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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第6章「水の様に澄んだ心で」
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第6章 「水の様に澄んだ心で」 第3話

百合々咲での日々は、

哪吒にとって刺激に満ちたものばかりだった。


周囲もまた、高みを目指す者たちばかり。


その中で、哪吒はすぐに頭角を現した。


留学生が少ないということもあるが、

哪吒は本物を見せつけた。


2、3年生でさえ無視できないほどのポテンシャルを、彼女は秘めていた。


そして1年生であるにもかかわらず、

学院の最高位の称号——エーデルのひとつ

『フラウ・ヴァッサー(水の君)』を得た。


強さの証明。


誰もが認める強さを、哪吒は手に入れた。


しかし、哪吒は満たされなかった。


「何が足りない?何かが……」


何が足りないのか、哪吒には分からなかった。


誰もいないレッスン室の鏡の前で、

哪吒は静かに立ち尽くしていた。


舞台創造科の荷物や機材が置かれている、

半分物置のような空間。


そこに哪吒はいた。


強さを求めてここまで来た。


強さとは……なんだ。


鏡に映る自分の姿は、完璧だった。

姿勢、呼吸、視線、すべてが磨き抜かれている。


中国で極めた武術の動きも、

百合々咲で学んだ演技の所作も、


隙なく融合していた。


それでも、心のどこかに空白があった。


幼い頃に観た輝き。


あの舞台の光は、

ただ技術だけでは届かない何かを持っていた。


それらは技術を超えた「何か」だった。


哪吒は鏡に向かって、ゆっくりと手を伸ばした。


指先が冷たいガラスに触れる。


「私は……まだ、あの光に届いていない」


強さを追い求めてきた道のり。


父に授けられた名にふさわしくあろうとした日々。


しかし、今の自分は、本当に「強い」のか。


レッスン室の薄暗い照明が、

哪吒の影を長く床に落としていた。


彼女は静かに目を閉じ、心の中で問いかけた。


強さとは、何なのだろう。


完璧な技術か。


誰もが認める勝利か。


それとも——


鏡の中の哪吒は、

ただ無言で彼女を見つめ返していた。





ガラっ。


レッスン室のドアが静かに開いた。


「あれ?哪吒さん?」


そこに立っていたのは、舞台創造科1年の鈴本華(すずもと はな)だった。


「舞台創造科……」


「このレッスン室、利用申請出してます?」


「エーデルの特権だ」


「あ〜」


納得の理由だった。


エーデルは学校の施設を自由に使用できる特権を持っている。


「お前は何しに来たんだ?」


「これ、忘れ物です」


華はノートを持っていた。


午前の授業でこのレッスン室を使ったのだろう。


「哪吒さんこそ何してたんです?

レッスン室ならもっといいのが別館にあるのに」


「1人になりたくてな……」


華は少し驚いた顔をしたが、

すぐに柔らかく微笑んだ。


「エーデル喧嘩したって聞きましたけど……」


哪吒は黙った。


二乃にビンタされた頬の、

鋭い痛みがまだ残っている。


この痛みの意味を知りたい。


なぜ自分があそこまで感情を乱されたのか。


「お前らは、何故舞台を作るんだ」


「はい?」


急に聞かれた華は、

少し驚いた様子で目を丸くした。


「舞台を作る理由ですか?」


華は少し考え込み、ゆっくりと答えた。


「みんなで作るのが楽しいからですかね」


哪吒は静かに聞いていた。


「キャストだけじゃ舞台が出来ないように、私たち裏方だけじゃ舞台はできないです。

みんながそれぞれの役割を果たして、初めてひとつの舞台が完成するんです」


哪吒は無言のまま、華の言葉を噛みしめていた。


「裏方でも得意、不得意あるんですよ。

私は衣装作成は得意ですけど、大道具とか小道具を作るのは苦手ですから」


華は照れくさそうに笑った。


「でも、そういうところが面白いんです。

苦手な部分を誰かに頼ったり、逆に誰かの得意なところを支えたり……

そういうつながりが、舞台を創る醍醐味だと思うんです」


哪吒の瞳が、わずかに揺れた。


1人で強くなろうとしてきた自分。

完璧を追い求めてきた自分。


華の言葉は、そんな哪吒の心に、

静かに波紋を広げていた。


「みんなで作る……か」


哪吒は小さく呟いた。


華はノートを胸に抱き、軽く頭を下げた。


「じゃあ、私はこれで……」


華が去った後、

レッスン室には再び静けさが戻った。


哪吒は鏡の前に立ち、自分の姿をじっと見つめた。


「私は……1人で舞台に立てると思っていた」


しかし、今、華の言葉が胸に残っている。


「みんなで作るのが楽しい」


その一言が、哪吒の心のどこかに、小さな風穴を開けていた。


エーデルとして頂点に立つ彼女は、

初めて「1人では届かない何か」について、

静かに考え始めていた。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……





夢を叶える物語である。


第3話 完

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