第18話 なんとかなれーッ!
順調に神殿の奥まで進んだ僕たちは、大きな石碑の前にたどり着いた。その先には、間の空いた足場がいくつも並んだ長い通路が見える。
「これ……なんだろ。真ん中の炎の中に何か文字が書いてあるけど……」
「古代メルクニス語ですね。精霊の間で使われていた言語です。『火を鏡とし、自らの罪を見つめた者にのみ目覚めの時は訪れる。見せかけの平穏に縋る者は、黎明の炎を見ることなく破滅を迎えるであろう 』……と、あります」
「破滅......?物騒なこと書いてあるね……どういう意味だろ……?」
石碑の左側には手にした剣で精霊を刺し貫く男が描かれており、中心には揺らめく炎が、そして右側には沼のようなものにはまって苦悶の表情を浮かべる男が描かれている。
「チルカ、この一番下に書いてあるのは?」
「『10110』と、『01100』という二つの数列が、長い一本の縦線に隔てられています」
チルカに説明を受けた上でそれらの記号を見ると、『UYUUY|YUUYY』のように見えた。
「はえー……読み方は分かったけど、結局なんのことだかわかんないや……」
「残念ながら、私もです」
「とりあえず先に進もっか。詰まったらまた戻ってくればいいし」
「あい、マスター」
石碑の横を抜け、先に進む。そこには二列の石の足場がいくつも並んでいた。
「この足場を飛び移っていけばいいのかな?うっ……た、高い……下はなんかやばい色の液が溜まってるし、落ちたらひとたまりもなさそう……」
「ですが、足場は十分に広く、足場の間の距離もそれほどありません。マスターの身体能力でも、問題なく通行が可能だと思われます」
「あ、足がもつれちゃったらどーしよ……」
「では、私が先行します。仮に跳躍を失敗なさっても、確実に受け止めてみせます」
「ありがと、チルカ」
彼女は軽やかに跳躍し、二列あるうちの右の足場に着地する。その瞬間、足場の表面に白い魔法陣が浮かび上がった。
「マスター、おいでください」
「う、うん……ていやっ!」
おっかなびっくり飛んだ僕は、チルカに優しく抱きとめられた。
「こ、怖すぎ......。あと何個あるの?」
「9個です」
「うへ...…」
と、地面が揺れ、毒々しい色をした足元の液だまりの中からぼこりとガスが湧き出し始める。
「な、なに!?」
「マスター、退避を!」
慌てて浮かぶ足場から元の場所へと戻る。チルカはしばらく液だまりを見つめたあとに言う。
「解析完了。気体はケトラモースです。人体に対する毒性は微弱ですが、高い可燃性があります」
「……ちなみに溜まってる液は?」
「ラージャー酸です。極めて腐食性が強く、紫檀鋼ですら長時間の液浸には耐えられません」
「紫檀鋼……チルカのボディでもダメなんだ。僕が落ちたら骨も残らないね……こわ」
「マスター、早急にここを突破しましょう。ケトラモースが周囲の火気に触れれば、壊滅的な爆発が起こります」
「了解」
再び二人で足場に乗る。次の足場へ向け、チルカが跳躍した。
「……っ!?」
浮かぶ石の足場をすり抜けて、チルカが落ちていく。
「チルカ!」「くっ……!」
彼女は落下しながらも一つ奥の足場の壁面にしがみつくと、力強く足場をよじ登り、何とか上へと戻ってきた。
「な、なに今の!?幻!?」
「あい。全く手ごたえがありませんでした。マスターの目の前にある足場は、実際には存在しておりません」
「……まさか足場が二列あるのって、片方が幻ってこと!?」
「当機が確認いたします。少々お待ちください」
チルカは僕から見て左前の足場へと跳躍した。何の問題もなく着地し、足場の表面に先程と同じ魔法陣が現れる。
「ほっ……」
「やはり、実在する足場は片方のみのようですね」
「二択を10回連続で当てろってこと....…?何分の一なのさ……」
「1/1024でございます、マスター」
「絶対無理じゃん!何か攻略法があるはず……」
「幻と実在する足場には、視覚的な差異がある可能性が高いです。それを識別できないか試してみるのはいかがでしょうか」
「いいね、やってみよう!」
足場を右、左、右と飛び、四つ目の足場に目を凝らす。
「じーっ……。……駄目だ、全然わかんない」
「左の足場は、1.3秒周期で0.002秒の間揺らいでいます。幻の可能性が高いです」
「すご……流石帝国最先端のオートマタ」
「お褒めに与り光栄です。帝国に栄光あれ」
チルカが目の前の足場へ飛び移る。四つ目の魔法陣が光り出した。
「よし……いけそう!チルカ、次はどっち?」
「…………?両方の足場が揺らいでいます」
「え……どっちも幻ってこと?そんなのずるじゃん」
「……今、右の足場の揺らぎが収まりました。恐らくはこちらかと……」
「ほんと?気を付けてね、チルカ……」
チルカが次の足場へ飛び移る。彼女は無事に着地したが、少し違和感があった。
「あれ……魔法陣が光らない……?」
「マスター、こちらへ」「う、うん……」
僕が五つ目の足場へ飛び移った瞬間、足元の石柱は消え失せ、僕達は落下し始める。
「うわっ!?」
咄嗟にチルカが僕を突き飛ばし、僕は隣の足場に尻から着地する。すると、僕の尻の下で魔法陣が光り出した。
「……っ!」
僕は即座に立ち上がると、チルカ目がけて飛び降りた。
「マスター!?なぜ……!」「手を!」
空中で僕の伸ばした手に、彼女の手が重なる。僕は彼女を引き寄せ、彼女のボディの陰に隠れるように身を縮こまらせると、腕だけを液だまりの方に突き出した。
「なんとか……なれーーーっ!!」
ありったけの魔力を込めて放った火は充満していたケトラモースに引火し、僕達は轟音と共に爆炎に巻き込まれ、吹き飛ばされた。




