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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第9章「太正桜は運命の始まり」
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第9章 「太正桜は運命の始まり」第4話

夕暮れが近づき、百合々咲音楽学院の大レッスン室には、橙色の柔らかな光が差し込んでいた。


その光の中、今日も舞台の稽古は続いていた。


サブキャストたちが汗を拭い、アンダーキャストたちが息を整え、裏方たちが照明や大道具の最終調整に追われている。


しかし、そこには——


主役たちの姿が、まだなかった。


いつしか、生徒たちの中にざわめきが広がり始めていた。


「……エーデル、戻ってこないまま終わるのかな」


「舞台に穴開けたのは事実でしょ?」


「私たちのほうが、稽古してる時間は長いんだけどな……」


誰もが口には出さないが、

心の中には火がともっていた。


“舞台に立ちたい”——その思いは、

エーデルだけの特権ではない。


むしろ、今この教室にいる者たちこそが、

舞台に飢え、一瞬でも光の中心に立ちたいと、

静かに渇望していた。


そんな緊張と焦燥が入り混じる空気を、

突如として鋭く切り裂いた声があった。


「すいません、お待たせしました。」


寮から侑希が帰ってきた。

演出席に座ると、時間を確認する。


稽古開始の時間。


席を立ってレッスン室にいる全員に声をかけようとした。


「まだ、待て」


ロゼが止めた。


「はい?」


何かを待っていたようだった。


すると——



「……戻ってきたか」



それは演出席に腰かけていたロゼの、

低く抑えた呟きだった。


目を閉じていたはずの彼のまぶたがゆっくりと開かれ視線を上げた。


扉が、静かに開く。


差し込む逆光の中に立っていたのは、

4人の少女たち。



世界を構成する五大元素の名を冠した者たち。



『エーデル』




その名の重みを背負う者たち——




鎌田二乃、八重・バートン、香取砂月、

張哪吒だった。


その瞬間、教室の空気が一変した。


ざわめきは止み、

音がすべて吸い込まれたように、静まり返る。


4人は、ゆっくりとレッスン室に入ってきた。


夕陽の橙色が彼女たちの姿を、

まるで神話の登場人物のように照らし出している。


迷いも、傷も、きっとまだ胸の奥に残っている。


それでも、4人は確かにここに立っていた。


ロゼは腕を組み、静かに4人を見つめた。


その視線は、いつものように容赦ない。


しかし、どこか——満足げな光が、

わずかに宿っていた。


生徒たちの視線が、一斉に4人に集中する。


驚き、期待、不安、羨望。


様々な感情が、教室の空気を熱く震わせていた。


エーデル不在の穴は、確かに大きかった。


しかし今、その穴が、

再び埋められようとしていた。



「今日から、エーデルを交えてSNOW WHITEの練習を再開する」


ロゼが静かに告げた言葉に、

レッスン室全体が息を呑んだ。


「お前らエーデルがいない間、下の奴らには徹底的に仕込みを入れてやった。甘く見てると、その席すぐに引きずり下ろされるぞ」


誰かが唾を飲み込む音が、

教室に響いたようにさえ感じた。


だが、エーデルの誰1人として動じる様子はなかった。


「まあ、それはどなたに向かって言っているのかしら?」


砂月が、まるで貴族のように優雅な笑みを浮かべる。


「私たちは——誇り高きエーデル」


八重が口を開く。


その声は凛として、芯があった。


「誰よりも自由で、誰よりも強い」


二乃の声は澄んで、真っ直ぐだった。


「私たちは世界(エーデル)。誰1人欠けることは許されない」


哪吒が、凛とした声で言い切った。


それはただの虚勢ではない。


壊れた絆を自ら繋ぎ直し、

もう一度歩き出す覚悟を決めた者たちの声だった。


それを聞いていた生徒たちの表情が変わっていく。


最初は戸惑い、次に悔しさ、そしてやがて、

胸の奥から湧き上がるような闘志の光。


——それでも追いつきたい。


その瞬間、八重が一歩前に出て言った。


「でも、その前に」


と、振り返る。


「みんなにちゃんと謝らないとね」


と二乃が続ける。


「……皆、迷惑をかけた」


哪吒が短く、けれど誠実に言った。


4人は揃って深く頭を下げた。


最初は沈黙が流れたが、誰かがふと口を開いた。




「おかえりなさい」




ぽつりと零れたその声に、

次々と拍手と歓声が起こりはじめた。


教室全体が、少しずつ“帰還”を祝う優しさに包まれていく。


その中で、1人の生徒がまっすぐエーデルの前に出てきた。


凛とした顔で、彼女たちを見据える。


「私たちは、先輩達が思ってるより成長してます。

いつでもエーデルの座、もらいますよ?」


それは挑発ではなかった。


純粋な宣戦布告だった。


砂月は優雅に口元を綻ばせた。


「ふふ……私たち達の地位、奪えるものなら奪ってご覧なさい?」


そこにあったのは、

もはや“先輩と後輩”という枠ではなかった。


同じ夢を見て、同じ高みを目指す者同士。

——仲間であり、ライバル。


ロゼはそんな教室の空気に満足げに微笑み、

タブレットを開いた。


「——40ページ目からいく。全員、配置につけ」


その一言で、生徒たちは一斉に動き出す。

遅れはない。誰も迷っていなかった。


そして、二乃がふっと小さく呟く。


(……翼。みんな、舞台に戻ってきたよ。舞台で、待ってるからね)


その言葉はまだ姿を見せない“白雪姫”に向けて届けられた、確かな信頼と、静かな祈りだった。




——舞台の中心に、君が戻ってくるその日まで。





これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……






夢を叶える物語である。


第9章 「太正桜は運命の始まり」完

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