第1章 「始まりの鐘は三度鳴る」 第5話
最終選考オーディションが終了した後の会場は、さっきまでの張りつめた空気とは一変していた。
照明を落とした広い部屋に、静かな緊張と期待が残る中、現役のエーデル四人が円卓を囲んでいた。
机の上には、最終選考まで残った参加者たちの名簿と、審査記録が広げられている。
ページの端がわずかにめくれ、長い議論の跡を物語っていた。
先に口を開いたのは、八重だった。
「どう思う?最終まで残った子たち、なかなか良かったんじゃない」
彼女は穏やかな笑みを浮かべた。
「まぁ、多少の腕はありましたけど……エーデルには程遠いですわね」
砂月が、切れ長の瞳を細めて即座に返した。
言葉の端々に、いつもの皮肉と高い基準が混じっている。
「でも、最終まで残ってるだけあって、みんな本当に努力してきたのは伝わってきたよ」
二乃が、柔らかく明るい声で言葉を添えた。
彼女の笑顔は、厳しい審査の後でも変わらず温かかった。
砂月は軽く鼻で笑った。
「確かに……お上手でしたわ。小学生のお遊戯会程度には」
「砂月、それはさすがに言い過ぎよ」
八重が苦笑混じりに口を挟みむ。
「それにしても、哪吒さんは本当にすごいですわよね」
砂月が横目で哪吒を見ながら言った。
「審査のたびに、その場で即興でダンスの振り付けを変えていたじゃありませんの。あの難しさ……私たちでもかなり厳しいと思いますわ」
哪吒は腕を組み、静かに目を伏せていたが、きっぱりと言い放った。
「エーデルなのだから、当然だ」
その声は低く、感情をほとんど含まない。
八重が優しく微笑みながら尋ねた。
「で、哪吒はどう思ってる?」
彼女は前を見つめたまま、ゆっくりと答えた。
「結果こそが全てだ」
言葉に、迷いはなかった。
「結果を残せない者を選んでも意味がない。それが前任のフラウ・ヒンメルに足りなかったものだ。私たちには、覚悟と実力、そして結果が求められる」
「確かに……私たちは学院の『顔』みたいなものですから」
砂月は胸を張り、静かに続けた。
「選ばれたからには、それ相応の責任を持たなければなりませんわ」
部屋に短い沈黙が落ちた。
「……で、どうする?」
二乃が小さく息を吐きながら言った。
「結局、私たちが決めるんだよね? エーデルである私たちが、1人を選ぶ……」
八重が静かに頷いた。
「ええ。でも、もうは決まっているのだろう?」
砂月が、薄く微笑んだ。
「まだまだ粗削りなところはありましたけど……他の方よりは、伸びしろがありましたわ」
二乃の顔が明るくなった。
「私はずっと目をつけてたからね~。ずっと昔から近くで見てたし」
「二乃、それはただの幼馴染だからでしょ」
八重が苦笑混じりに口を挟むと、二乃は照れたように肩をすくめた。
「異論はなさそうですわね」
砂月が静かにまとめ、視線を哪吒に向けた。
「……決まりだな」
哪吒が短く言い、資料の束に目を落とした。
その資料の一番上に、丁寧にまとめられた1枚のファイルがあった。
誰よりも純粋に「空」を目指していた小さな少女。
4人の視線が、その名前と写真に揃う。
机の上に広がる名簿の中で、
新たな「空」を彩るべき ひとりの少女が、静かに選ばれようとしていた。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
夢を叶える物語である。
第5話 完




