2024/11/1(金曜日)1/3
伊都のいない金曜日がやってきた。
もし今日が変哲のない日なら、わたしは仮病を使ってずる休みしていただろう。
幸せになってほしいという伊都の願いを叶えるために生きる。そう決意したけど、一日くらいは伊都がいなくなったことで生まれた喪失感を埋める時間が欲しかった。
すたすたひとりぼっちで歩くこと十五分、学校に到着する。雲ひとつない快晴の空が照らす校舎からは、ガヤガヤと高揚感に彩られた声が漏れていた。
今日は文化祭当日だ。ワクワクよりも倦怠感が勝っているのは、きっとわたしと文化祭の楽しみ方を知らない生徒くらいだろう。楽しげな喧騒がどこか遠くの出来事に思えた。
朝のHRは出欠点呼だけで終わった。途中、担任の先生が「北は……栗田」と言い直していて、伊都が現実からいなくなる代わりにみんなの記憶に帰って来たことを実感した。わたしは心の中で「おかえり伊都」とつぶやいた。
HRの後は体育館で生徒会主催の文化祭オープニングセレモニーがあり、昨年同様、有志のバンドによる演奏や保健委員会の寸劇があった。会場がどっと沸いている。列の先頭という特等席にいるのに、わたしの心はちっとも動かなかった。
生徒会長がカウントダウンをし、クラッカーが鳴らされると同時に文化祭の幕が開けた。
これから一時間後、あのステージ上で劇をする。
意識したら胃がズキズキした。
教室に戻ると、衣装担当の子たちに空き教室までドナドナされた。
主役ということもあり、わたしの衣装には力が入っている。黄金のティアラに、オペラグローブに、フリルのついた純白のドレス。王家の息女という設定を裏切らない華やかな衣装だった。わたしの身長が低いせいで着せられている感が拭えないのが申し訳なかった。
仕上げに軽く化粧をしてもらって準備完了。衣装担当の子たちが「超かわいいよ南野さん!」と鼻息を荒くしていたけど、わたしはその熱についていけず苦笑することしかできなかった。
ふたたび教室に戻る。
すると、さっきまではわたしを特別意識していなかったクラスメイトが、まるで芸能人でも見るかのようなまなざしをわたしに注いできた。ここまで大勢の子がわたしに注目してくれたのははじめてだった。
羞恥が募る。
スカートの裾を持ち上げ、わたしは早足で自分の席に向かって腰掛けた。
「ほどく」
すぐ手前から声がして顔をあげると、ぱしゃっとシャッターを切る音が出迎えた。
里奈ちゃんがスマホを構えていた。グッと親指を立てて言ってくる。
「すごくかわいいよ。演技しなくても、ほどくのかわいさだけで全校最優秀獲れる」
「……ほんとにかわいい?」
「うん、今の潤んだ瞳で上目遣いに訊ねてくるあざとさとかキュン死しそうなレベルでヤバイ」
「狙ってやってるわけじゃないんだけどね。里奈ちゃん、キュン死なんて言葉使うんだ」
それから本番まで里奈ちゃんと他愛ない話をして過ごした。
何気ないことで笑えて、ほっとした。




