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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第11章 「世界が動き出し、輪舞がはじまる」
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最終章 「少女たちのPRELUDE」第2話

繁華街の居酒屋は、大いに賑わっていた。


クリスマスイブということもあり、

店内は若者やサラリーマンたちで溢れ、

笑い声とグラスのぶつかる音が絶え間なく響いている。


暖簾の隙間から漏れるオレンジ色の灯りと、焼

き鳥の香ばしい煙が、夜の街に溶け込んでいた。


「ビールうまっ!」


ひなたがジョッキを傾けながら、満足げに言った。


「まさか私たちがこうやってお酒飲むことになるなんてね」


凛が焼き鳥を頰張りながら、くすっと笑う。


「フィーアって、こういう居酒屋に行くイメージあんまなかったんだけど」


「そう?意外といくわよ。たまにはこういう賑やかなところも悪くないでしょ」


3人とも、グラスを片手に懐かしい話に花を咲かせていた。


過ぎ去りし流星たち——かつて学院を、舞台を、

圧倒的な輝きで染め上げた彼女たち。


今はそれぞれの道を歩みながら、こうして集まる機会を大切にしている。


すると、壁掛けのテレビに流れたニュースが、

3人の視線を釘付けにした。


「――から今日で11年目になります」


店内の喧騒が、一瞬だけ遠のいたように感じられた。


「11年だってさ……なんかあっという間だったね」


凛がテレビを見つめながら、静かに呟いた。


「そうだね。あれがまた起こらないとも限らないってのも、また怖いとこだよね」


フィーアがグラスを少し傾け、遠い目をした。


「せめて、あの子達のSNOW WHITEが完成する間だけは何も起こらなければいいけど」


3人の間に、短い沈黙が落ちた。


誰もが、あの日のことを思い出していた。


燃える街、瓦礫の山、途中で中断せざるを得なかったSNOW WHITE。


自分たちが完成できなかった舞台——

それが、彼女たちにとって永遠の心残りだった。


「無理してやるって事も可能だったんだよね」


「出来はしたかもだけど、劇場も被害出てたし……」


「何よりあの時は日本全体も大変な時だったから、自粛は妥当よ」


「私も……やりたかったな……」


しばらく3人の間に、重い沈黙が流れた。


その沈黙を破るように、店員の明るい声が響いた。


「はい、からあげ舟盛お待ち!」


ドンとテーブルに置かれた大きな舟盛に、

ひなたの目が輝いた。


「美味そー!!」


フィーアがグラスを差し出し、明るく言った。


「あ、ハイボールおかわりお願いします」


3人はグラスを合わせ、軽く笑い合った。


過去の痛みは、まだ胸の奥に残っている。


でも今は、こうして笑って、飲みながら、

あの頃の夢を次の世代に託そうとしている。


クリスマスイブの夜。


過ぎ去りし流星たちは、 静かに、温かく、

次の星たちの輝きを願っていた。





理事長室には、デスクの小さなスタンドライトだけが、柔らかな橙色の光を落としていた。


ミリー・マーキスは窓際に立ち、

静かに夜空を眺めていた。


カーテンを少しだけ開けた窓の外には、

冬の澄んだ星々が瞬いている。


その光は遠く、冷たく、しかしどこか優しく彼女を見つめ返しているようだった。


「明日、あの子達の運命が動き出します」


流星を超える。それは百合々咲音楽学院の長年の目標であり、 ミリー自身にとっても、秘めた願いでもあった。


11年前のあの日。


流星たちをはじめ、百合々咲の生徒たち全員に、

エンドレスワルツの中止を宣言したときのことを、

ミリーは今でも鮮明に覚えている。


あの時の少女たちの目。


努力の結晶を、目前で奪われるような絶望と、

それでも必死に耐えようとする強がり。


ミリーの胸は、今思い出しても痛んだ。


少女たちの汗と涙と、幾夜も重ねた練習を知っていたから。


完成目前で舞台を奪われた無念を、

誰よりも深く理解していたから。


「……ごめんなさい」


ミリーは小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。


あの時の選択は正しかったのかもしれない。


しかし、心のどこかで、 「もう少しだけ、頑張らせてあげられたのではないか」という後悔が、

今も静かに燻り続けている。


星空を眺める瞳が、わずかに細められた。


「剣が導く……未来のために……」


それは、古くから伝わる言葉だった。

己の剣を信じて、未来へ進め…。


ミリーはゆっくりと目を閉じ、

静かに微笑んだ。


明日、翼をはじめとする第105代エーデルたちが、

あのステージに立つ。


未完に終わった伝説を、 自分たちの色で塗り替えようとする。


理事長室の灯りが、

ミリーの横顔を優しく照らしていた。


夜空の星々は、

まるで彼女の祈りを聞き届けるように、

静かに、静かに瞬いていた。





今日のゼロタイムの閉店後、

店内はいつものように静かだった。


カウンターの灯りを落とし、

椅子をすべて上げ終えた怜人と理央は、

カウンターに並んで腰を下ろしていた。


店内に残るコーヒーの香りと、

かすかに響く冷蔵庫の低い唸り音だけが、

夜の静けさを優しく包み込んでいる。


「明日、怜人行くんだろ?」


理央がグラスを片付けながら、気軽に声をかけた。


「あぁ、お前も行くんだろ?一緒に行くか?」


理央は少し考えながら、苦笑いを浮かべた。


「あー、でも行ったら絶対あいついるからな……」


「二柳ひなただろ」


怜人が微笑みながら言うと、理央は深く頷いた。


「あいつに会ったら絶対あいつのペースに持ってかれるからな……。こっちの事情なんてお構いなしなんだよな」


「いいじゃん、今でも仲良くて」


怜人がからかうように言うと、

理央は照れくさそうに頭を掻いた。


「雪叢李梨奈も明日来るんだろ?」


「……ああ」


怜人が少し黙り込んだ。


「お前は大丈夫なのか?」


怜人はカウンターに視線を落とし、

静かに息を吐いた。


グラスの縁を指で軽く撫でながら、

ゆっくりと答える。


「あぁ、翼も前に進むって決めたんだ。

兄貴の俺がずっと止まってたらダメだろ」


その言葉には、迷いと決意が静かに混じり合っていた。


理央は怜人の横顔をじっと見てから、

にやりと笑った。


「翼ちゃん、強くなったよな。お前も、ちゃんと兄貴してるじゃん」


怜人は小さく肩をすくめ、

照れ隠しのように笑った。


店内の薄暗い照明が、2人の影を長くカウンターに落としていた。


明日、大帝都劇場で繰り広げられる舞台

翼の、みんなの、運命の幕開け。


怜人は心の中で静かに誓った。


翼が自分の足で立とうとしているなら、

自分も、兄として、ちゃんと隣に立っていよう。






これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……







夢を叶える物語である。


第2話 完

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