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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第10章 「少女は片翼でも空へ行く」
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第10章 「少女は片翼でも空へ行く」 第4話

翌日の営業終了後。


ゼロタイムの店内は、いつものように静けさに包まれていた。


椅子が上げられ、カウンターの照明が柔らかく残る中、怜人が理央と高虎に向かって静かに切り出した。


「理央、高虎……」


「ん?」


「翼に話したよ……リリィのこと」


理央の手が、グラスを拭く動作の途中で止まった。


カウンターに座っていた高虎が、

ゆっくりと顔を上げた。


「……そうか」


理央は一言だけ呟くと、再びグラスを磨き始めた。


その動きはいつもより少し遅く、

どこか重たげだった。


高虎カウンターに両手をつき、静かに続けた。


「本人は大丈夫なのか?」


「分からない。でも、もう隠せなくなって……」


店内に短い沈黙が落ちた。


怜人は小さく息を吐き、頭を下げた。


「ありがとな、2人とも」


理央と高虎が顔を見合わせる。


「実際の問題はここからだ」


高虎が低く言った。


「だね。本当の事知って翼ちゃんはどうなっちゃうのか」


翼は今日も部屋から出てこない。


怜人はカウンターの奥にある写真立てに視線を落とした。


幼い翼と自分の笑顔が、そこに並んでいる。


「お前の妹は雪叢李梨奈と接触している。

今の状態で再び接触したとなったら今度はどうなるか」


高虎の言葉は重く、怜人の胸にのしかかった。


理央はグラスを棚に戻し、ため息をついた。


「翼ちゃん、学校のことも相当参ってるみたいだからな」


怜人は答えられず、ただ静かに目を伏せた。


夜のゼロタイムは、

3人の男たちの重い想いを、

静かに包み込んでいた。





翼の部屋の灯りは、まだ消えたままだった。


部屋の中には、月明かりだけがぼんやりと差し込んでいた。


カーテンの隙間から漏れるその淡い光が、

無数の影を壁に浮かび上がらせ、

静かな夜の気配を濃くしている。


ベッドの上で、翼はゆっくりと目を開けた。


——視線は天井ではなく、自分の手のひら。


何度も握りしめ、開いてきたその手。


舞台に立つたびに、夢を掴もうとしてきた手。


李梨奈さんに差し伸べられた手を、

自分もいつか握り返したいと願ってきた手。


だが今、それは妙に遠く、

まるで他人のもののように感じられた。


翼はゆっくりと身体を起こし、

ベッドサイドに置いていたスマホを手に取った。


画面をスライドし、登録された連絡先を迷いなく開く。


指先が、ある名前の上で止まる。


数秒だけ、ためらう。


心臓の音が、耳の奥で大きく鳴っていた。


そして——発信。


スマホのディスプレイが淡く光る。

呼び出し音が、部屋の静けさに静かに響く。


「……出て……くれるかな……」


誰に語りかけるでもない、か細い声。


やがて——


通話が繋がった。


翼は息を飲み、そっと口を開いた。


「……今、大丈夫ですか……?」


彼女の声は、夜の静けさに滲みながら、

少しだけ——ほんの少しだけ、確かに震えていた。


それは、誰かに縋る声ではなく、

誰かと繋がりたいと願う“人間らしい声”だった。


電話の向こうから、静かな息遣いが聞こえてくる。


「何をする気?」


ツバサの冷たい問いが、翼の胸に突き刺さるように響いた。


翼はスマホを握る手に力を込め、掠れた声で答えた。


「私は……せめて自分の目で見て。耳でちゃんと聞いてみたい……」


月明かりが、翼の小さな影を長く床に落としていた。


部屋の隅で、ツバサの影が静かに揺れる。


翼の瞳には、涙が浮かんでいたが、

その奥には、弱々しくも確かに灯る光があった。


真実を知りたい。

自分の名前を知りたい。


そして——

自分を捨てた人たちに、直接、問いかけたい。


夜のゼロタイムの2階で、

小さな少女は、震える指でスマホを握りしめ、

自分の運命に向き合おうとしていた。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……






夢を叶える物語である。


第4話 完

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