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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第10章 「少女は片翼でも空へ行く」
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第10章 「少女は片翼でも空へ行く」 第7話

静かな朝。カーテン越しに柔らかな陽が差し込む。


その光の中、久しぶりに翼は制服に袖を通した。


淡い金色の髪を丁寧に梳き、

赤いリボンをきゅっと結ぶ。


鏡の前に立ち、自分の姿をじっと見つめる。


それだけの動作に、少しだけ背筋が伸びた気がした。


ふと視線をやれば、机の上には——

長い間、開かれずに置かれていた1冊の台本。



『SNOW WHITE』



「……ごめん、待たせたね」


静かに手を伸ばし、それを鞄に入れる。


まるで——ずっと遠ざけていた“舞台”という場所を、自分からもう一度、手に掴むかのように。


翼は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


胸の奥に、まだ小さな棘のような痛みは残っている。


でも、今はそれと向き合いながら、

一歩を踏み出そうと決めていた。


「いってきます!」


その声は、どこか晴れやかだった。


怜人はカウンターの奥から、静かに微笑んだ。


「……ああ、行ってらっしゃい」


その“日常”の言葉が、何より嬉しかった。


扉が閉まり、静かな朝の店に再び光が満ちる。


翼の小さな背中が、朝の陽光の中に溶けていく。


怜人はその姿を、窓越しにしばらく見つめていた。


胸の奥で、複雑な想いが静かに渦を巻く。

李梨奈の存在。

翼に明かした真実。

そして、これから彼女が歩む道。


それでも、怜人は信じていた。


翼は、きっと自分の足で、

自分の名前で、自分の舞台を創っていくと……。





静まり返ったレッスン室に、扉が開く音が響いた。


皆が一斉に振り返る。


そこに立っていたのは——

制服姿の、翼だった。


一瞬、誰も言葉を発さなかった。


照明の柔らかな光が、

翼の小さな身体を優しく包み込んでいる。


淡い金色のポニーテールに結ばれた赤いリボンが、

わずかに震えるように見えた。


けれど、それは責めるための沈黙ではなかった。


それは——“待っていた”者たちの、

静かな歓迎の沈黙だった。


「……戻ってきたんだな」


ロゼ・アディンが、演出席からゆっくりと立ち上がり、翼の前に立った。


その視線は、いつものように鋭く、

しかしどこか温かみを含んでいた。


「はい」


翼は小さく、しかしはっきりと頷いた。


その瞳には、迷いと決意が静かに混じり合っていた。


「お前はこの舞台に、何を求める?」


その声は、演出家ではなく、1人の“指導者”としての問いだった。


厳しく、けれど真摯に、

翼の心の奥底まで見透かそうとする声。


翼は一瞬だけ目を伏せ、

そしてゆっくりと顔を上げた。


「私は……答えを求めます。

自分が誰なのか。何をして、何をすべきか。

その答えは……舞台でしか見つけられないから。」


ロゼの瞳が少しだけ細くなる。


それは——認める者にだけ向けられる、

静かなまなざしだった。


「白雪姫のアンダーは誰だ?」


「はいっ!私です!」


アンダーキャストのひとりが、

すかさず手を挙げた。


ロゼはそれに頷き、淡々と続ける。


「不在だった間の動き、セリフ、すべて教えてやれ。飛彩、3分で覚えろ」


「はい。……ん?3分?」


翼が思わず聞き返すと、

二乃がくすりと笑った。


「私たちも3分だったよ〜」


「エーデルなのだから、それが当たり前だ」


哪吒が真顔で言うと、


「さ、先輩。やりましょ」


アンダーの子がすっと翼の前に立ち、

付箋だらけの台本を差し出した。


誰も責めない。

誰も否定しない。


ただ、信じて迎える。


この日、百合々咲に“世界(エーデル)”が再集結した。


翼は台本を受け取り、

仲間たちの視線を感じながら、

静かに、けれど確かに微笑んだ。


失われた時間を取り戻すように、

5人のエーデルと、多くの生徒たちの想いが、

ひとつの舞台に向かって動き出した。





これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……









夢を叶える物語である。


第10章 「少女は片翼でも空へ行く」 完

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