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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第11章 「世界が動き出し、輪舞がはじまる」
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第11章 「世界が動き出し、輪舞がはじまる」第6話

数日後、最終リハーサルを迎える大帝都劇場のステージには、まるで戦場のような静けさが広がっていた。


前列には——翼、二乃、八重、砂月、哪吒。

誇り高き“エーデル”たち。


そしてその後ろに並ぶアンサンブルも、

アンダーも、裏方も——


全員が一つの舞台に、心のすべてを賭けていた。


緊張と決意が混じる空気を、鋭く貫いたのは、

あの低く、よく通る声だった。


「——今日が、SNOW WHITE最終練習日だ」


ロゼ・アディンは舞台を見ずともすべてを見通すような鋭い眼光で、 列に並ぶ生徒たちを貫いていた。


「この数ヵ月、お前たちは変わった」


静かに、しかし確かな肯定が与えられる。


誰もが思わず背筋を正した。


「だが——観客が見るのは、本番一度きりの舞台。

どんな過程も、努力も、結果に含まれない。

評価されるのは“その一瞬”だけだ」


張り詰める空気に、誰もが息を飲んだ。


「最後まで、気を抜くな」


短く、鋭く、心に刻まれる一言。


ロゼが、ゆっくりと手にしていたタブレットを開いた。


「最初から。何回もやる。時間が許す限り、通せるだけ何度でも通す」


「用意は——20分で済ませろ」


その瞬間、空気が弾けた。


「はい!!」


生徒たちの声が、力強く響き渡る。

その後ろで、生徒たちの動きが一斉に走り出した。


舞台チームは道具の最終確認に走り、

照明班が持ち場へ駆け、

音響班はステージ下のブースに飛び込んだ。


衣装係が控室へ急ぎ、アンサンブル アンダーが自分の立ち位置へ。


すべてが、1つの舞台のために、

息を合わせて動き出していた。


そして翼は、その中心に立っていた。


汗も涙も、迷いも全部引き受けて。

“飛彩翼”として、“雪叢翼”として


そして、白雪姫として。


この舞台に、今。

すべての魂が集まっていく。


翼は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


胸の奥で、熱いものが静かに燃えていた。


周囲の仲間たちの視線を感じながら、

彼女は静かに微笑んだ。


ここまで来られた。

みんなと共に。


ロゼの声が、再び響く。


「——始めろ」


その瞬間、劇場の照明が一斉に落ち、

そして再び輝き始めた。


SNOW WHITEの最終リハーサルが、

静かに、しかし確かに幕を開けた。





砂月が屋敷に帰宅してきた。


車から降りた瞬間、

いつもと何か違う違和感を感じた。


空気の重さ、静けさ、微かな緊張——


長年住み慣れたこの屋敷が、今日は少しだけ違う空気を帯びているように思えた。


「どうかなされましたか?」


メイドが心配そうに声をかけてきた。


「あなた、鞄を私の部屋に持って行ってください」


砂月はメイドに鞄を預け、静かに屋敷の中へ入った。


そして、向かった先は——


当主である、父・源助の書斎。


重厚な扉をノックし、静かに開ける。


そこには、父・源助がいた。


「おかえり。砂月」


「お父様……」


砂月の声が、わずかに震えた。

少し泣きそうになった。


父とは、もう何年も直接会っていなかった。


電話での事務的な会話だけが、時折届くだけだった。


「ふん、帰ってくるなら帰ってくると連絡するのが普通でなくて?」


「そうだな」


「なんで帰ってきたのですか?」


「宗介から連絡受けてな。砂月のSNOW WHITEを見たくてな」


砂月の口元が、ゆっくりと緩んだ。


「いいですわ。昔の私と一緒と思わないでくださいね」


その言葉には、静かな自信と、

わずかな挑戦的な響きがあった。


源助は椅子に深く腰を下ろしたまま、

娘をじっと見つめた。


その視線は、厳しくもあり、

どこか懐かしくもあった。


書斎の窓から差し込む夕陽が、

父と娘の間に柔らかな光を落とす。


砂月は父の視線を受け止めながら、

心の中で静かに誓っていた。


私はもう、ただの「プリベンターの娘」ではない。

私は、香取砂月として自分の足で、舞台に立とうとしている。


父の帰国は、

砂月にとって、予想外の、

そして大切な贈り物のように感じられた。




夕暮れの百合々咲音楽学院の屋上は、

橙色の光に静かに染まっていた。


哪吒は手すりに寄りかかり、

沈みゆく夕陽を見つめていた。


強さを求めていた自分を変えてくれたのは、

この学院のみんな、そして妹蘭との出会いだった。


1人で頂点に立とうとしていたあの頃とは、もう違う。


水のように流れる強さ、みんなと共に在る強さを、少しずつ知り始めていた。


「哪吒」


振り返ると、凛がゆっくりと歩いてきた。


凛は哪吒の隣に並び、同じく手すりに寄りかかり、遠い空を見上げた。


「お互いSNOW WHITEに消極的だったのによくここまで来たな」


「そうだな……SNOW WHITEを演じると言うことは、過ぎ去りし流星たちを超えると同義だ」


2人はしばらく無言で、沈みゆく太陽を見つめた。


「飛彩がエーデルになってから、色々変わった気がするよ」


「確かに」


翼がエーデルになったその日に決まったSNOW WHITEの公演。


これは運命なのか、それとも必然なのか。


風が2人の間を優しく通り抜け、

校舎の屋上に2人の影を長く伸ばしていた。


「八重、本番ドジ踏むなよ」


「お前もな、哪吒」


軽い言葉に、互いの口元がわずかに緩む。


凛はふっと笑い、哪吒の肩を軽く叩いた。


「まあ、結局はみんなでやる舞台だ。 1人で抱え込まなくていいって、ようやく分かったよ」


哪吒は小さく頷いた。


「私も……変われた」


夕陽が地平線に沈みゆく中、

2人の視線の先には、明日へと続く舞台があった。


かつての伝説を超えようとする者たちと、

その伝説を背負いながらも前へ進もうとする者たち。


屋上の風は、2人の想いを静かに運んでいった。





夕暮れの茜色が、空を優しく染め上げていた。


百合々咲音楽学院からの帰り道を、二乃と翼は並んで歩いていた。


「いや〜最終リハーサルも厳しかったね」


二乃が大きく伸びをしながら、明るく言った。


その声には疲れも残っていたが、

どこか晴れやかな響きがあった。


「やっとここまで来れたんだね」


隣を歩く翼は、少し遠くを見つめるような表情をしていた。


淡い金色のポニーテールが、

夕風にそっと揺れている。


二乃は翼の横顔を、優しく見つめていた。


あのSNOW WHITEが大好きだった少女が、

どこか一皮むけたように見えた。


迷いも、傷も、全部抱えながら、

それでも前を向こうとしている。


そんな翼の姿が、二乃には誇らしく、

愛おしく感じられた。


「翼……もしかして……彼氏できた?」


「な、なんでそうなるの??」


翼が慌てて顔を赤らめると、

二乃はくすくすと笑った。


「冗談だよ。ちょっと揶揄ってみただけだよ」


夕暮れの道に、二乃の笑い声が軽やかに響く。


「ねぇ、翼覚えてる?」


「ん?」


「SNOW WHITEの練習が始まったあの日、ロゼさんにボロカス言われたあの日。 こうやって一緒に帰った日のこと」


翼もしっかり覚えていた。

まるで昨日のことのように鮮明に。


「あれから私たち変われたよね。前に進めたよね」


翼は静かに空を見上げた。


夕焼けの空が、ゆっくりと深い藍色に変わり始めている。


「うん、変われたよ。何も知らなかったあの日から。 逃げずに前に進むって決めたから変われたよ」


「そうだよね!」


二乃の声は明るく、力強かった。


(人は変われるんだよ。私も変われたからあなたも変われるよ……ツバサ)


翼の胸の奥で、その想いが静かに響いた。


ツバサの冷たい声が、まだ時折耳に残る。


でも今は、その声に怯えるだけではなく、

静かに、向き合おうとしていた。


2人は並んで歩き続ける。


夕暮れの風が、2人の髪を優しく揺らし、

これまで歩んできた道と、これから歩む道を、

静かに照らしていた。


SNOW WHITEの本番は、もうすぐそこまで来ていた。


そして、2人は——

自分たちの物語を、確かに自分の手で創り上げようとしていた。






これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……






夢を叶える物語である。


第11章 「世界が動き出し、輪舞がはじまる」完

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