第11話 血塗られた人殺しの道具
「はい。冒険者のハルトって言います」
「私は女性型特殊設備警備用オートマタ、CI-11U3421-KA です。チルカとお呼びください」
「……………」
「僕達、ダンカンさんが腕のいい魔工技師だって聞いてここまで来ました。チルカに、機能を追加して貰えないかって思うんですけど……」
「……帰れ」
「え……あ、ちょ、ちょっと、待ってください!」
「帰れと言っておろうが!そのオートマタは終末戦争時代に製造された、帝国の戦闘用シリーズだろう!しかもCI型ということは、ソウルユニットに人の血肉を喰らった冥華が使われておるな!?ワシはもう二度と、争いのために自分の腕を使わんと決めたのだ!」
「ダンカン様、誤解があるようです。当機が望む追加機能は、戦闘用のものではありません。疑似睡眠や味覚センサーといった、マスターと同じ体験を共有するための機能を追加していただきたいのです」
「フン、なんだって同じじゃい!ワシが扱うのは平和なオートマタだけじゃ!お前のように血塗られた人殺しの道具に振るう腕なんぞ持ち合わせておらん!」
「っ……」
「……ダンカンさん、今のは取り消してもらっていいですか?チルカは人殺しの道具なんかじゃない。好奇心旺盛で、思いやりがあって、カッコいいものが好きな、平和なオートマタです」
「口だけなら何とでも言えるわい!人間は歴史から学ぶということをせん。お前のような馬鹿者共に、ワシは散々辛酸を舐めさせられてきた。もう二度と騙されんぞ……!」
「違います!僕は……!」
たかたかと走る音が近づいてくる。ダンカンの後ろから、レイが顔を出した。
「おじいちゃま、大きなお声を出して、どうしたんですの?けほっけほっ……ケンカはよくないですの。仲良くするですの……ゴホッ!」
「レイ、走るなといったじゃろう!むう、ソウルユニットに過負荷が……!」
「レイ様、故障されたのですか?」
「お前には関係ない!黙っとれ!」
「は、はい……少し前に、ソウルユニットに傷ができちゃったんですの……」
「た、大変じゃないっすか!ヒールさせてください!」
「なにを馬鹿なことをいうとるんじゃ!レイはオートマタじゃぞ!」
「おじいちゃま……けほっ、怒っちゃだめですわ。ハルト様、私にヒールは効かないんですの。お気持ちだけ、ありがたく受け取らせていただきますの」
「マスターの魔法は、対象の時間を遡行させる極めて特殊なものです。レイ様にも有効に働きます」
「それは……本当ですの?」
「ダメじゃダメじゃ!!そんな訳の分からん魔法を、うちの娘にかけさせるわけにはいかん!」
「おじいちゃま……わたくし、試してみたいですわ」
「な、なんじゃと……?」
「おじいちゃまもわかっているでしょう?いずれにしろ、このままではわたくし……」
「……くっ!勝手にせい、どうせ無駄じゃ!」
レイのそばに屈みこみ、視線を合わす。
「レイ、君のソウルユニットはどこにあるの?」
「お胸ですわ!」
「あ……治すためにちょっと触らなくちゃいけないんだけど、いい?服越しでいいから」
「そ、そうなんですのね……わかりましたわ!」
「ごめん、すぐ済ますから」
「……っ。は、恥ずかしいですの……」
彼女の胸に手を当て、魔力を集中させる。
「あら……光?お星さまかしら……」
「む……!?瞳の回路が誤作動を起こしておる……!レイ、大丈夫か!?」
「わあ……青く光って、とってもきれいですわ……!おじいちゃま、きっとこれは時間ですわ!時間が魔力流に乗って、流れ星みたいに動いてるんですの!」
「れ、レイに何をした!?どけ、人間!」
「ふぎゅ!」
「レイ……レイ、大丈夫か!?」
「…………。
すごい……すごいですわ!おじいちゃま、ソウルユニットが直っています!ハルトさんの魔法は、本当だったんですわ!」
「な、なに、そんなことがあるはずが……むう、しかし、確かに動力系の乱れは収まっているように見えるのう……」
「マスターの力、ご理解いただけましたか?」
「ぬう……。
レイ、工房へゆくぞ。内部の様子を確かめてみたい」
「はい、おじいちゃま!」
二人についていく。ダンカンの工房には、炉や作業台、工作機械が置かれており、作業台の近くには、様々なオートマタのパーツや工具が整然と並べられていた。
「付いてくるでないわい!」
「お二人とも、そちらでお待ちくださいな!」
慌ただしい足音と共に、工房の扉が閉まる。
「チルカ……ごめんね。あんな事言われるなんて思ってなくて……」
「なぜマスターが謝るのですか。あなたは何も悪くありません」
「でも、ここに連れてきたのは僕だし……」
「当機のソウルユニットは、あの程度で傷付くほど脆弱ではありません。それに……とても、嬉しかったです。マスターが、私のために怒ってくださったこと……」
「へへ……」
扉が開き、二人が出てきた。
「ソウルユニット、ばっちり直ってましたの!」
「そっか、よかった」
「お主……一体何者じゃ?」
「そうっすね……みんなは僕をこう呼びます。『ティンの白き翼』と……!」
「白き翼……じゃと?」
「わあ、カッコいいですの!」
「ふふーん。僕しか持ってない、特別な称号なんだ。冒険者ギルドのギルド長にお願いしてつけてもらったんだよ」
「そんなもん、聞いたこともないわい。やっぱりお主、怪しいのう……」
「がーん。やっぱり英雄になっとけばよかったかな……なんか勲章とか貰えたらしいし……」
「まあ……レイが直ったのは事実じゃ。礼を言うぞい」
「いえいえ」
「おじいちゃま、お二人に謝らなくちゃだめですの」
「な、なぜワシが……」
「お二人に大きなお声を出していましたわ!ごめんなさいしなさいな!」
「ぬ、ぬう……ハルトよ、すまんかった。良かれと思って修理を引き受けたオートマタが悪事に加担させられたり、戦いの道具として使いつぶされたりすることが何度もあってのう……ワシは人間というものに、ほとほと愛想が尽きておったのじゃ」
「ひどい……そんなことがあったんですね……」
「特にお主のような若い冒険者が、正規の方法でオートマタを手に入れられるとは思えん。どこぞの遺跡から盗み出してきたのではないかと思ったのじゃ」
「うっ、大体合ってる……」
「ねい。マスターは特別研究員の権限を以って、合法的な手段で当機を接収なさいました。マスターは、当機の正当な所有者です」
「やはり誤解だったようじゃな……すまなんだ」
「いえいえ、当然の疑問ですよ」
先輩の持っていた、特別研究員のメダルを貸してもらっていたことは黙っておこう……。
「それと、チルカ、と言ったかの?酷いことを言うてしまって悪かった。
……終末戦争で、ワシの妻は帝国に捕まっての......忌まわしい冥華の宿主にされてしもうたのじゃ。お主の姿を見た時、その時の記憶が蘇ってのう……」
「そうだったのですね。ご心痛、お察しいたします」
「おじいちゃま、お二人と仲直りの握手ですの!」
「も、もういいじゃろ、謝ったんじゃから……」
「握手ですの!」
「む、むう……」
困ったような顔で、ダンカンは気恥ずかしそうに僕達と握手を交わす。
「ふふっ、レイには頭が上がらないんですね」
「うるさいわい!」




