第17話 火の神殿へ
───僕はチルカのアーティフィシャル・リパルサーを切り開き、彼女と魔力の交換をした。
終わった後、チルカは長い間放心していた。
僕は彼女の隣に座って、一つの魂のありようを変えてしまったことに対する深い達成感と、その責任の重さをぼんやりと噛みしめていた。
「僕もオートマタになろっかなー……
いや、定期的に遡行魔法をかければ不老不死になれるか……」
「……マスター」
「なに?」
「私を廃棄処分にしてください……生き恥を晒したくありません」
「……大丈夫だった、ソウルユニット?一応加減はしたつもりなんだけど……」
「ユニット自体には……異常ありません。ですが、思考回路の72%が先程の体験のフラッシュバックで占有され、未だに使用できない状態です」
「ものすごい気持ちよさそうだったもんね……」
「マスターこそ、随分楽しそうにしておられましたね……」
「ご、ごめん……」
「あれだけ私を辱めておいて……謝罪はそれだけなのですか」
「完全に調子に乗りました。僕は愚かでした。言い訳のしようもないです」
「…………アーティフィシャル・リパルサーを、閉じてくださいますか」
「はい治します……もうあんなことしません……」
「ねい。不慮の事故で、あのような痴態を晒したくないだけです」
「え……じゃ、じゃあ……」
「次回以降も……二人きりの状況を確保して行ってくださるようお願いいたします。あんな姿……例えリィ様やアイネス様にであってもお見せしたくありません」
「僕には……見せてくれるってこと?」
「………………あい」
「……っ。ありがとう、めっちゃ嬉しい」
「想定外の形ではありましたが……第二目標クリア。作戦、最終フェーズに移行……」
「作戦......?最終フェーズってなにさ……?」
チルカは澄まし顔に戻って、なんでもありません、と意味ありげに言うのだった。
・・・・・・
抱き合って眠り、目覚めると吹雪の音は止んでいた。外に出て火を起こし、爽やかな晴天の下で朝食を摂ったあと出発する。旅程は昨日の苦戦が噓のように順調で、一時間も経たずに火口までたどり着いた。凍てつくような寒さは和らぎ、足元の雪は溶けて、地面にはごろごろとした小石が転がっている。僕達は毛皮のコートを脱ぎ、リュックにしまった。
「あった。きっとあれが火の神殿だね」
巨大な石造りの建物を指さして、僕は言う。
「あい。あの石柱の意匠はイオン様式です。当機の製造された時代に建設されたものと思われます」
「はえー……」
神殿の中に入ると、強烈な熱気が襲ってきた。それと同時に奇妙な感覚に襲われる。
「なんか、魔力が……」
「空間中の異常な魔力構成を検出。諸相が火に固定されているようです」
「……どゆこと?」
「この神殿内では、火の魔術しか使えません」
「ええっ!?……戻れ!氷!風!脂!火!……ほ、ホントだ、しょぼい火しか出せない……。ごめん、戦闘では役に立てないかも……」
「私のそばを離れぬようお願いいたします。遡行魔法が使えない以上、負傷は命取りになりかねません」
「守られてばかりで申し訳ないっす……」
「マスターを守ることが、私の存在意義ですから」
「……オートマタとしての?」
「ねい。あなたを愛する者としての、です」
「う、嬉しい……」
神殿の中には、広大な空間が広がっていた。吊り橋で繋がった岩の足場の下には溶岩の海が広がっており、遠くには火の粉を振りまきながら飛ぶコウモリや、じっと壁に張り付いている、岩のような表皮を持つトカゲが見えた。
「火山の中に入ったみたいだ……」
「ねい。これはヴルカーン火山の内部ではありません。未知の魔術で構成された、仮想的な空間であると推定されます」
「精霊の魔法ってこと?」「あい。おそらくそうでしょう」
・・・・・・
「空から燃えるコウモリが!」
「チルカムーンサルト」
・・・・・・
「壁のトカゲが火を噴いた!」
「チルカガード。チルカチョップ」
・・・・・・
「でっかいダンゴムシみたいなやつきた!」
「チルカキィィィック!!」
「溶岩の中に蹴り飛ばした!?ないしゅーないしゅー!」
・・・・・・
「いやー、やっぱりチルカって強いね。牙も爪も弾いちゃうし、火の息だって効かないもんね」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。……ただ、少々服が焦げてしまいました」
「外に出たら直しとくよ。僕は時魔導士だからね!」
「あい、マスター。ありがとうございます」
「いえいえ、そんなことしかできませんで……。
ところでさ、攻撃のたびに技名を言うのはなんなの?」
「ライダーたちの戦闘法を参考にしました。周囲の味方に自分の動きを伝え、連携をスムーズにする役割があると推測されます」
「そ、そっか……」
「当機としましては、ライダーたちのように音や光の出る武装を追加したいのですが……ダンカン様は、おそらくお許しにならないでしょうね」
「うん……自分の腕を戦いのためには使いたくないって言ってたもんね。でも、今あるマジックカッターに色を変える機能を追加する、とかなら許してくれるかも」
「……!マスター、それは非常に素敵なアイディアです。是非、提案させていただきたいと思います」
「チルカが嬉しそうでよかった」




