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第1章 「始まりの鐘は三度鳴る」 第7話

今日の夜空は、まるで宝石を散りばめたようにきらきらと輝いていた。


都心から少し離れた高台にある小さな公園。


ここはビルの灯りに邪魔されることなく、澄んだ星空を眺められる数少ない場所だった。


翼が子供の頃から、悩み事があるときや嬉しいことがあるとき、いつもここへ来て星を見上げていた。


ベンチに小さく腰を下ろした飛彩翼は、両手を膝の上に置きながら、静かに夜空を見つめていた。


今日は、エーデルの最終選考。


審査員席に座っていた現役エーデルたちの迫力と


オーラは、想像以上に圧倒的だった。


特に哪吒の冷たい視線と、即興で繰り出される難易度の高い振り付け。


気迫に飲まれて、まともに演技ができなくなってしまう参加者も少なくなかった。


それでも翼は、精一杯やり切った。


自分が今できるすべての力を、ステージにぶつけた。


「……多分、大丈夫だよね」


翼は小さく呟き、再び星空を見上げた。


無数の星が、まるで彼女のこれまでの努力を優しく見守ってくれているように瞬いている。


そのとき、背後から柔らかな声が聞こえてきた。


「こんな時間に、女の子がひとりでいるなんて危ないよ」


翼が驚いて振り返ると、そこにひとりの女性が立っていた。


腰まで届く、綺麗に流れる長い金髪。


夜の闇の中でさえ澄み渡るような、深く青い瞳。


その佇まいは、まるで星明かりを集めて形作られたような、幻想的な美しさだった。


女性はゆっくりと翼に近づき、穏やかな笑みを浮かべた。


「何してたの?」


「……星を見ていたんです。ここから見える星が、とても綺麗で。子供の頃から好きで」


「確かに、綺麗だね」


翼は少し困ったような顔をした。


見知らぬ女性に声をかけられた戸惑いが、表情に出ていた。


女性はそれに気づいたのか、軽く手を挙げて言った。



「あ、ごめんね。私は李梨奈。雪叢李梨奈ゆきむら りりなっていうの」


その名前を聞いた瞬間、翼の瞳が大きく見開かれた。


李梨奈?


今、雪叢李梨奈って言った??


「まさか、過ぎ去りし流星の……!?」


「え?あ、うん。そうだよ」


李梨奈の顔に、一瞬だけ影が差した。しかし、興奮でいっぱいの翼はそれに気づかなかった。


「私、飛彩翼です!! あなたたちに憧れて、百合々咲音楽学院に入りました!!」


翼の熱量に少し押され気味になりながらも、李梨奈は優しく微笑んだ。


「飛彩……翼……じゃあ、翼ちゃんだね」


李梨奈はふっと柔らかな笑みを浮かべ、翼の隣のベンチにそっと腰を下ろした。


「百合々咲ってことは……エーデル?」


「いえ、まだエーデルになれてないです。でも、今日……エーデルの一つ、フラウ・ヒンメル(空の君)の最終選考があったんです」


その言葉を聞いた瞬間、李梨奈の肩が、わずかにビクッと震えた。


翼は目を輝かせて続けた。


「まだ結果は明日なんですけど……もし受かったら、やりたい舞台があるんです。 12年前、あなたたち過ぎ去りし流星たちが演じたSNOW WHITEを……」


李梨奈の表情が、再びかすかに曇った。


しかし翼は夢中で話し続けていた。


「あの伝説の雪叢さんに会えるなんて……私、ついてる!!」


目に見えて嬉しそうな翼の姿を見て、李梨奈は思わず優しい微笑みを浮かべた。


「翼ちゃん……もし、もしSNOW WHITEをやりたいって夢が叶ったら……その後はどうするの?」


「え?」


突然、翼のスマホが明るく鳴り響いた。


「あ……ごめんなさい!」


翼は慌てて電話に出た。


「もしもし……あ、兄さん。ごめんなさい今、帰ります!」


電話を切ると、翼は李梨奈に向かって深く頭を下げた。


「すいません、私、そろそろ帰りますね」


「うん、気をつけてね」


「雪叢さん……私、頑張ります!!」


翼はそう言い残し、赤いリボンを揺らしながら夜の道を走って帰っていった。


李梨奈はベンチに座ったまま、遠ざかっていく小さな背中を静かに見つめていた。


そのとき、彼女は翼が電話に出る直前にチラッと見えたスマホの画面を、はっきりと覚えていた。


飛彩怜人。


李梨奈は小さく息を吐き、独り言のように呟いた。


「飛彩……翼か……」


夜風が、金色の長い髪を優しく揺らした。


(まさか、あの子があなたのところにいるとは思ってなかった……)



李梨奈はゆっくりと夜空を見上げた。


無数の星が、変わらず輝いている。


「久しぶり……翼」


その声は、誰にも届かない。


誰に向けた言葉なのか、李梨奈自身にも、はっきりとわからなかった。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。そして……





夢を叶える物語である。


第7話 完

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