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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第7章「心の火は更に熱を増す」
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第7章 「心の火はさらに熱を増す」 第2話

バンっ!!


灰皿が激しい音を立てて宙を舞い、

床に叩きつけられた。


ピリつく緊張が、狭い稽古場全体を包み込んだ。


「お前、今何やった?」


演出席に座る男が、

鋭い眼差しで八重を睨みつけた。


八重は恐怖で声が出なかった。


小さな身体が、震えていた。


「何やったかって聞いてんだよ!!」


男の声が、雷のように響く。


「あ、ありがとう……って言いました……」


八重の声はか細く、震えていた。


目には涙が溢れ、頰を伝い落ちそうになっていた。


「んな、セリフないよな? ないよな?」


男は八重に詰め寄り、圧をかけ続けた。


「な、ない……です……」


「勝手なことするな!」


鋭い声が、稽古場に冷たく響き渡った。


「台本どおりやれ。役者が脚本を越えようなんて、2万年早いんだよ」


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


誰も、八重を助けてはくれなかった。


劇団員たちは目を逸らし、

ただ黙って成り行きを見守るだけだった。


その日を境に、八重は変わった。


言われた通りの動きを、忠実に、

完璧にやるようになった。


自分が何かしたら、怒られる。


言われたことができればいい。


幼き八重は、そう思うようになった。


アドリブを入れること。


自分の感情を乗せること。


脚本を超えようとすること。


すべてが、怖くなった。


鏡の前で何度も練習する日々。


完璧に、正確に、隙なく。


「王子様」と呼ばれるようになるずっと前から、

八重は「完璧であること」を自分の盾にした。


あの灰皿が床に落ちた音は、

今も時折、八重の夢の中に響いてくる。


完璧を守れば、怒られない。


完璧を守れば、安心できる。


そう信じて、少女は自分の心を静かに閉ざしていった。




高校受験という現実問題に、

八重もようやく直面していた。


これまでの人生は、ほとんど舞台に費やしてきた。


普通科の高校に行くという選択肢は、

八重には最初からなかった。


しかし、自分では決められなかった。


自分は何がしたいのか。


「八重ちゃんはどこ行くの?」


昔、SNOW WHITEを一緒に見に行った友達は、

中学になっても仲が良かった。


「まだ決めてない。そっちは?」


「ほんとは百合々咲に行きたいんだけど……実績足りないからな」


「百合々咲?」


「うん? 一緒に行ったでしょ? SNOW WHITEの舞台やってたところだよ」


八重が昔、見に行った舞台。


そして、演者を目指すきっかけとなった、

あの煌びやかな舞台。


あの人になりたいと、夢見ていた。


「私は……百合々咲行けるかな……」


無意識に、八重は言葉にしていた。


今思っても、何故自分が言ったのか分からない。


隣にいた友達は少しびっくりした顔をしたが、

すぐに明るく笑った。


「いけるよ!八重ちゃんなら!!百合々咲の八重ちゃん、めっちゃ似合いそう!」


その言葉は、八重の胸に静かに響いた。


百合々咲音楽学院。


あの舞台を生み出した場所。


自分を変えてくれた、あの輝きの源。


幼い頃に観た『SNOW WHITE』の記憶が、

鮮やかに蘇る。


その輝きすべてが、

八重の心を今も捉え続けていた。


「百合々咲……」


八重は小さく呟いた。


友達は嬉しそうに手を握ってきた。


「私、応援する! 私も受験頑張るから!」


その瞬間、八重の胸に、

これまで感じたことのない、静かな決意が芽生えた。


完璧を追い求めてきた自分。


怖がって飛び込めなかった自分。


でも、あの舞台に、もう一度立ちたい。


あの光の中に、自分を置きたい。


夕陽が沈みゆく帰り道で、

八重は初めて、自分の未来を、

はっきりと見つめた気がした。





これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……





夢を叶える物語である。


第2話 完

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