ消えていったレイは、ひげにすきバサミを引っかけたダンカンを連れてきた。
「な、何をするんじゃレイ、ひげの手入れがまだ済んでおらんというに……」
「それどころじゃないんですの!あちらをご覧なさいな!」
「なに?......なんじゃお主ら、もう帰って…………な、そ、その炎は……!」
「火の精霊の夢、ばっちり持ち帰ってきたっす!」
「そ、それをワシによこせ!い、いや……渡してくれ、頼む……!」
「マスター、よろしいですか」
「もちろん。ダンカンさんのために持ってきたものだし」
チルカから火の乗った大皿を受け取ると、ダンカンはそれを頭の上に掲げ持ち、猛然と走り出した。
「うおおおおおおっ!」
「うおーっ、ですの!」
「二人を追いかけよう、チルカ!」
「あいあい」
炉の中に息づいた青い炎を見つめて、ダンカンはしばらく言葉を失っていた。そんな彼の顔を見て、レイは横で楽しそうににこにこ笑っている。
「信じられん……ワシの炉に、また火の入る事があろうとは……」
「お、おじいちゃま!?泣いてるんですの?悲しいんですの……?」
「レイ……きっとダンカンさんは、すごく嬉しいんだよ」
目頭を押さえながら、ダンカンが頷く。
「うむ……生まれてこの方、これほど嬉しかったことはない……」
「嬉しいんですのね!ならよかったですの!」
「う、うおおお……湧いてきおったぞ、新たなるオートマタの着想が……!レイ、手伝っておくれ!今夜は夜通し試作じゃああああああっ!!」
「はい、おじいちゃま!」
「すごいやる気だ……」
「あい。ダンカン様の創作意欲にも火が着いたようです」
「邪魔しちゃ悪いし、今日は宿に泊まろっか」
「あい。防音性の高い個室を希望致します」
「え……?それってもしかして……」
「希望致すのです」
「はい」
・・・・・・
「ふむう……いや、できなくはないんじゃがのう……」
「是非、ご一考の程よろしくお願いいたします。当機とマスターの関係深化のため、極めて重要な機能なのです」
「確かに命を奪うための機能ではないが……しかしこのワシがそんなものを……むむう……」
「なんかめっちゃ悩んでる……チルカ、一体何を頼んだの?」
「秘密です」
「お主......見かけによらずアレじゃのう」
「僕!?アレってなんですか、アレって」
「……ま、ええじゃろ。300年ほど前にお主のようなスキモノから押し付けられた部品が何処かに埋もれとるはずじゃ。……む、そう言えば最近、生きたフレッシュスライムを使った新しい生体部品も出ておったのう。アレとコレを組み合わせてナニすれば……うおおお、ひらめいたぞい!」
「わ、工房に走って行っちゃった……」
「作戦目標達成に向けた障害、順調に解消中です」
「...…?」
慌ただしく出ていってしまったダンカンと入れ替わりに、レイがぱたぱたと客間に入ってくる。
「おにいちゃま、おねえちゃま、冒険のお話を聞かせて欲しいですの!約束ですの!」
「おにいちゃま……?」
「はい!ハルトさんはおじいちゃまを元気にしてくれたんですの!だから、おにいちゃまですの!」
「理屈は分からないけど、とにかく嬉しい……」
「私とマスターとの出会いは、薄暗く大破した研究所の中でした……私は千年の眠りから目覚め、運命の人と巡り合ったのです……」
「語り出すのはやっ。てゆーか、チルカって十年前に一度起きてたんじゃなかったっけ」
「細かいことはいいのです」
「あっはい」
「わくわくわく……ですの」
───僕達はレイが満足するまでこれまでの冒険の話を聞かせた後、ダンカンの邸宅を後にし、冒険譚のお返しにと彼女から教わった、水の神殿の場所へと向かった。




