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第1章 「始まりの鐘は三度鳴る」 第4話

ついに、翼は最終選考の舞台に立っていた。


去年はここで終わった。


最終選考の照明の下、名前を呼ばれなかったあの瞬間、胸が張り裂けそうな悔しさを今でも鮮明に覚えている。


けれど今年は違う。


翼はそう信じていた。


この1年で積み重ねてきた努力が、ようやく実を結ぶような気がしていた。


しかし、今年の最終選考には、去年とは決定的に違う点があった。


審査員が、現役のエーデルたち自身によって行われるということだ。


自分たちと肩を並べ、学院の新たな「顔」となる存在を、


エーデル自らが選び、決定する。


その事実は、参加者たちに尋常ではない緊張感を与えていた。


慣れるはずなどない。


ただでさえ重い空気が、ステージ全体を重く圧迫していた。


広い最終選考会場。


観客席はなく、ただ厳しい視線だけが注がれる空間。


「まず、お前はこの振りをコピーしろ」


審査員席から静かに立ち上がったのは、哪吒だった。


彼女はステージ中央に進み出ると、一切の無駄を削ぎ落とした美しい動きでダンスの振り付けを披露した。


その動きは水のように優雅で、しなやかで、どこまでも流れるような柔らかさを持っていた。


まさに『フラウ・ヴァッサー(水の君)』の名に相応しい、完璧な舞いだった。


参加者たちは息を呑んでその動きを見つめた。


「次にお前は……」


哪吒は次の生徒を指名し、まったく別の振り付けをその場で即興で作り上げた。


さらに次の生徒には、また違う動きを。


彼女は参加者ひとりひとりに対して、異なる振り付けを与えていた。


しかも、その振りはそれぞれの生徒が最も苦手とする領域を、的確に突いたものばかりだった。


哪吒は、すべての参加者の過去のレッスン記録、得意分野、弱点を完全に頭に入れていた。


だからこそ、最終選考ではあえて「不得意」を突く。


即興で対応できる者だけが、本当のエーデルに相応しいと、彼女は考えていた。


審査員席でその様子を眺めていた二乃は、心の中で思わず顔をしかめた。


(うぁー……ナタちゃん、エグっ……)


二乃は学院内でダンス部門において最優秀の成績を誇る実力者だ。


だからこそ、哪吒が今披露している振り付けの異常な難しさが、痛いほどわかった。


リズムのズレ、体の軸の取り方、感情の乗せ方。

どれも一朝一夕でできるものではない。


しかも練習時間はほとんど与えられない。

即興で実演しなければならない。


翼にも、苦手とする振り付けが与えられた。


複雑な足捌きと、急激な方向転換を繰り返す動き。


普段の翼なら得意とする歌や表現力とは真逆の、

身体のバランスを極限まで要求されるダンスだった。


時間はほとんどない。


一度だけ哪吒が披露した動きを記憶し、

すぐにステージに上がって再現しなければならない。


他の参加者の中には、普段の実力をまったく発揮できない者もいた。


緊張と未知の振り付けに飲み込まれ、動きが固くなり、表情が強張る。


しかし、哪吒の瞳は冷たく、容赦なかった。


即興を求められるどんな状況でも、柔軟に対応できる者だけが、


この学院の頂点――エーデルの称号を掴む資格がある。


翼は深く息を吸い込んだ。


手のひらが汗でじっとりと湿っている。


心臓の音が耳の奥で大きく鳴っている。


去年ここで敗れた記憶が、一瞬だけ脳裏をよぎった。


(でも……今は違う)


翼はぎゅっと唇を噛み、ステージの中央に立った。


淡い金色のポニーテールが、照明の下で静かに揺れた。


赤いリボンが、彼女の決意のように鮮やかに映える。


哪吒の視線が、翼にまっすぐ向けられた。


「飛彩翼。始めろ」


その声は低く、しかし確かな試練の響きを帯びていた。


翼はゆっくりと目を閉じ、一瞬だけ心の中で誓った。


SNOW WHITEの舞台に立つために。


李梨奈に手を差し伸べられた。あの輝きを手しするために。


彼女は目を開け、哪吒が示した苦手な振りを、


今、この瞬間に、全力で自分のものにしようと動き始めた。


最終選考の空気は、ますます熱く、冷たく、張りつめていった。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……





夢を叶える物語である。


第4話 完

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