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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第6章「水の様に澄んだ心で」
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第6章 「水の様に澄んだ心で」 第1話

少女は強くあろうとした。



哪吒。



中国神話に登場する気高き戦士の名。


父に授けてもらったこの名を、

少女は強く胸に刻んでいた。


強くならなければならない。

強さこそが自分自身の宿命であると。


中国・四川省に哪吒は生を受けた。


幼少の頃、彼女はごく普通の少女であった。


しかしあの日、少女の運命を変えた。


外交官の父に連れられて訪れた日本。


空き時間に父に連れて行ってもらった大帝都劇場で行われていた舞台——



『SNOW WHITE』



洗練された動き、優雅な所作、

光と影が織りなす幻想的な世界。


そのどれもが、まだ幼かった哪吒の心を大きく、

激しく動かした。


あの煌びやかな舞台に、心を奪われた。


舞台の上で輝く役者たちの姿は、

哪吒の胸に、忘れられない光を灯した。


帰国した後も、哪吒は毎日のようにその舞台の記憶を反芻した。


父がくれた録画映像を、

何度も何度も繰り返し観た。


「私も……あんな風に輝きたい」


幼い哪吒は、そう願った。


強くなりたい。


誰にも負けない強さを手に入れたい。


そして、いつかあの舞台に立ち、

自分の光で観る者の心を動かしたい。


その日から、哪吒の日常は変わった。


学校の帰りにダンス教室に通い、

家では台本を読み、鏡の前で所作を繰り返した。


父に頼み込み、日本語のレッスンを受け、

演劇に関する本を片っ端から読み漁った。



少女は舞台に関するすべてを極めようとした。


歌唱、ダンス、アクション。


小劇場に入団してものの数ヶ月で主演まで上り詰めた。


それに飽き足らず、中国最大の劇団に移籍した。


無名だった少女は、いつしか中国全土でその名を知らぬ者はいない名女優になっていた。


それでも哪吒は足りなかった。


強さとは、完璧さだと信じていた。


だからこそ、彼女は妥協を許さなかった。


あの日の輝きを、渇望していた。


「哪吒、まだ10歳なのに次の舞台主演とか凄いじゃないか」


「ほんとよ。武術の腕も私たちより上だし」


「下手したら俺たち倒されちゃうかもな」


劇団員たちは笑っていた。


将来有望な女優が新たに生まれるのが嬉しいのだろう。


「頂点を狙うのだから当たり前。こんなんじゃ……まだ足りない」


舞台の中心に立つ哪吒。


ここは一人。


舞台の中心は一人しか立てない。


舞台は自分との戦い。


その信念こそ、哪吒そのものであった。


幼い頃に大帝都劇場で観た『SNOW WHITE』の輝きは、

今も哪吒の胸の奥で燃え続けていた。


白雪姫の強さ、純粋さ、

そして観る者の心を揺さぶる力。


あの舞台の光を、彼女は自分のものにしようと、

日々を削るように過ごしてきた。


歌の呼吸を極め、ダンスの軸を極め、

アクションの精度を極め、

感情の機微さえも極めようとした。


周囲が「天才」と囁くほどになっても、

哪吒は自分を許さなかった。


「まだ足りない」


鏡の前で何度も繰り返す所作。


夜遅くまで続く自主練習。


休むことなど、ほとんど考えなかった。


強くなければならない。


完璧でなければ、意味がない。


あの煌びやかな舞台に立つ資格を得るために、

自分を磨きに磨き続けた。


しかし、心の奥底では、

幼い日の純粋な「輝きたい」という想いが、

いつしか「負けてはいけない」という強迫観念に変わっていた。


舞台の中心に立つ哪吒は、

今も一人で戦い続けている。


完璧を追い求める少女の影は、

長く、静かに、舞台の床に落ちていた。






これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……





夢を叶える物語である。

第1話 完

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