表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
最終章「少女たちのPRELUDE」
PR
73/73

最終章 「少女たちのPRELUDE」第3話

翼の部屋に、柔らかな朝日が静かに差し込んでいた。


ベッドからゆっくりと起き上がった翼は、

壁にかかった制服に視線を落とした。


黒を基調としたブレザー、青いリボン。


今日のために何度も整えてきたその姿が、

朝の光の中で凛と輝いている。


「……いよいよだね」


小さく呟きながら、翼は深く息を吸った。


胸の奥で、緊張と期待が静かに渦を巻いている。


キッチンからは、

珈琲の香ばしい香りが漂っていた。


「兄さん」


翼が小さな声で怜人を呼ぶと、

カップを手にした怜人が振り返った。


「どうしたの?」


翼はそっと近づき、怜人の耳元で何かを囁いた。


「……え?」


一瞬きょとんとした怜人だったが、

翼の真剣で優しい微笑みを見て、静かに頷いた。


「うん。わかった、伝えておくよ」


その背中には、もう迷いの表情はなかった。

兄として、翼の想いを確かに受け止めた、穏やかで強い横顔だった。




「おはよ〜、翼!」


元気よく声をかけたのは、二乃だった。

劇場近くの並木道で、仲間たちが翼を待っていた。


「おはよう、二乃」


「いよいよだね……エンドレスワルツ」


「うん……」


「もしかして、緊張してる?」


「……してる。フラウ・ヒンメルのオーディションより、ずっと」


翼の素直な言葉に、二乃はふっと笑った。


そこへ、砂月が優雅に加わる。


「二乃さんはあまり緊張しているようには見えませんわね」


「さっちゃん、おはよ〜」


砂月の後ろから、八重が姿を現した。


「二乃に関しては、いつものことだろう」


「八重さん……」


「大丈夫。舞台に立つのは、翼1人じゃない」


最後に姿を見せたのは哪吒だった。


「みんなで創る舞台だ。気負いすぎず、皆で創り上げればいい」


「……みんな……」


翼が皆のもとへ一歩踏み出そうとした、

その時だった。


「ごめん、先に行ってもらえる?」


「え?」


「SNOW WHITEをやるにあたって、最後に会っておきたい人がいるの」


心配そうに翼を見つめる仲間たちに向かって、

翼は静かに微笑んだ。


「心配しないで、舞台で待ってて」


「うん!舞台で待ってる!」


二乃は明るく笑顔で答えた。


仲間たちを残し、翼は朝の風を切って走り出した。


朝陽が、彼女の背中を優しく照らしていた。





静かな公園。


李梨奈と出会い、本来の自分を知ったあの場所。


いつものベンチには人影はなかったが……

翼にははっきり見えていた。


ベンチの端に、淡い金色の長い髪を風に揺らした少女が、静かに座っている。


破れた白いワンピース、汚れた裸足、

そして光のない瞳。



ツバサ——翼の“心の写し鏡”。



「やっぱりここにいた。」


翼が静かに声をかけると、

ツバサはゆっくりと顔を上げた。


「答えは出た?」


「……李梨奈さん。お姉ちゃんや両親が私を捨てたっていう事実は、どう足掻いても変わらない。でも、それを受け入れるしかない。」


「受け入れるんだ……?」


「うん。でも、お姉ちゃんがしたのは悪いことばかりじゃなかった。私を舞台へと導いてくれた。それがなければ、今の私は存在しない。……私は、お姉ちゃんの“全部”を受け入れる。」


「……綺麗事だよ、そんなの。」


ツバサの声は冷たく、嘲るように響いた。


「そうかもしれない。でも、私だって綺麗な部分だけじゃない。汚い感情も、黒い思いも、ぜんぶ私の中にある。だから、向き合うしかない。自分自身と。」


翼は穏やかに微笑んだ。


「ありがとう、ツバサ。あなたがいたから、私はここまで来れた。」


ツバサは黙って聞いていた。


その光のない瞳が、わずかに揺れる。


「私の考えてること、思ってることわかるよね……」


「当然……あなたは私なんだから……」


ツバサも、ゆっくりと微笑み返した。


そして、2人の手が重なる。


その瞬間、ツバサの姿は静かに溶けるように消えていった。


翼は自分の胸に手を当て、空を見上げた。


「約束するよ。いつかきっと、私が描いた未来を見せる。」


空は雲ひとつなく澄みきっていた。


朝の光が、木々の葉を透かして柔らかく降り注ぐ。


風が優しく翼の頰を撫で、

遠くで小鳥のさえずりが聞こえてくる。


翼はゆっくりと息を吸い、

胸いっぱいに朝の空気を満たした。


これから始まる本番の舞台。


すべてを背負って、それでも前へ進む。


自分の名前を、自分の意志で選び取った少女は、

静かに、けれど確かな足取りで歩き出した。


公園のベンチに、

一筋の朝陽が、温かく落ちていた。





大帝都劇場は、久しぶりのSNOW WHITEということで、開演前から熱気と興奮に満ちていた。


ロビーから続く観客席は、卒業生の面々、在校生の家族、そして外部の観客でごった返していた。


華やかなドレスを着た女性たち、緊張した面持ちの生徒の家族、遠方から足を運んだ演劇ファン——

皆の視線が、幕が上がるのを今か今かと待ちわびている。







これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……







夢を叶える物語である。


第3話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ