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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第10章 「少女は片翼でも空へ行く」
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第10章 「少女は片翼でも空へ行く」 第5話

街の喧騒から少し離れた住宅街の外れ、

人気のない小さな公園。


ベンチに腰をかける翼は、夜空を見上げていた。


薄雲の間に覗く星々は、淡く瞬いていたが、

彼女の瞳にその輝きは映っていなかった。


心はまだ、激しく揺れていた。


名前も、家族も、記憶さえも、

すべてがぼやけて見える。


自分が誰なのか、どこから来たのか——

その問いが、胸の奥で静かに疼き続けていた。


その時——


「突然連絡してきてどうしたの?」


少し息を弾ませながら、

雪叢李梨奈が姿を現した。


同じ血を引くはずの“姉”は、

いつものように落ち着いた瞳で翼を見つめていた。


金色の長い髪が、夜風にそっと揺れている。


翼は視線を戻さなかった。

ただ、絞り出すように声を出す。


「……わたし、李梨奈さんに……ちゃんと、話がしたくて……」


その距離はまだある。

でも、翼の声には確かな“決意”が滲んでいた。




公園の手前、街灯に照らされる細い道を、

帰宅中の理央が歩いていた。


ふと視界の端に、見覚えのある後ろ姿を見つける。


「翼ちゃん……?」


すぐ隣には、大人びた女性の姿。

一目で気づいた。“雪叢李梨奈”。


理央の眉が跳ね上がる。


「……マジかよ……!」


すぐにスマホを取り出し、手早くメッセージを打つ。




>【至急】

>翼ちゃんが雪叢李梨奈と一緒にいる。

>公園。今すぐ来て。




鳴り響いたスマホのバイブに、

怜人はすぐ反応した。


画面に浮かぶ差出人は——理央。


通知を確認するなり、怜人の顔色が変わる。


スマホをポケットに押し込み、

グラスもタオルも放り出したまま、

店を飛び出していく。


夜のゼロタイムのドアが、

激しく開閉する音が響いた。


怜人の足音が、暗い道に激しく響く。


胸の奥で、様々な想いが渦を巻いていた。


翼……

今、どんな顔をしているのだろう。


李梨奈と、どんな話をしているのだろう。


夜風が冷たく頰を切り、

怜人の影が街灯の下を長く伸びていた。




夜風が静かに木々を揺らしている。


街の灯が遠くに滲む中、公園の一角だけが、

時間から切り離されたような静寂に包まれていた。


ベンチの前に立つ翼は、

その小さな手を強く握りしめながら、

真正面の李梨奈を見つめていた。


指先が白くなるほど力を込め、

震えを抑えようとするように。


李梨奈は、微動だにせず、

まっすぐその視線を受け止めている。


金色の長い髪が夜風にそっと揺れ、

青い瞳は穏やかでありながら、

底知れぬ深さを湛えていた。


しばらくの、息苦しい沈黙。


そして——翼が小さく、

けれど震えない声で言った。


「……この前、兄さんと……飛彩怜人と会っていましたよね?」


李梨奈の表情が僅かに揺れた。

呼吸が、ほんの一拍だけ止まる。


「!」


それを見逃さず、翼はさらに踏み込んだ。


胸の奥で、長くずっと詰まっていたものを、

吐き出すように。


「ちゃんと教えてください。私は……飛彩翼なんですか? それとも……雪叢翼なんですか?」


風が、木の葉を優しく揺らす。


遠くで虫の声が響く——

でも、2人の間には完全な静寂が降りていた。


李梨奈は口を開きかけて、目を伏せる。


細い指が、そっと自分の腕を掴む。


そして、ゆっくりと瞳を翼に向け直す。


その瞳の奥には、痛みと、悔いと、

そして確かな“想い”が滲んでいた。


翼は息を潜め、

その言葉を、一言も聞き逃さないように、

全身で受け止めようとしていた。



夜風が、公園の木々を静かに揺らしていた。


李梨奈は、言葉を失ったように黙っていた。


その瞳は、翼をまっすぐに見つめながらも、

深い痛みと、言い知れぬ葛藤を湛えていた。


翼はその沈黙を、真正面から見つめ続けた。

もう、誰の顔色もうかがわない——


この夜に、すべてを知ると決めたから。


そのときだった。


「——翼!」


夜の静寂を破る、切迫した声が公園に響いた。


振り返ると、街の方から2つの影が必死に走ってくる。


——怜人。そして、理央。


息を切らしながら近づく怜人の前に、

翼が一歩、李梨奈を庇うように立った。


「兄さん、私が呼んだの。 ちゃんと……知りたいから。」


その瞳には、もう怯えも戸惑いもなかった。


まっすぐに、真実と向き合う覚悟が、

静かに灯っていた。


「兄さんも、李梨奈さんも……もう隠さないでください。 ……本当のことを教えてください。」


誰も、すぐには口を開けなかった。


公園を吹き抜ける夜風が、

4人の間をすり抜けていく。


街灯の淡い光が、静かに揺れた。


李梨奈の指が、わずかに震えていた。


怜人は息を整えながら、翼の小さな背中を見つめ、

理央は少し離れたところで、ただ黙って成り行きを見守っていた。


そして——






ついに、過去という名の扉が開こうとしていた。


李梨奈はゆっくりと息を吸い、

怜人は拳を固く握り、

理央は静かに息を止めた。


月明かりの下、

4人の影が長く伸び、

運命の糸が、今、静かにほどけ始めようとしていた。







これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……









夢を叶える物語である。


第6話 完

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