2024/10/8(火曜日)1/2
二限の数学をサボり屋上でひとり風に吹かれていた。
来る途中で買ったホットのミルクコーヒーのプルタブに爪をひっかける。――かちゃっ。プルタブの沈む音が秋風に溶け込んだ。
この時間、学校は眠りについたかのように静かだ。
潮の香りを孕んだ緩やかな風があたしの髪を弄ぶ。今、風がからかった生徒は八百人近くいる中であたしだけ。そう思うと、自分が少し特別になれた気がした。
手元に目をやれば、早朝から遅々として進まない五線ノートが置かれている。
発表していないだけで新曲はいくつかできている。が、そのどれも歌詞が吹き込まれていない。あたしには絶望的に作詞センスがないのだ。
気が乗らないので、三限まで音楽を聴いて時間を潰すことにする。
スマホの電源を点けると、普段は沈黙を貫いているアイコンから1という数字が浮かび上がっていた。Xのアイコンだ。
「ツイートなんて半年近くしてないんだけどな」
誰かにフォローされたのだろう。こんな植物状態みたいなアカウントをどうやって発掘するのかと疑問に思いながら久方ぶりにXのアイコンをタップする。
あたしの予測は外れていた。
「DM?」
確認すると、こんなメッセージが届いていた。
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―方位磁石様―
はじめまして。詩ノ葉プロダクションの今別府と申します。
このたびは、方位磁石様に弊社の支援するアーティストのひとりとして活動することを検討して頂きたくご連絡差し上げました。
つきましてはお話の時間を設けていただきたいのですが、ご都合のよい日程はございますでしょうか。対面が難しいようでしたら、オンラインでの対面でも問題ありません。
突然のご連絡失礼いたしました。
方位磁石様からのご返信を心よりお待ちしております。
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ご丁寧にどうも。
ところで今別府ってなんて読むんだ? いまべっぷ? こんべっぷ?
改めて文面に目を通す。
……うん、紛うことなきスカウトメールだ。
冷静沈着でいられるのは、この手のメールに慣れているからだ。
これで三回目だ。どうせ今回も前回、前々回と同様の結果に終わるんだろうけど、一応丁寧にメールを返しておく。
「十七時以降でしたらいつでも構いません。今日でも構いませんよっと。……あ」
メッセージを送ってからポカしたことに気づいた。時刻は十時。健全な学生がレスポンスするには違和感のある時間だ。
まぁ実際健全な学生じゃないし、常識に従えないやつはいらないと言われたのならその時点で縁を切ればいいか。
「ふぅ」
給水塔の壁に背中を預け、頭上を見やりながら長らく放置していた缶コーヒーを呷る。
すっかり冷め切っていて冷たかった。




