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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第8章「地上は全て誰かの舞台」
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第8章 「地上は全て誰かの舞台」 第3話

エーデルという地位は、贔屓でも七光でもなく、

自分自身で掴み取ったものだった。


あの頃夢見た人たち、

自分がようやく追いついたと思っていた。


しかし、実際はもっとすごい人たちだった。


歴代最高のエーデル——

『過ぎ去りし流星たち』。


あの方々が残してきた輝かしい功績に比べれば、

今まで自分が積み重ねてきたものは、

足元にも及ばなかった。


百合々咲で「プリベンターの総帥の娘」と呼ばれることは、だいぶ減った。


実力があればのし上がれるこの環境は、

砂月にとって都合が良かった。


しかし代わりに、

新たに得た『フラウ・ボーデン(地の君)』という称号が、 彼女を静かに苦しめ始めていた。


学院の顔として、

完璧であることを常に求められる。


自分の意思で、自分のために得たはずの称号が、

いつしか自分を縛る枷になっていた。


砂月は資料室で1人、

過去に自分が演じてきた演目の記録を見返していた。


1年生の春、第104代目エーデルになったあの日。


自分はエーデルになって、

嬉しそうにしていたのだろうか。


飛彩翼のような、

純粋でまっすぐな顔をしていたのだろうか。


でも、あの時は本当に楽しかったと思える。


二乃さん、八重さん、哪吒さん、そして……



結依さん。



他の追随を実力で黙らせてきた砂月にとって、

初めて「仲間」と言える人たちだった。


ただ、今はもう……。


「エーデルって何?」


脳裏に、二乃の声が響く。


その言葉の意味を、

砂月は深く考えたことがなかった。


「エーデルって、なんなんでしょうね……」


資料室の静かな灯りの下で、

砂月は古い記録をめくりながら、静かに呟いた。


ページをめくる指先が、わずかに止まる。


そこには、過去のエーデルたちの笑顔が写っていた。


輝き、誇り、そして自由——

あの頃の自分が憧れたものが、そこにあった。


今、自分が背負っている「フラウ・ボーデン」という名は、 本当に自分のものなのか。


砂月は資料を閉じ、

窓の外に広がる夜の学院を見つめた。


完璧を求められ、期待を背負い、

誰かの「娘」ではなく「エーデル」として生きる日々。


しかし、心のどこかで、

あの幼い頃に無邪気に舞台に立っていた自分が、

静かに問いかけ続けている気がした。




資料室のドアが静かに開いた。


砂月が顔を上げると、大きな段ボールを持った舞台創造学科1年の東納瑠々(とうのう るる)が、

息を少し弾ませて入ってきた。


瑠々が砂月に気づくと、軽く会釈をした。


「珍しいですね。ここ、俳優育成科の人があんまり来ない場所ですし」


「迎えが来るまでの暇つぶしですわ」


瑠々は資料室の奥へ荷物を運んでいくようだった。


「よいしょ……」


棚に段ボールを押し込みながら、

彼女は小さく息を吐いた。


「ひとつ、聞いていいかしら?」


「はい?」


「エーデルってどう思います?」


舞台創造学科はエーデルの称号とはほとんど無関係だ。


ましてやまだ1年の瑠々には、

エーデルという制度自体を深く理解しているとは思えなかった。


「そうですね……」


瑠々はしばらく考え込み、

言葉を探すようにゆっくりと口を開いた。


「正直、分からないです。私は役者じゃなくて裏方ですから」


それでも、彼女は真剣に考えながら続けた。


「エーデルである事は……今まで生きてきた証なのではないのでしょうか?」


「証?」


「エーデルはそう簡単に手に入るものじゃないと思うんです。今までの実績や実力、それこそ今までの人生や経験が形になったもの……。それがエーデルだと思います」


砂月は静かに瑠々の言葉を聞いた。


資料室の柔らかな照明が、

2人の間に淡い影を落とす。


瑠々の言葉は、素朴でありながら、

どこか真っすぐで、砂月の胸に静かに響いた。


「今までの人生が……形になったもの……」


砂月は小さく繰り返した。


自分はこれまで、

どれだけのものを積み重ねてきたのだろう。


実力で掴み取ったはずの称号が、

今はただの重い枷のように感じられる。


瑠々は段ボールを片付け終えると、

少し照れくさそうに笑った。


「私なんかまだ1年生ですし、偉そうなこと言ってすみません……」


「いいえ。ありがとう」


砂月は静かに礼を言い、窓の外に視線を移した。


資料室の静けさの中で、

瑠々の言葉が、砂月の心に小さな波紋を広げ続けていた。


「エーデルって……何なんでしょうね」


その問いかけは、誰にも聞こえないまま、

静かに資料室の空気に溶けていった。





これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……



夢を叶える物語である。


第3話 完

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