第11章 「世界が動き出し、輪舞がはじまる」第1話
翼が戻ってから、数日が経った。
再び始まった稽古は、思っていた以上に厳しかった。
息を切らせる間もなく飛び交う指示。
止まらない動き。交錯する視線。
ロゼ・アディンの演出の下で、舞台は日ごとに洗練され、劇場そのものが息づいているかのように感じられた。
翼は息を整えながら、ふと周囲に目をやる。
ダンスラインの端で、アンダーキャストの子が寸分違わぬタイミングでステップを踏む。
エキストラの少女たちでさえ、
感情のこもった演技を全身から発している。
(……すごい。こんなに皆、実力があったんだ)
思わず唇を噛みしめる。
百合々咲は全員レベルが高いと思っていたが、
翼たちがいなかったこの数日間で、何段階もレベルは上がっている。
それはロゼの指導の賜物だった。
少しでも気を抜けば、あっという間に追い抜かされる。
エーデルという肩書きは、もはや“誇り”ではなく“覚悟”で守るべき場所だった。
けれど——
翼の表情は、曇らなかった。
むしろ、その瞳は以前より強い光を宿していた。
「……“楽しく演じる”だけじゃ足りない!」
かつての自分は、憧れに手を伸ばしていた。
ただ、キラキラしたステージが好きで、その中心に立ちたいと思っていた。
でも——今の自分は違う。
自分の“居場所”を探すため。
“飛彩翼”として、そして“雪叢翼”として。
どちらが本当の自分か、答えを見つけるために。
舞台の上でしか、自分を知ることはできない。
演技中、ツバサの声が耳に残る。
(……そこまでして、何になるの?)
その問いに——今ならはっきり答えられる。
(わたしは、“わたし”になる)
舞台に立ち、セリフを紡ぎ、誰かと心を重ねる。
その一歩一歩が、翼にとっては自分自身を取り戻す“儀式”のようだった。
誰にも負けない。
過去の自分にも、今の不安にも。
白雪姫は、ただ“誰かに助けられる”だけの存在じゃない。
自分で、自分の人生を選ぶ物語——
そんな風に、翼は少しずつその役を、
生き始めていた。
ロゼの指示が飛ぶ中、
翼の動きは、以前より確かさを増していた。
ただ技術を追うのではなく、
自分の想いを、役に溶かし込もうとするように。
汗が額を伝い、息が荒くなる。
それでも、翼の瞳は決して曇らなかった。
稽古の合間、二乃がそっと近づいてきた。
「翼、頑張ってるね」
「……うん。私、ちゃんとやりたい」
その声は小さかったが、
確かに力強かった。
レッスン室の窓から差し込む夕陽が、
翼の姿を、静かに、しかし確かに照らしていた。
彼女はもう、
誰かに憧れるだけの少女ではなかった。
自分の名前を、自分の足で、自分の心で選び取ろうとする、1人の“白雪姫”として——
舞台の上で、ゆっくりと、
翼は生まれ変わろうとしていた。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
夢を叶える物語である。
第1話 完




