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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
最終章「少女たちのPRELUDE」
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最終章 「少女たちのPRELUDE」第1話

翼は人気のない夜道を、ゆっくりと歩いていた。


足が自然と向かったのは、あの場所——

李梨奈と語らった、思い出の公園だった。


街灯に照らされたベンチ。

風でわずかに揺れる草の音。


あの日、李梨奈が立っていた木の下には、

今は誰の姿もない。


「……いない、か」


小さく呟いて、翼はベンチに腰を下ろした。

重力に引かれるように全身が沈み、肩が静かに落ちる。


空を見上げると、黒い空の中にぽつぽつと星が瞬いていた。


それはあまりにも静かで、嘘のように穏やかだった。


——最終リハーサルは、全力だった。


誰よりも走って、踊って、演じて、声を張って、

最後までやりきった。 みんな本気だった。


二乃も、八重も、砂月も、哪吒も。


そして、舞台創造科のみんなも。


みんな、過ぎ去りし流星たちを越えようと、全力だった。


「……ねぇ、お姉ちゃん」


李梨奈はどこにもいないのに、そう口にしていた。


それは願いに近い、祈りのような言葉だった。


「私ね、ちゃんと“飛彩翼”としてステージに立てると思う。 “雪叢翼”じゃなくても、“白雪姫”になれると思うんだ」


遠くから、風の音が届く。


星はただ静かに、黙って光っていた。


「でも……できれば、観ててほしい。

私が、あのステージで、“生きてる”ってこと」


誰もいない夜の公園。


その中で、翼はまっすぐに空を見つめていた。


あの空のどこかに、届くように。


「ありがとう。私を、舞台に導いてくれて」


言葉を紡ぐたび、胸の奥が熱くなった。


涙がにじみそうになるのを、

翼はそっと指で拭った。


ここまで来られた。


傷ついて、迷って、泣いて、

それでも前に進もうとした。


すべては、この舞台のためだった。


明日が来る。


舞台という、世界にたったひとつの“奇跡”の日が。


翼はゆっくりと立ち上がり、

夜の公園を後にした。


足取りは、もう迷いがない。


自分の名前を、自分の意志で選び取った者の、

確かな1歩だった。


星空の下、 小さな白雪姫は、

静かに、けれど確かに、

自分の物語の幕を開けようとしていた。




大帝都劇場の観客席は、照明を落とした薄暗がりに包まれていた。


李梨奈は最前列の中央、かつて自分が立っていたステージを静かに見つめていた。


数十年前のエンドレスワルツで、

自分が白雪姫として輝いていたあの場所。


百合々咲の最高傑作と謳われた舞台。


自分たちが『過ぎ去りし流星たち』と呼ばれる所以となった、あの伝説の舞台。


明日、そこに翼が立つ。


私たちを超えるために——。


李梨奈の胸の奥で、複雑な感情が静かに渦を巻いていた。


懐かしさ、痛み、そして——かすかな希望。


「関係者以外立ち入り禁止ですよ」


背後から穏やかな声が響いた。


李梨奈が振り返ると、そこに妹蘭が立っていた。


長身で凛とした佇まい、静かな威厳をまとった

元・フラウ・ヴァッサー。


「妹蘭」


「いよいよ明日ですね。エンドレスワルツ」


「表向きは学園祭。でも実際は、私たちを超えるための舞台を公演する日」


妹蘭は小さく頷き、李梨奈の隣に腰を下ろした。


「無事に開催されるといいですね」


2人はしばらく無言で、暗いステージを見つめた。


今でも忘れない。



記憶の片隅にある、燃える街と瓦礫の山。

あの日、すべてを奪った出来事。



あれがなければ……。



「今更悔やんでも過去は変わらない」


「そうですね」


李梨奈はまっすぐに舞台を見つめ、

ゆっくりと息を吐いた。


「妹蘭……相談があるんだけど」


「李梨奈さんが相談とは珍しいですね」


李梨奈はわずかに微笑み、

しかし真剣な眼差しで妹蘭を見つめた。


「私も……もう一度、舞台に立ちたい」


その言葉は、劇場の静寂の中に、静かに、

しかし確かに落ちた。


妹蘭は少し驚いたように目を細め、

それから優しく微笑んだ。


李梨奈の瞳には、

これまで封じ込めていた想いが、

静かな炎のように灯っていた。


明日、翼が白雪姫として立つ舞台。


その舞台に、自分も——

もう一度、足を踏み入れたい。


大帝都劇場の天井に広がる星空の装飾が、

2人の想いを静かに見守るように輝いていた。






これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……






夢を叶える物語である。


第1話 完

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